お店の営業が深夜に終わり、明日のハードスケジュールを考えて早めにベッドに入りましたが、ドキドキして結局一睡もできず徹夜してしまいました。
 家を出て駐車場までの道のりはまだ暗く、六本木の早朝もフットボールシーズンが終盤にさしかかっている、という趣でした。


 「よし勝つぞ今日は! 勝てるかな。あーどうなんねんやろ」と、こんな気持ちの朝なんていつ以来だろうと考えると、自分が現役で最盛期の15年前くらい、自身が出場するボウルゲーム以来です。  最高の仲間たちが待つ試合会場に向かうあの時の道のりを思い出しました。


 何とも言えない高揚感、内に湧く興奮、背筋がピンと張り自然と姿勢が良くなります。家の近所のいつもの道が特別なように思えてしまうほど、尋常じゃなく精神がぶっ飛んでいます。
 まあ、寝る時間がなく徹夜になることは毎週同じなのですが、今日は特別な試合だと思うと緊張してしまう僕がいました。あ、初めてなんだ。試合に最初から行くのは。だから緊張しているんだ。


 今日はシーズンに入って仕事の都合でほとんど練習に参加できず、主に練習や試合のビデオを選手と一緒に見るだけになっていた「早稲田大学ビッグベアーズ」の試合があるのです。相手は甲子園ボウルの常連「法政大学トマホークス」です。


 早稲田大学は甲子園ボウル2年連続出場を目指し、慶應義塾大学ユニコーンズ(慶応大)は66年ぶりの甲子園ボウル出場を目指しています。
 慶応大は主将のスーパーRB李卓選手がリーダーとなり、最高の気迫で臨んだ早稲田大学戦は、ご存知のように慶応大が勝利しました。僕は現場にいませんでしたが、録画を見た時に慶応大の勝因がハッキリとわかりました。以前にもここで書かせて頂いたように「気迫」です。強烈な気迫。


 チーム全員の気合が終始満タン。ビデオカメラにもハッキリと映っていました。同じ学生同士。戦術や体格、技術や経験などに差があったとしてもわずかな誤差のレベルでしょう。早稲田大学の予想をはるかに上回る慶応大の気合に屈したのだろうなと感じました。
 僕はその週に何とか時間を空けて練習場へ行き、4年生でエース格のRBたちにこのようなことを話しました。


 「法政大学の想像をはるかに超える「気迫」をもってあと2週間を過ごしなさい。試合当日も同じ。気迫では一歩も譲るな。この2週間で君らができることはそれしかない。試合の勝敗は濱部監督に任せて、君らは『気迫ある2週間を過ごすこと』で、絶対に負けるな。試合に勝っても負けても『甲子園ボウルを目指す』という幸せな選手生活はあとわずか。気合負けして試合も負けたら一生悔やむよ。やれるだけのことをやって、試合に負けても一生誇れる選手生活になるから『気合だけは絶対負けない』と仲間や親兄弟に誓え。前節の慶応大も君らを気迫で圧倒していたから強かっただろ。僕のアサヒ飲料時代も、ライスボウルで関西学院大学に敗れた理由は『ライスボウルなんか面倒くさいなー』という我々と『絶対に勝つんだ!』という彼らの気迫が、地力では勝るアサヒ飲料を圧倒していたから。だから気合が全てだよ」


 そんな緊張感の中、早朝からノジマ相模原ライズの練習場に向かいました。リーグ戦は終了しましたが、3、4位順位決定戦があるのでリーグ戦同様全力投球で臨むことが東松キャプテンと須永HCから正式に言い渡され、気合い十分で練習する中無念の早退。急いで横浜スタジアムへ移動しました。


 決戦にふさわしいロケーションです。僕は横浜スタジアムで活躍した確率が非常に高く、とても好きな試合場です。
 野球のベース周りだけが「土」のままなので、滑るのが難点ですが、これはお金で解決するらしいので、僕がもし将来お金持ちになったら寄付しますので試合の時は土を隠してください。


 到着すると、臙脂のユニフォームをまとったいつもより少し緊張感のある顔つきの早稲田大学のみんなが練習を始めようとしていました。
 これほどの大試合なのにブルブル緊張することもなく、みんな大したもんです。ゆとり世代の強みですね。


 良い作戦を考えて来たわけでもなく、ただサイドラインで彼らを応援するだけ。なんたる無力感。試合中の微調整や「自分ならこのように考えて戦う」というようなことを伝えるくらいはしましたが、結局大した役には立ちませんでした。


 試合は大部分で主導権を握り、絶体絶命のピンチが訪れなかったこともあり、集中力も切らさずチャンスをうまくものにして、勝利することができました。
 RBが追加点を挙げた時などは感動して涙が出そうになるほどでした。人前でなかったらきっと泣いていたと思います。


 僕は学生時代にこのような大舞台に立つ経験をしていません。エックスリーグで活躍する選手のほとんどが学生フットボールの頂点「甲子園ボウル」を目指したり出場したりの経験があります。
 この「来年はない」という4年生の切羽詰まった緊張感はすごいです。すごかったです。その点、下級生たちの気楽さがいい感じでした。


 「気合満タンで臨め!」が効きすぎて、逆に「落ち着け! 落ち着いて普通にやれ!」なんて指示も全然聞こえず、RB陣の活躍はイマイチに終わってしまいました。


 次の最終節は「日本大学フェニックス」との対戦です。今季既に3敗している相手ですが、名門の意地もあるはずです。苦戦を覚悟して臨まなければなりません。
 〝他力〟の部分はありますが、早稲田大学にはまだ優勝の可能性が残っています。学生には、悔いのない試合をしてほしいと願っています。

【写真】早大のRBコーチとして法大戦で戦況を見守った多聞さん=11月13日・横浜スタジアム