「こんなに良い子って、本当にいるんだ」。これが、今回取り上げたIBMのK/P佐藤敏基選手を表現する最も正しい方法だと思っています。


 言動の端々に、育ちの良さがにじみ出ています。僕の住む世界には決していないタイプの人です。親御さんが素晴らしい育て方をされたんだなと関心しています。
 自分の娘はこういう人に嫁げば幸せになるんだろうなーと心の底から感じています。佐藤選手は僕のお店でアルバイトをしてくれていたこともあり応援しています。
 その彼とじっくり話をする機会があったので、ご紹介します。


 ―どんな子ども時代だった。
 「平成5年(1993) 生まれの24歳で、血液型はO型。3歳上の姉がいて幼稚園の時は鼻水垂らして走り回っている普通の少年でした。小学校では剣道とサッカーを楽しみ、中学校ではサッカーだけをしていました」


 ―高校からアメリカンフットボールを始めたきっかけは。
 「高校は早稲田学院です。サッカーではプロには行けないと思っていたし、新しいことでも始めようと思ったので、前年度全国大会準優勝のフットボール部で日本一を目指してみようと思いました」


 ―最初からキッカー、パンター。
 「最初はQBだったんですが、2年間試合には出場できない控えでした。そして2年生の終わりに膝に大けがを負い、ようやく治って復帰したら今度は肩をけがしてボールを投げられなくなったんです。なので、キッカーのボール拾いを手伝ってる時に何となくボールを蹴ってみたら結構うまくいったので、それからはキッカー専任としてレギュラーに定着しました」


 ―高校時代の成績は。
 「僕が2年生と3年生の時に連続日本一になって、3年時にはレギュラーで出場していました。現在オービックで活躍するWR西村有斗君が同い年の3年生、今の立命館大学のエースRB西村七斗君が1年生だった大阪産業大学付属高校と、決勝戦のクリスマスボウル2011で戦い10―10で引き分けました。このあと早稲田学院は4連覇するんです」


 ―そのまま早稲田大学に進学やね。
 「もちろんビッグベアーズに入部です。1年時は控え選手。2年時から3年間はエースとしてプレーしました。3年時にはフィールドゴールを9回蹴って9回成功という当時の関東大学記録を樹立。でも、チームはリーグ4位という結果でした。甲子園ボウルは日本大学が出場し、現リクシルの高橋遼平君が1年生クオーターバックとしてプレーした年です。そして甲子園ボウルに出場した4年生時には4年間通算のFG成功数が22本で1位(現在は破られている)になったんです。記録が途切れたのは、タモンさんによくいじられる、立命館との甲子園ボウルの試合終了間際に52ヤードのFGを外して負けちゃったあのシーンです」


 ―その3カ月ほど後に、僕がコーチをしていたIBMに入部してきたんだよね。最初はお互い全く知らない者同士だったよね。
 「はいそうです。一緒に入部した早稲田の同期にはQB政本悠紀、LBコグラン・ケビン、SF寺中健悟、DL村橋洋祐、WR竹村大和がいます」


 ―最初は普通に仕事をしてたよね。
 「はい、不動産会社に勤務しながらIBMでプレーすることにしたんです。Xリーグの多くのチームから誘ってもらったのですが、まだ日本一になったことがないIBMで日本一を目指してみたくなったから選びました。高校では同点優勝、大学ではもう一歩で日本一になれずでしたので、日本一にはこだわりがあるのです。元々強いチームじゃなく、自分がしっかり役に立って(活躍して)チームが勝利する。そのイメージが湧きやすかったのがIBMでした」


 ―なんで急にそんな気持ちになったの。
 「NFLに挑戦している中央大出身の櫻井義孝氏が、日本に連れて来た2年前までNFLのキッカーをしていたアメリカ人(注1)のキックを見て『あ、プロといってもこんなもんなんだ。もっとバケモノ級かと思っていたけど、これなら絶対勝てないってわけでもないな』と感じたんです。勝てない存在だって自分で勝手に決めていただけなのかと気づいたんです。挑戦してやろうと、その時に強く思いました」


 ―それで会社を辞めたんだ。
 「やっぱり退路を絶って行かないと駄目かと思って。僕が受けられるNFLのトライアウトは年間2度程度なんですよ。それプラスNFLコンバインが1度あるかどうかなんです。だからずっと練習をしているよりも、日本で試合に出て『勘を磨く』ことはとても重要だとアメリカのコーチに言われています」


 ―アメリカでは観光ビザで滞在してるの。
 「いえ、長期滞在のためにも語学学校に入って学生ビザを取得しました。移動に車も必要なので安い中古車を買いました。日本に戻っている時はコーチ(注2)の家に置かせてもらっています。


 ―アメリカではどんなサイクルで練習とかトレーニングしているの。
 「学校は月曜から木曜までの週4日行っています。キックの練習は週に2、3回。ジムで毎日トレーニングをしています」


 ―週に2、3回だけしか練習しないの。
 「違うんです。キックは偏った筋肉で強い力を出す特殊な運動なので、毎日蹴っちゃ駄目なんです」


 IBMは11月26日のジャパンエックスボウル・トーナメント準決勝でパナソニックと対戦します。
 「絶対勝ちます」と意気込む佐藤選手は、来年1月にまた渡米します。
 日本人初の「シーズンを全うするNFL選手」になることを目指して頑張っています。ぜひ皆さんも応援してあげてください!


(注1)NFLで14年のキャリアを積んだ名選手 ビリー・カンディフ氏
(注2)NFLで9年プレーしたマイケル・ハステッド氏

【写真】NFL入りを目指すIBMのキッカー佐藤敏基選手(左)と多聞さん=写真提供・中村多聞さん