「どんなに工夫を凝らして構成された良い作戦でも、全員が集中して高いレベルで訓練を積まなければ成果は出せない」という考え方は、あらゆる文献で散見されます。
 僕もこの考えに強く同意しています。


 フットボールは擬似戦争であることは周知の事実ですが、指揮官が定めた作戦をそれぞれの階級がそれぞれ与えられた役割をこなして目的を果たす。
 これは戦争でなくても、組織やグループ、会社でも同じようなものだと思います。もちろんフットボールチームも同様です。


 しかし、良い作戦を用意するだけで勝負が決まるテレビゲームではないのが、大勢のプレーヤーが存在するフットボールの面白さでもあります。
 1対1の戦いで「ミスをする」「間違う」「ねじ伏せられる」「怖くなる」などというさまざまな事象が絡んでくるのが現実の戦場(フィールド)です。
 心の安定や肉体の優劣など、試合中(もちろん練習でも)には指揮官の想定内とはいえいろいろなトラブルが起こります。


 相手チームの戦力が弱い場合は、どのような戦略や戦術を実行しても勝利することは簡単ですが、自チームと同格だと当然苦労します。
 その時にさほど訓練を積んでいない戦術を用いた場合、相手の不意を突くことができれば成功の可能性は上がりますが「あ、その手で来たか」と構えられればそれまでです。


 付け焼き刃の戦術では、選手個人個人があらゆる想定の中で失敗と成功を経験せずにぶっつけ本番ですので、結局のところ真っ向勝負になってしまい「元々の実力勝負」となっていることがほとんどです。「じゃあ、何のための新戦術やってん?」となりますね。


 アサヒ飲料時代の藤田智ヘッドコーチ(現富士通HC)は、大事な試合前にこのようなことを言いました。「戦術の部分は俺に任せとけ。君らは戦いの部分に集中しなさい」と。
 これぞ役割分担です。言い換えると「お前らは未成熟な下手くそ軍団なんだから、作戦のこととかゴチャゴチャ考えてないで、前に立ってる敵をぶっ倒すことだけ考えてろ」ということです。


 ただ、作戦遂行だけに集中はするけど、いつまでも下手くその未成熟ではダメですので、練習を積んで積んで積みまくることに耐える強い心と体が必要になってきます。
 敵が強ければ「スルッとかわしてあの作戦だね!」なんて考えでライスボウルを目指しても、残念な結果しか待っていないでしょう。


 他のチームが見たら吐き気がするほどのキツい練習をし、目隠ししていても11人全員がフルスピードでセットプレーを完結できるほどに反復してこそ、工夫を凝らして構成された良い作戦が生きてくるのだと思います。
 目隠しは極端だとしても、少なくとも相手がどうあれ「仕事を間違う」というミスは消え去るはずです。


 作戦を考える人は作戦を考えるのが得意な人です。僕はそういう連中を「頭脳派」と呼んでいます。
 彼らは考えるのが好きなんです。だからいくらでも良いアイデアが浮かんでくるのでしょう。おそらく無限に提案することができるのだと思います。


 しかし僕のような体力と勘で勝負する「武闘派」だった者には、成功するかどうか未知数な新しい作戦に時間を取られる(自分以外がちゃんとできるようになるかどうかを管理するのも難しい)くらいなら、現段階でパーフェクトに遂行できていない作戦の精度を上げたい、というのが本音です。


 作戦を考えない人は、新しい作戦を覚えるだけで相当なエネルギーを要します。それを高いレベルで成功させなければならないという使命感は頭脳派の選手より多くあるので、たくさん練習しようとします。
 そうなると単純に一つの作戦に使えるエネルギーや時間が分散され、自身のパフォーマンスの精度が下がってしまうことを嫌います。


 致命的なのが「仕事を間違う」というミスです。相手に倒されるなら仕方ありませんが、仕事を間違い続ける仲間がいてもその作戦は実行されることはよくあります。
 作戦を間違うなど、戦争ならば仲間の死を意味します。これはダメです。しかし、NFLの世界ではそのようなミスは即解雇になります。


 作戦を間違う人など存在しません。大きくて強くて意志が強くても「能力が低い」という評価になるわけです。
 まずは攻守ともに作戦を忠実に守りつつ、相手との強烈な激突があり、しのぎを削り合うのがフットボール本来の姿でしょう。


 ほとんどの選手が「仕事を間違う」ことのないギリギリの作戦量で精度を上げて選手個人個人の力で相手をねじ伏せて勝つ。昔僕がテレビで見た日本のフットボールは、そういう面白さに溢れていました。


 現代に比べ体は細く背も低い高校生レベルのサイズですが、アホな間違いなど滅多に見られませんでした。
 NFLに匹敵するような作戦量があり、大きくて速い選手がドンドンと出てきている日本のフットボールが勘違いして迷い込んではいけない所ではないかなと思っています。


 僕の所属するノジマ相模原ライズと早稲田大学は、チャンピオンシップゲームには届きませんでしたが、来季もハートのあるファイトを皆さんにご覧いただけるように邁進していくはずです。頑張れみんな!

【写真】法大との試合後、教え子の早大RB陣から握手を求められる中村多聞さん=11月12日・横浜スタジアム(写真提供・柴崎幹夫さん)