少しの間、休載していました。次女の高校卒業式と引っ越しがあり、そこにノジマ相模原ライズのパールボウルトーナメントに、早稲田大学が毎週試合などなど、フットボールシーズンも春の終盤。バタバタでゆっくりと執筆の時間が取れませんでした。


 引っ越し作業が滞る最大の原因として、懐かしい写真や思い出の本などをつい読みふけってしまう、などがありますが、我々フットボール関係者は「昔のビデオ」も作業の邪魔をしてくれますよね。
 我が家には高性能なVHS再生機が2台常備してあり、随時HDDに録画し、必要なものはDVDにコピーする作業をしています。


 僕はNFLをかじって来た日本でただ一人のランニングバックだとか、日本選手権や社会人選手権で活躍したことがあるなどという触れ込みで、とても偉そうに「ランニングバックコーチ」をしています。
 指導対象である選手の一挙手一投足を観察し、わずかなミスや不注意も見逃さず「アホ、ボケ、カス!」と怒鳴り散らすいわゆる昔ながらのコーチです。


 「何べん言うたらわかんねん!」「また同じミス!」気合い入れろ!」「勇気出せ!」「ビビんな!」「相手をぶちのめせ!」「思い切りやれ!」「目ん玉広げて敵を見ろ!」「逃げるな突っ込め!」「頭を下げるな!」「何が何でもエンドゾーンまで行け!」「足を前に出せ!」「気持ちを込めろ!」なんて根性論を延々と繰り返しています。


 我がタモン式ランニングバック養成所は「日本のランニングバックのスタンダードを変える」という理念のもとに活動しておりますので、もちろん日本最高の技術論も山ほど用意しています。
 しかし、その技術は途方もない数の反復練習をやった後に自然と身につくものがほとんどなので、まずは「魂込めて全力でプレーする」という条件を最初に押し付けます。
 実はこれだけでパフォーマンスは50%増しになりますので皆さんも是非お試しください。まあたいていの選手は「全力」をはき違えていて、なかなか難しいようですが。


 VHSビデオの話ですが、1990年代前半に三武ペガサスでプレーしていたビデオが出てきました。春のパールボウルです。「懐かしいなー、ちょっと見てみるかー。確か活躍した記憶あるなー」なんて気軽に再生ボタンを押して自分の動きをチェックします。
 当時のナカムラタモン選手、確かにボールを持って「行けそう!」な時はまあそこそこ良い走りを見せる時もあります。


 アイ(I)フォーメーションのフルバック(FB)についたナカムラタモン選手は、真ん中のランブロックも何とか必死でやっているのがわかりました。それでも75%はしくじっています。
 ただ、パスのプロテクションや外へのランブロックが素人丸出しのど下手くそ。全く役に立っていません。どちらか言うと邪魔です。


 そのせいか、自分に飛んでくるスクリーンパスは「パスプロをしくじって振り向くとボールが飛んでくる」という筋書きですので見事にはまります。
 お察しの通り、さっきまでパスプロではしくじりまくっている僕を誰も警戒していないからです。とはいえ、まあ雑なフットボールをしていました。こんな輩がよくもまあ偉そうに人様に指導しているなと自分でも感心してしまいます。


 この時の気持ちを思い出してみると、全てのプレーに一生懸命貢献しようとしてはいるのですが、具体的なやり方がわからなかったのです。
 一つ一つのプレーで役割が細かく決まっていて指示されますが、紙の上での作戦です。実際の局面では予定していた場所に敵がボンヤリと立っていることはありません。こちらの動きや作戦が同じでも、常に相手が同じ反応をすることなど絶対にないのです。


 ですから「フットボールインテリジェンス」が著しく低い僕は「どうすべきなのか」が思いつかないのです。
 「応用が利かない」のです。でも気持ちは必死です。サボる気も毛頭ありませんが、先輩たちからは「オメーはボール持たねー時は、全然マジメにやらねーな!」と指摘されていました。


 一流校出身の先輩方は、僕のレベルがこれほどまでのアホだとは気づかなかったのです。ミーティングでは僕もわかったような気になるので「はい、わかりました!」なんて良い声で返事するのですが、試合だと全くダメでした。


 これはその後に移籍したサンスターでも同じでした。守備隊形ごとに変化する攻撃の役割を覚えることができず、迷ったプレーばかりでチームの役に立つ選手とは言えませんでした。
 ただ、ボールを持つプレーは役割が理解しやすいので思い切りやれました。ま、僕のことはこれくらいにしておきます。


 今のフットボールの作戦面は、20年前とは大きく変わっています。緻密で、並び方だけでも途方もない種類が用意されています。
 まあ、たまには失敗もあるさという昔のフットボールは影も形もありません。


 こうした状況で、ランニングバックの能力は昔の何倍も求められます。社会人リーグではアメリカ人QBが主流になっていますので、英語の理解力も必要です。下手をすればミーティングまでもが英語で進行されます。


 元サンフランシスコ49ersの殿堂入り守備バック「ロニーロットさん」が、ドイツの飲み屋で酔っ払いながら自分の胸を指差しながら言った「おいタモン、フットボールはココやココ」で教わった「フットボールは結局根性」論ではありますが、最近の日本ではあまり必要とされていません。


 とりあえず現在の日本では、根性よりも知力や理性が求められています。チームメートへの優しさ、社会や学校での礼儀や規律正しさも持ち合わせていなければなりません。


 学生ならば学業、社会人なら仕事と家庭もしっかりやらないと絶対にやっていけない時代です。朝まで酒を飲んでそのまま試合。タバコを吸う、コーチを殴る、後輩を殴る、街で暴れるなどの体育会特有の因習はもはや化石です。
 文武両道でないと一流と認識されなくなっているのです。僕など到底やっていけない世界です。20年前で本当に良かったと思います。


 しかしですね、それは僕が低いレベルで競技していたからです。「日本一」やそれに準ずるような目標を本気で掲げているなら、そんな小さな枠に収まっていてはアカンでしょう。
 インテリジェンスを磨き、体力も技術も根性もライバルを上回っておくのは当然です。チームから与えられた宿題だけやっていても勝てるわけがありませんし、最後に負けて泣くのは自分たちです。


 負けて泣くなら、泣くほど練習しておいてください。自分を信じて、人がやっていないこと、人が思いつかないことを徹底的にやり続けて、満足のいく結果をつかみ取りましょう。
 しっかり頑張って目標のトロフィーを手に入れ、幸せな現役時代だったと言える思い出を作ってくださいねー。

【写真】NFLヨーロッパ時代の中村多聞さん(左)とNFL49ersの元名DBロニー・ロットさん=写真提供・中村多聞さん