早稲田大学も試験期間が終わり、いよいよシーズンインの時期になりました。そしてノジマ相模原ライズは既に合宿も終え、開幕に向けた実戦練習が始まっています。
 僕も両チームコーチとして入団してから1年が経過し、選手やチームの体制などに慣れてきたところです。


 ランニングバック専門の技術伝道者として「みんなのやっているフットボールは変だよ。普通のアメリカ人はこうやっているんだよ」と、さまざまな考え方や取り組み方、細かいテクニックなどを紹介しています。
 これから彼らは長いシーズンを戦っていきます。試合はやってみないと分からない部分もありますが、選手として昨年より何かが向上していなければ僕の存在意義がなくなってしまいます。


 結果の対語は原因。これは小学生の時に習いました。出た結果には必ず原因があるという意味ですので、ランニッグバックでいうと「原因」すなわち「日々の取り組み」と考えます。
 何かミスをしたとしても、試合中の瞬間的なトラブルだけが原因とは言えず、そのようなミスを犯しかねない取り組みだったからと考えます。


 ランニッグバックのミスといえば、専門的なことを何も知らない別のポジションやファンでもわかる「ファンブル」が代表的ですが、雨が降っていたから手が滑った、敵のタックルが丁度ボールのところに来たなどと、その瞬間の原因もありますが、もっと深く考える必要があります。


 僕は選手たちに「〝フットボール〟を気安く触るな」と指導しています。アメリカでは、ボールそのものを「フットボール」と言います。
 練習やその前後にフットボールを運んだり、チームメートとキャッチボールしたりでボール遊びをすることがあると思います。


 この時に「フットボールへの執着心」が損なわれるのです。チームメート全員が見守る真剣な練習中ではないので、飛んで来たボールを落としてもいいという安易な考えの繰り返し、これを「原因」と考えます。


 ランニングバックやその他のボールを持つ役割がある選手は、この「いい加減な気持ちでフットボールを触る」という機会を是非ゼロにしてもらいたいと思っています。
 子どもの頃から慣れ親しんできたおもちゃでもなく、たまたま始めたスポーツで使う道具である「フットボール」ですが、そもそも持ち慣れていません。


 腕も短く手も小さい日本人がタックルされても、あのボールを離さないでいるなど至難の技です。しかし、自分の大切なものならどうでしょう? 
 大量の札束や高額なもの、祖先から受け継いだ唯一無二のお宝、そのようなものを持ち運んでいる時に意識を失う以外のことで手を離すでしょうか。


 自分の体や命より大切だと感じているからこそ落としません。でも「フットボール」はどうでしょう。チームから預かった大切なお宝ですが、タックルされた時などにしばしばグラウンドに落とします。
 プレー中は必ずそのようなことが起こることを、NFLもNCAAも知っているからこそ「ファンブル」というトラブルをルールに残しているわけで、完全に防ぐことは不可能であります。


 しかし、だからこそそのような「結果」を生み出さないためにも「原因」にこだわって練習していかなければなりません。
 「フットボール」を持つときは、プレー中でもプレー中でなくても思いきり握りしめて持つ。フットボールの持ち方は思いきり握るものなのだと、自分の体に覚え込ませるのです。というような細かい細かいことを延々と講釈をタレながらコーチ業を楽しんでいます。


 僕にとってフットボールは人生そのもので、子どもの頃から何もかもフットボールを中心に生きてきました。
 それでも大した結果を残せずに37歳で限界を迎え、引退しました。その後約10年間、全くフットボールに関わらずに生活してきましたが、なぜ関わらなかったかといいますと、仕事や家庭、あるいは遊びの合間にできるフットボールはフットボールではない、という考えが強くあるからです。


 フットボールを装ったレジャーはフットボールではなく、競技としてのフットボールを大切にしたいという気持ちでした。
 フットボールに全身全霊捧げて打ち込み、熱中し過ぎて仕事や家族、そして人生そのものが破綻してしまうことも厭わなかった現役時代を振り返ると、もう一度手を出す気になれなかったのです。


 しかし、そんなトンガリまくった誇り高き僕も年を取り、いわゆる「アラフィフ」となりました。「自分の経験や知識を業界に還元せなアカンで」という有識者からのご意見で気が変わりました。
 まずは仕事の合間にやってみようと。でも、やっぱり僕にはフットボールを仕事の合間にやることはできないようです。


 つい入れ込んでしまいたくなるのですが、残念ながらフットボールの技術指導だけでは大学生の子ども二人がいる家庭を東京で維持していけるほどの財力を確保できません。
 ですから現在は、できるだけ多くの日数を選手と過ごすことしか努力できていません。つまり全身全霊を捧げるには程遠い取り組みです。


 選手時代の10分の1もエネルギーを費やせていませんし、活躍しなければならないというプレッシャーもありません。
 対戦相手の分析をして作戦を考えるなどの役割もないので、コーチとはいえ試合が近づくと仕事が激減し、ともに戦っているという感覚は薄れていきます。


 そんな体力的にも精神的にも楽な状況に違和感を抱いていたのですが、先週「戦う方法」を思いつきました。
 それは僕自身の肉体改造です。現役時代は食事を調整しトレーニングを怠らなかったのは強くなりたいからだけではなく「太ってしまう」からでした。


 それでも年間4カ月の貴重なオフシーズンには、体を大きくしておかないと強くなれません。
 シーズンに入りジワジワと減量していき、春の決勝戦あたりと、秋の終盤の年2回を減量のピークにしたものでした。


 その時に培った栄養やトレーニングの知識は、現代の最新情報と照らし合わせても根幹がそれほど変化していないようです。
 そこで、元ノジマ相模原ライズのランニングバック、現タモン式ランニングバック養成所肉体改造ディレクターの村岡大樹氏からアドバイスを受けながら、約125キロに膨れ上がった体を今シーズンの終わり(ノジマ対早稲田のライスボウルになることを願う)には99キロになれるよう、挑戦を始めて数日が経ちました。


 村岡氏曰く「減量は多くの人に宣言しておくのがコツ。そうすれば逃げられなくなる」ということなので、SNSではなくこちらのコラムを使わせていただくことにしました。


 ランニングバックの技術向上も自分が本当にやると決心して、自分自身を励まして成長させていかなければなりません。
 「また負けてしょんぼり会場を後にしたいのか!」「勝ちたければもっとやれ!」なんて偉そうに選手には言ってる僕ですが、彼らの苦しみやしんどさを少しでも感じ取れるように、僕も自分にとって大変なことにチャレンジしてみようと決めました。


 まあ一番の問題は、僕がクラフトビールとハンバーガー専門店を経営していて、味見も仕事の一つであるということですね。
 厳しいシーズンを勝ち抜いて最後には美味しいビールをガブガブ飲めるように、選手の後ろをついて行きたいと思います!

【写真】多聞さんの肉体改造アドバイザー村岡大樹氏=写真提供・中村多聞さん