甲子園ボウルのサイドライン、初体験してまいりました。結果はご存知の通り早稲田大学は関西学院大学に敗れ「準優勝」となりました。


 慣れない相手と大舞台で一発勝負の戦い方は相手の方が上だった、という思いです。試合中は、ひるんだり臆することもなく仲間を信じ、普段通り伸び伸びとプレーする選手たちを、本当に頼もしく感じました。
 そして負けが決まった残り時間わずかの中でも、しっかりとフットボールをする姿に胸を打たれました。僕だったら冷静さを保つのはとても無理だったと思います。


 1年間に一チームだけの「優勝」はつかめませんでしたが、これほどまでフットボールに打ち込んで過ごして来た学生時代は、これからの彼らの人生でとても大きな宝物となるんだろうなと思いました。
 僕は春シーズンを見ておりませんが、暑いオフシーズンの自主トレからランニングバック陣と楽しくやって来ました。


 そして8月には山中湖合宿で総仕上げをし9月に開幕戦。負けそうになったり負けたりと大変なシーズンを過ごし、運も味方して関東リーグで優勝。僕の感覚ではこの時点まで「関西のチームと戦う」ということがあまり現実的ではありませんでした。
 もちろん甲子園ボウルがあることぐらいは理屈でも頭でも分かっています。でも現場としては毎試合毎プレーが勝負なので、12月に対戦するだろう関西優勝チームなんてものは見えなさすぎるのです。遠すぎるのです。


 ネットや雑誌などで情報としてはいろいろ入って来ますが「関西学院大学か立命館大学を絶対にぶっ倒してやる!」というモードではないのです。
 本気の本気でそこに魂が向いていないといいますか、関東リーグ優勝というものが重すぎて、気がついたら相手が「関西学院大学」だという現実がやって来た、という感じでした。


 実際にゲームをしてみれば、いわゆる「試合巧者」な部分でだんだんと裸にされていった、といったところでしょうか。
 こちら側の凡ミスも重なったりで、終始有利な状況を生み出すことができなかったのも、関西学院大学の「巧さ」によるものなのかなと思いました。


 これには「場慣れ」するしか解決方法はありません。よく分からない強い相手と、あえて準備不足でゲームをしてみて、ゲームの中でいろいろチャレンジしたり変化したりを経験し、精度を上げて速度を上げて、個々と組織が総合的に強くなる。これしかないのだと思います。


 関西学院大学の負けパターンを僕の乏しい記憶力をフル回転して考えますと、雨などのトラブルか、力と技で来るゴリ押しのフットボールにしか屈していないように思います。
 つまり、ライスボウルに出て来る社会人チームのような、相手を「寄り切る」ゲームができるほどの能力を備えて臨むしか、現代の学生チームではかなわないのではないかと思います。


 他チームの模擬練習では実現できない鋭さを持つ法政大学のオプション攻撃、アニマルと称される野生的なプレースタイルの立命館大学、理論と根性が抜きん出た京都大学、そして篠竹監督時代に猛練習で作り上げたと言われる無敵のショットガン攻撃を駆使する日本大学。
 この特徴というか突出した武器を持って、年間を通しハイレベルに仕上げて来た場合にのみ、関西学院大学を倒すことができると思います。


 手前味噌(僕が早稲田のことを手前と言っても良いかどうか分かりませんが)ではありますが、僕のいろいろな経験の中でビッグベアーズはアマチュアチームとしては非の打ち所がないと思っています。
 「こんなことをしているから強くなれないんだ」「弱い理由はここにあるよ」というようなことがすぐ目につくのが僕の特徴なのですが、早稲田大学には全くありません。


 濱部監督を中心に約200人の部員が規律を重んじ全力で己を磨き、文武両道を邁進。礼儀正しく品行方正な若者ばかりで、犯罪を繰り返すアウトローな跳ねっ返り者など存在しない、本当に理想の学生チームです。
 そんなのどこの大学も同じだと言われる方もいらっしゃるでしょうが、何しろ僕は学生の強豪チームにこれだけ関わったのが初めてです。自分が学生の時はそれなりに真面目に取り組んではいましたが、レベルが違い過ぎます。クラブ活動しながら時給800円で15万円以上稼いでいましたから、いかにフットボールに費やす時間が少なかったかがわかります。


 僕は土日の練習はノジマ相模原ライズの練習があるので出席したことはありませんが、平日は学生コーチしかいないので、濱部監督が一人で200人をコントロールされています。
 主に選手たちが練習メニューを組み立て、1秒の隙もなく次から次へと流れて行く姿にはとても驚かされました。
 ポジション別だったり、ユニット別であったり、チーム全体であったり、大した掛け声や指示があるわけでもない中で、全ての選手が迷いなく次のメニューへ走って行く様は感動的ですらありました。


 プレーをしないスタッフ陣までもが「がんばろー!」というような掛け声を絶え間なく出し続け、本当に全員が「チームを愛し、頑張りたいから頑張っている」という組織です。
 僕には20歳と18歳の娘がおりますが、こういう素晴らしいチームなら所属するのをとても応援するでしょうし、このビッグベアーズで頑張って来た人の所に嫁いでもらいたいなとも思います。


 社会人チーム三武ペガサス時代、さくら銀行ダイノスのQBだった〝濱部選手〟には1勝もできなかった恨みで「キライな人間のトップクラス」だったのですが、早稲田大学に参加してもちろんすぐにそんな気持ちはなくなりました。


 濱部監督は高校で先生をされていることもあって、みんなの前で話すのがとてもお上手です。無用に難しい言葉や言い回しを用いず、端的に分かりやすい言葉を選んでしっかりご自分の気持ちを乗せて優しく説く様は、とても勉強になります。
 時には激しく、時には涙して「フットボールが全てではないが、情熱の全てをフットボールに注げ」というようなご自分の思いを200人にあれだけしっかりと伝えられる人は、それほど多くないと思います。


 日が落ちた寒い甲子園球場。数にして「青い軍団」の5分の1程度の臙脂の応援団が発する声援がありがたかったですね。
 今後も関東リーグを勝ち上がるのは至難の業ですが、彼らはどこに出しても恥ずかしくない人間に育っており、早稲田大学ビッグベアーズの誇りだと思います。


 こんな彼らに、是非ともたくさんの皆さんから声援を送っていただきたいと思います。僕は早稲田大学とは無関係ですが、この半年で多くの時間をボランティアで早稲田大学ビッグベアーズに費やしました。
 早稲田大学のOB諸氏は、後援会や特定のOBだけに任すのではなく、試合日の動員数だけでも勝ちにいってもらいたいと切に思いました。


 甲子園ボウルを含め、早稲田大学ビッグベアーズとともに過ごした今シーズンは、素晴らしい経験となりました。
 濱部監督をはじめ、関係者の皆さんにはこの場を借りてお礼を言いたいと思います。僕ももっと上手に指導できるコーチになれるように精進します。どうもありがとうございました。

【写真】早稲田大学のコーチとして、甲子園ボウルでサイドラインに立った多聞さん=撮影:MAKOTO SATO