僕がアメリカ人たちとのフットボールを初めて体験したのは1998年ですからずいぶん昔です。でも、50年前のNFLと今の日本代表が対戦しても絶対に勝てませんので、まだまだ通用するハナシだということでお許しいただきたいと思います。


 ここで言うアメリカ人とは、ドラフトで指名されるレベルの選手を指します。彼らはアメリカ人だからすごいのではなく、フットボールに懸ける熱意がすごいので、その結果すごい選手が出来上がる、と僕は考えています。
 ハンパではなく才能が豊かなのに、「必死のパッチ」で練習に打ち込む。そんな選手が何万人という数で競争しているのですから、層が厚くなるのは当然です。


 「NFLスター」は、アメリカ中の男子アスリートが憧れる職業です。そこに入り込むための熱意と、エックスリーグで活躍するための熱意が同じなワケはありませんが、「そこを何とか同じにしていこうよ」というのが「タモン式ランニングバック養成所」の理念でもあります。


 NFLのキャンプに参加していた頃、アメリカ人選手の試合や練習に臨む姿勢は日本人のそれとはずいぶん違うんだなと強く感じました。それは今も同じ感想を持っています。
 僕も今となってはテレビ放送やインターネット上でしかNFL選手の練習を見ることはできませんが、わずかに映る少しの動きでもどれほどの気持ちでプレーしているか一目瞭然です。


 フットボールというスポーツの特徴は数秒ごとに止まることですが、よほどのことがない限りほとんどの選手が全力で動き回ります。
 「軽く動く」とか「止まって待つだけ」とかが極めて少ないスポーツです。ボールが動いてプレーが止まるまで、選手が与えられた仕事プラスアルファでフルパワーでシャカリキに動きまくります。


 「プレーが止まるまで」というのは審判の笛が鳴るまで、ということではありません。笛が鳴る前にジャンプを開始した選手は空中にいますのでそのまま飛び込んで来ます。その選手に激突された選手はそのあとまた転がってしまいます。


 また、笛が鳴ってから転倒した選手もまだまだ動いています。笛が鳴ったからと自分からプレーをやめてしまえばこの〝事故〟に巻き込まれてけがをする確率は飛躍的に上がります。
 ですから長く何年も(ベテランになって)プレーしている選手はフィールド上で誰よりも最後までプレーしています。密集地帯で勝負している選手にとって非常に重要な基本事項です。


 ボールを持つ選手も同じように、誰よりも最後までプレーする必要があります。フットボールはボールキャリアーがタックルされるかラインから出るまで続きます。
 ラインから出るというのは横だけではなくエンドラインも含まれますのでタッチダウンですね。また例外として自陣で後ろに押し出されてしまうセーフティーというのもあります。


 ボールキャリアーが動く限り守備選手は追いかけなければなりませんが、練習だとプレーをフワッとやめてしまう人が日本には多くいます。
 ランニングバックがタックルをかわし前に進んだとしましょう。でも何となくそこでやめてしまいます。


 パスを受けたレシーバーも同じです。捕ったら満足。そこから先など意識から消えています。大切な「タッチダウンをする」という責務を忘れるのです。
 そんな選手はアメリカに一人もいませんが、日本の社会人リーグにはそんなのばっかりです。学生の時はコーチもいるしパスをキャッチした後もしっかりエンドゾーンに向かって走っていたことでしょう。
 でも社会人になると捕るまでが仕事。そのあと頑張るのは何と試合だけ。でも練習していないので、ボールを持って走るのが著しく下手です。当然です。


 そんな中途半端でいい加減な練習をするアメリカ人選手を見たことがありません。僕はプロしか見たことがないので、アメリカの全てを知っているわけではありませんが、自分とエンドゾーンの間に守備選手が残っている状態でプレーをそそくさとやめてしまうようなシーンを一度も見たことがありませんでした。ま、そんなことをすればすぐに解雇されるでしょうから。


 私生活はちゃらんぽらんでいい加減なことばかり言っているような選手も、練習が始まって自分の出番になると笑顔ひとつ見せずに必死でボールを追い全速力で大きな体を動かします。
 ボールをキャッチしたら一直線にエンドゾーン方向に向けてフル加速。そして守備を振り切ったら急ブレーキをかけてUターン。攻撃のハドルに向かって早足で戻って来ます。


 息はハアハア、寒い日でも滝のように流れ出る汗。僕からすればすごいファインプレーだったとしても、彼らは「グッジョーブ。でもこれは練習だ。できて当たり前。もっと過酷な環境をイメージして次も攻めるぞ!」と声を掛け合います。


 試合2日前の練習だとしても馴れ合いの「な」の字もありません。これはコーチが強要しているのではなく、彼らのスタイルなのです。癖でついつい思い切りやってしまうのです。ついついサボってしまうような人は、淘汰されていなくなってるのでしょうが、すごい習性です。
 彼らはコレをずっとやり続けて来て今に至っている。失敗を恐れずに、次も自分の限界までやりきる。この繰り返しです。


 自分が安全にできるプレーをソコソコで繰り返していても、成長どころか運動不足解消くらいにしかなりません。
 「最後までやりきろう」の最後とは、エンドゾーンまでという意味なのです。1980年代後半、日大フェニックスは「ボールを持ったら必ずエンドゾーンまで全力疾走している」と、大学生だった僕は噂で聞きました。しかし当時の僕は「そんなワケないやろ~」と突っ込んでいました。


 僕の考えはその10年後にアメリカ人プロを見てガラリと変わるのです。僕は自分の実力がNFLの中でやっていけるとは思えなかったので勝負するのを諦めて「学ぶ」という姿勢を終始貫きました。 
 NFLの全てを見て聞いて盗んで日本に持って帰ってやろうと必死で情報を記録しました。「プレーの終わりとは?」「練習とは?」「真剣にやるとは?」「人生をかけるとは?」などなどを、身をもって学んできたことを、このコラムやコーチングでしっかりと日本の皆さんに伝えていきたいと思っています。


 今週末、僕がコーチをしているノジマ相模原ライズが富士通と対戦します。恩師・藤田智氏(富士通ヘッドコーチ)との対戦は人生初です。
 富士通は優勝候補であり現在リーグ成績トップと強敵ですが、ミスを恐れずに必死のパッチで全てのプレーで全力を出す必要があります。
 負けると10月中にシーズンが終わってしまうという崖っぷちですが、なんの抵抗もせずに突き落とされるのは御免です。


 思い出すのは2001年度のシーズンです。勝たねばシーズンエンド。この状況でリーグ最終戦のナイトゲーム@西宮スタジアム。松下電工(現パナソニック)に辛勝しプレーオフに進出し、そのまま社会人選手権優勝というドラマを演じたのは、恩師である藤田氏が率いたアサヒ飲料チャレンジャーズでした。


 練習には悲壮感が漂い、勝ちたいという気持ちだけで全員が一致団結しファーストドライブを僕のインサイドゾーンで締めくくり先取点。気迫で勝る我々はそのままどうにかこうにか勝利しました。気持ちをここまで高めると、こんな結果もあり得るんだということを学びました。


 あれから既に15年が経ち、当時の新人が超ベテランになっている時代です。NFLはいまだに「根性」がものを言う世界。日本は痛がりでヘタレな甘ちゃん「ゆとり世代」が幅をきかせています。
 思いやりと優しさが欠落した僕のような人間が、人様にものを教えるというとんでもないことにチャレンジしていますが、いろいろ勉強させてもろてます。ありがとうアメリカンフットボール様。

【写真】富士通戦に向けてライズの選手に細かいテクニックを伝授する多聞さん