米国の大学フットボールに、キチンと接するのもずいぶん久しぶり、と一種の感慨を持ちながら、海の向こうの成績を開いてみて仰天した。いきなり番狂わせが起きていた。でも納得した。これでこそアメリカ。平々凡々と勝敗が決まるような開幕第1週では本場ではない。
 ちょっと言い過ぎである。8月29日の木曜日から、9月2日の月曜まで、米国各地で行われた開幕戦に、全米ランキング25位までのチームが24校出場し、計22試合が行われた。この欄で取り上げたアラバマ大が3連覇へ好調なスタートを切ったのをはじめ、2、3位のオハイオ州立大、オレゴン大はいずれも大勝。唯一スタンフォード大が次週からだが、おおむねは順当勝ちの結果が並んだ。


 こんなとき注目されるのが、ランキング校同士の対戦である。「え、もう戦うの」と驚く向きもおありだろう。ともかく向こうでは選手入学の不正を阻むため、各校はスケジュールを4年前には決めるしきたりになっている。したがって、その後のランキングがどのようになったとしても、予定は予定通りなので、びっくりすることはない。
 この週は5位ジョージア大と8位クレムソン大、12位(監督投票13位)ルイジアナ州立大(LSU)対20位のテキサスクリスチャン大(TCU)の2試合が注目の的となった。結果はクレムソン大が38―35、LSUが37―27でそれぞれ競り勝った。


 さて、番狂わせだが、まずはワシントン大が38―6でボイジー州立大を破る波乱があった。ボイジー州立大といえば、近年ランキングの常連校となった新興勢力。ワシントン大は昔から名門として知られており、以前ならばこのスコアと結果を見ても、何とも思わなかったはずだ。だがワ大がランク外で、ボ州大が19位なのだから、これはもう番狂わせとして扱わねばなるまい。で、もう一つの波乱も太平洋岸だった。東ワシントン大がオレゴン州立大に49―46で勝った試合である。
 地域的な一致はあくまでも偶然で、何ら関連性はあるまい。注目すべきは両校の「格の違い」だった。オレゴン州立大は強豪リーグ「太平洋12大学(Pac12)」の昔からのメンバーで、今季はランキング25位に位置していた。月半ばからの同リーグ諸校との激戦に備えて、まずは開幕当初の小手調べ、という感じだったろう。一方の東ワシントン大はビッグスカイという組織に所属し、そこの優勝候補の一つではあった。


 しかしオ州大がメジャーと呼ばれ、全米の王座争いに堂々と参加できるFBS126校の一員であるのに対し、東ワ大は全米の王座争いとは無縁のFCSと呼ぶ120余校に属しているチームだった。以前の格付けでいうと、同じトップクラスの1部校でも「一部A」のメジャー校と、格下の「一部AA」のスモール校の対戦なのだ。もっともAAにはあのアイビーリーグをはじめ、古くからのサザンとか、ミズーリバレーといった伝統的なカンファレンスも存在する。しかしランク校と一部AAは実力がかなり違う。順当ならオ州大快勝のはずだった。


 相手の本拠地へ乗り込んだのは東ワ大。これだけでもハンディである。それがオ州大に堂々互角の勝負を挑んだのだった。立役者はQBバーノン・アダムズ。4本のTDパスと自らTDラン2本をマーク。ケビン・ミラーの3FGと合わせて、49点を奪った。46点を許したが、軍配は点取り合戦に勝った東ワ大に上がった。
 試合は最後までスリリングだった。第1Qは東ワ大が2FGを挙げたのに対しオ州大がTDパスを決めて、東ワ大6―7。第2Qはアダムズのパスがさく裂し、計3本のTD。TFPのキックを一つブロックされたが、オ州大の得点をFGとランのTD一つの10点に抑え、29―17で折り返した。


 後半東ワ大は地元オ州大の強烈な反撃を浴びた。TパスとTDランを連続して決められ2点のTFPと合わせて、29―32と逆転を許した。流れはオ州大に傾くかと多くのファンは思っただろう。だが試合はここから激しいシーソーゲームとなった。アダムズが自ら走って36―32で勝負を第4Qへ。第4Qはまずオ州大。1分14秒にQBショーン・マニョンがTDパスを決めてリードを奪うと、東ワ大は4分30秒、アダムズがブレア・ボンバーへTDパスを通し再逆転した。スタジアムには4万1649人が詰めかけていた。しかしその大半はオ州大のブースターだったろう。その目の前で東ワ大は臆することなく持てる力を発揮した。


 試合はさらに盛り上がった。オ州大は自陣33ヤード地点からランク校の誇りを掛けた反撃を開始した。マニョンのパスを軸に、テンポよく前進。相手陣に入ってからの、第3ダウン14ヤードの正念場をパスでしのぎ、テロン・ワードが4ヤードを突進して、67ヤード12プレー、5分40秒をかけたTDドライブを締めくくった。43―46、残り時間は4分50秒。東ワ大に残されたのはワンチャンスだった。
 難しい点差、つまりFGでは同点にしかならない。難しい時間、つまり速攻で点を取れば相手に最後のチャンスを与えかねない。格下のチームが格上の相手に対して、この場面をどう乗り切って白星をつかむのか。東ワ大のボー・ボールドウィン監督はこの難問を見事に解決して見せた。こまごまと詳細を述べるスペースはない。これまで獅子奮迅の活躍を示してきたアダムズに全幅の信頼を置いた「決勝ドライブ}は4分32秒を費やした75ヤード11プレーとなって実を結んだ。


 スタートこそパスを使って50ヤード線を越えたが、この後はパスに備えるオ州大の裏をかいた。控えのQBを使い、アダムズの脚力をフルに利用して、オ州大陣深く攻め込んだ。とりわけ相手の20ヤード線からアダムズが中央を抜けて16ヤードを進んだランは大きかった。残りは2分を切った。ゴール前4ヤードに迫った東ワ大は、時間をゆっくりと消費しながらこの4ヤードに挑んだ。タイムアウトを使って抵抗するオ州大。しかし最後は大黒柱アダムズが2ヤードを突破して49―46と決勝TDを挙げた。18秒が残った。オ州大は2プレー目で同点のFGを狙ったが不成功だった。


 最後のドライブについて、アダムズは「この場面を乗り切れば大いばりだ。委縮することもなかった」と胸を張り、ボールドウィン監督は「印象的な試合だった。アダムズが全部やってくれた」とこの3年生QBに目を細めた。
 なおFCSのチームがメジャーのランキング校を破ったのは、2010年のジェームズ・マディソン大がバージニア工科大を破った試合と、2007年にアパラチアン州立大があのミシガン大に勝った試合の2度だけ(もちろんFBSとFCSの試合数そのものが少ないこともある)。今回は3度目である。

【写真】LSU―UAB、TDレシーブをキャッチして喜ぶLSUのWRベッカム=7日(AP=共同)