僕の主宰する「タモン式ランニングバック(RB)養成所」は、短期的な試合結果よりも「その選手がうまくなるかどうか」にこだわって活動しています。
 そのためには、一年365日の中でアスリートとしてどのように生きていくかに始まり、練習での取り組み方、考え方、約束事やルールを定めて一緒に時間を過ごしています。


 スクリメージ練習ならば、22人の中で21人がプレーをやめるまで止まらない。ロングゲインしてもダッシュで戻りタモンコーチのコメントを聞く。決して下を向かないといった、上級者でなくても今からすぐにできることに、うるさく注文を付けます。


 技術面ではあらゆる局面での対処法と考え方、練習や試合での気持ちの持ち方、体力面でも100マートル走のタイム短縮術、40ヤード走のタイム短縮術、基礎体力作りなどを通してレクチャーしています。
 カリキュラムの全てを実施する時間がない場合は、縮小短縮して選手個人個人に合わせた内容で進めていきます。


 練習や試合のレビュー(ビデオを見ながらの反省会)は、なるべく一人ずつ(社会人は時間がないので全員同時)行い、一つのプレーを細かく分割してしっかり話し合って、考え方の修正と目標設定をします。
 僕からは「駄目だし&理想論」で攻撃され、どう考えてプレーしたか、なぜこうしたのか、ではどうすれば良いと思うなどと、時間をかけて最高のプレーを頭に描けるようになるまで話し合います。脳みそで理想の動きを描いてから、実際の場面での挑戦が始まるからです。


 前回、昔の僕は「どうすれば良いかが、わからなかった」と書きましたが「こうすれば良い」という答えが出やすくなるヒントをサクッと提供してしまいます。
 算数ではないので答えは必ずしも一つではありませんが、多くの選択肢からその選手に合った方法を選び出し、選手自身が立てた目標に向かって次回の練習に取り組みます。僕はこの回答を得るまでに「6チーム10年」を要し、手にしてから9年の選手活動を過ごし、引退後も毎年見識を深めバージョンアップさせてきた答えですが、これらを全て対象の選手に埋め込みます。


 タモン式ランニングバック術で重要なのは、学ぶ力です。あいにく日本の名選手は高校からスポーツ特別推薦で、学力テストを免除されて就職までこぎつけている人が多数います。
 ですから「学ぶ力」が著しく低い人も稀に存在します。世の中にはそもそも学ぶ能力が欠落している人、学ぶ気のない人、などというさまざまな種類の「学べない人」がいます。


 この人たちに、今まで聞いたことのない技術や考え方を指導するには、こちらの根気が非常に求められます。しかし根気が良すぎて時間を掛けすぎると選手としての寿命が先に来てしまいます。
 才能にあふれていて力を発揮している人はそれで良いのですが、まだまだ眠っている力がある選手がほとんどです。うまくなるのが先か、引退が先かという話になります。


 さてその「学ぶ力」ですが、どんな選手でも今よりうまくなりたい、活躍したいという思いがあります。少なくともトップリーグの選手は必ずそうでしょう。
 今よりうまくなるためには、今と同じことをあと数カ月継続していればいい、というのも正解です。未成熟な選手なら特に当てはまります。
 しかし、既にトップレベルにいる選手だと、この方法では上達しづらくなります。そこでタモン式が登場します。


 「ランニングバックはコーチできないポジションだ」とよく言われます。確かに教えるのは簡単ではありません。
 しかし「やってはならないこと」と「やらなければならないこと」がタモン式ではハッキリさせてありますので、それをすべてのプレー時間で成し遂げられているかどうか、やろうとしているか、どれくらいできているかに目を光らせ、プレーヤーにフィードバックします。
 そして、前述の「どう考えてプレーしたか」「なぜこうしたのか」「ではどうすれば良いと思う」が出てきます。ここでまず学ぶ力が低い人とそうでない人との差が出ます。


 以前学んだことを全く覚えていない。でもメモしない。ミーティング中に食事をする。居眠りをする。予習、復習をしない。特に深く考えていないので質問もしなければ疑問も持たない。
 黙って真面目に練習を繰り返しているだけです。「やる気ないの?」と質問すれば「そんなまさか、今日もやる気150パーセントです!」なんて調子です。


 スクリメージ練習では、自分がプレーを終えたらこちらに戻って来て「即駄目だし」を聞いてもらいます。
 しかし、これもあまり効果はありません。自身がプレーを終えるとある程度の達成感でコーチタモンの評価を聞きに来るのを忘れてしまうのです。


 超一流で大物の選手ほど、自分のプレーを気にしてすぐに聞きに来ますが、残念ながら補欠の選手はそうはいきません。
 今まで1プレー1プレーを寸評してくれる指導者に巡り会ってこなかったので、慣れていないというのもあるでしょう。プレーを終えたらいち早く戻って来て対話し、少しでもイメージを良くして次に備えるのがタモン式のルールです。


 ダラダラゆっくり戻って来て途中で友達と話し、先輩と話し、次に始まるハドル内でプレーコールに聞き耳を立て、結局コーチタモンの所までは戻ってこない。そして、しばらくして思い出して「さっきの僕のプレーどうでした?」と聞いてきます。


 僕は細かく分析するので1プレー内での情報量が多く、3プレーも4プレーも前のことは覚えていません。
 結局その情報を共有できるのは練習終了後のビデオレビュー時になります。そこで得た情報を元に練習で試せるのは次回になり、時間が過ぎていきます。こんなバカな話はありません。


 その場ですぐに反省し、次のプレーで実験&チャレンジしなければ上達の図式が成り立ちません。社会人なら「また来週」となり、先週のことは覚えていないのでまた一からやり直すことになります。


 僕がNFLヨーロッパ時代には、1プレー1プレーを細かく指導してくれるコーチがいて、毎プレー毎プレー終わるごとにそのコーチの元に駆け足で戻り何らかのコメントをもらおうと一生懸命でした。
 最初はかなりの数あった問題がだんだん解消し、たまにそのコーチから「OK」が出たりすると、同時にアメリカ人選手たちらからも「Good job」と声を掛けらます。


 周りからの目は確かであり、自分が「今の良かった!」と勝手に感じている時間を惜しんで周囲の評価を気にすべきでしょう。
 これにより「自分がどう感じるか」、つまり自己採点の能力が著しく欠落していることにも気付かされると同時に、自分の少しばかりの成長を感じつつ必死にコーチからの情報をつかもうとしていました。


 反射神経に勘、苦痛に耐え得る体と心、爆発的なパワーとスピード、強い責任感と強運などなどが備わっていることがトップを目指すための最低限必要な条件ではありますが、残念ながらそれだけではチームがかなり強くないと勝ち続けられません。


 ランニングバックという職人技にも基礎や理屈があります。これを脳みそに植え付け自分専用にカスタマイズし、どんな時でも使える「必殺の武器」を体に備え付け、ゲーム中に起こりうる全ての問題を想定した訓練を実施するのがタモン式ランニングバック養成所のカリキュラムです。

【写真】独自の理論を確立、実践し2年連続で社会人ナンバーワンになったアサヒ飲料時代の中村多聞さん=写真提供・中村多聞さん