社会人のフットボール選手が仕事や家庭とフットボールとの比重をどう置くか、というテーマには正解も不正解もありませんが、僕の思うところを述べてみたいと思います。
 まず、日本アメリカンフットボール界における社会人チームの構造をご存知ない方のために説明を致します。


 選手全員が社員で構成された「実業団」と、仕事はバラバラの「クラブチーム」の2種類が存在します。プロ契約が協会の定めたルールで認められていないので、全ての選手はフットボールをプレーすることだけで生活していくことはできません。
 ただ、現実には外国人選手やトップ選手の中には事実上プロ契約をしている人も存在します。コーチはプロでも良い規定なので、コーチ兼任選手には給料を払っても良いという抜け道もあり、そろそろ改正する時が来ている気配です。


 そして、一部の〝プロ選手〟以外はほとんどが何らかの仕事をして生計を立てています。土日両方が休みの会社に勤めていないと練習にも参加できません。
 トップリーグで頂点を目指そうとすると、週2度のフットボール練習と最低プラス3日は体と心と技術を磨く必要があると思います。


 体づくりは365日24時間継続してこそなので、年がら年中フットボールに勝つためだけの栄養補給(食事)と睡眠などの休息が必要です。
 若くて独身なら会社以外の時間全てをフットボールに使えるかもしれませんが、家庭を持つと妻子の都合などで体づくりが進行しない場合もあります。アスリートですから8時間、せめて6時間はしっかりとした質の良い睡眠を取る事も必要です。


 仮に通勤と勤務だけで12時間を要した場合、睡眠を引いた残りの4時間ほどをフットボールに使えるかそうでないか。土日以外の練習のない5日間を全力で4時間鍛えてきた数年間を持つ選手と、学生時代の貯金プラス要領の良さで何とかトップ選手のレベルを維持している人とでは、いずれは大きな差がついてしまいます。


 ただし、母校などでフットボールの練習をするなどの鍛錬は、あくまでも自分がフットボールで勝つための補助運動にすぎません。実際の勝負でその努力が生かされて報われるかどうかは担保されていないのです。


 チームメートに恵まれ、自分を愛してくれるコーチに出会い、自身は過去全ての努力が報われた上で運が良ければ優勝できるかもしれない。あれだけ目指してきた優勝がかなっても、一晩経てば夢のあとです。
 決戦の翌日は傷つき打撲だらけでボロボロになった体で早朝から満員電車で出勤しなければなりません。


 優勝するために「時間」+「エネルギー」+「お金」と全てを捧げてきた数年間は一瞬で思い出になってしまい、リーグやスポンサーから賞金があるわけでもありません。トロフィーはチームに一つ。自分の家には記念Tシャツ程度しか持ち帰れません。
 しかし、これは年に1チームだけで、ほとんどのチームは優勝できないわけで、記念Tシャツすらないのです。


 テレビや新聞を賑わす事もないので、親戚や友人から賞賛もされず「うちの旦那はアメフトに夢中で困っている」となっていくのかもしれません。これが大部分の社会人フットボール選手の実態です。


 そこで、現代の多忙な社会人選手が、どこまで「仕事や家庭」と「フットボール」を両立できるのかを考えてみました。
 そもそも毎週土日に朝っぱらから家を抜け出してフットボールで遊ぶ旦那を快く思う奥様が少ないことなど容易に想像がつきます。プラス終業後のトレーニングやミーティングで帰宅時間が非常に遅くなります。


 自分の旦那が好きなフットボールで日本一を目指して必死で頑張っている姿を見て「いつまでも夢を見ていないで、家族の面倒を(金銭面以外でも)見て!」となるのはその選手の365日の生き方が甘いのです。
 世界で最も自分を理解してくれるはずの奥様にさえ賛同してもらえない程度にしか頑張っていないからにほかなりません。


 では、なぜそんな簡単なことができないのでしょう。最も身近な人(親や妻、同居人や親友、恋人など)の目はごまかせないからですね。
 「今日は残業が長引いたし疲れもたまっているしトレーニングせずに帰って寝よう」「断れない宴席に誘われたので仕方なく食事のペースが乱れた」というような、アスリートとしては絶対に有り得ない事件がたまにでもあれば「この人は本気じゃない」とバレるのです。


 汗でずぶ濡れになった運動着が2セットあれば今日は2度以上の鍛錬をしたことになります。でも、洗濯物がなければ運動していないとバレます。
 土日だけチョロっと練習に行って、週に1度ジムに通っていれば日本一になれちゃうの? 何じゃそれ、とスポーツ経験のない人でも気づきます。


 日常から異常なほどにフットボールのことで頭がいっぱい、どうやれば強くなるのか、うまくなるのか、家族とたくさん話し、夢を語り、情熱にあふれ、そして会社にもキチッと行き誰よりもバリバリ働く。
 子どもがいてもまだ小さいでしょうから可愛い盛りです。何時間でも一緒に遊んでいたい気持ちを抑えて優勝のために外へ走りに行かねばなりません。その情熱が愛する大切な奥様に認めてもらえていないような人に「社会人フットボール」で日本一を目指す資格などありません。


 SNSで「トレーニングやってるやってる」を見せて薄っぺらいWEBの友達に「スゴイデスネサスガアメフトセンシュ!」と書いてもらって喜んでいても、裏も表も知っている家族に尊敬されるほどに毎日を生きなければ、スタートラインにすら立てないでしょう。


 めっちゃ頑張る。自分なりに頑張る。ある程度頑張る。言葉で表現すればいろいろ段階はありますが、実際には評価もランクも付けられません。
 自分が目指す場所で、自分が本当に満足いく結果を出せたかどうかが「頑張り」のバロメーターちゃいますか。


 「日本一を目指す」と言ってしまったからには、生き方の全てを変えて「職業:アスリート。趣味:仕事と家族」ぐらいにする必要があります。
 仕事の空き時間にプレーして、強豪相手から存在を認められるような人は例外です。滅多にいません。
 いい選手は、他人にはわからない所で血のにじむような努力をしています。甘えた考えでトップチームにぶら下がっていてもカッコ悪いだけです。そろそろ本気でやってみてはどうでしょう。

【写真】2000、01年の日本社会人選手権で優勝したアサヒ飲料時代の中村多聞さんと2人のお嬢さん