秋のシーズンが始まり、チーム内の緊張感が高まってきました。そしてよくこんな質問をされます。「タモンさん、日本一になるには僕らはあと何が足りませんか?」です。
 選手たちは自身の選手としての価値を向上させることにどん欲で、少しでもためになる、意味がある、と感じたことには努力を惜しまない習性を持っています。ポッと出てきた僕のような人間からも「何か良い情報がないだろうか?」と収集の努力を惜しみません。


 僕は優勝請負人でも何でもなく、ランニングバックの基礎を立て直し、試合を支配できるようになるお手伝いをしているので、優勝するにはどうするかを指導しているわけではありません。
 でも、取り組みの甘い3部リーグの大学でもがいていたところから始まった僕のフットボール経験で見てきたいくつかの組織で、多くを学んだのは言うまでもありません。


 アサヒ飲料では、いろいろな背景と現場がガッチリ噛み合い、選手のポテンシャルがリーグ内でも高く評価されていなかったにもかかわらずライスボウルで優勝しています。
 そして翌年はチーム力が上がっていたのにライスボウルで油断し学生さんに足をすくわれました。


 三武ペガサスでは素晴らしい能力とハートを持った選手が集まってはいましたが、60人のチームと戦うにはコーチやコーディネーターなしで選手18人じゃどうしようもありませんでした。
 サンスターでは最高の環境と金銭的なバックアップが充実。選手層も申し分なし。しかし、チーム運営の未熟さと選手の取り組みの甘さで日の目を見ることはありませんでした。


 優勝するために必要なのは「少しでも多くのお金」です。それ以外ありません。最高の環境で最高の選手を集めて最高のコーチ陣を擁し最高の練習を行う。でも、そんなことは誰でもわかっていますし、お金は急に湧いてきません。
 では僕に答えてもらいたい事は何でしょう。練習の方法や時間の使い方、トレーニングや栄養の考え方といった今すぐにでも変更できることですね。


 中でも練習への取り組み方、やり方が重要だと感じているようです。でも、学生時代はチームの方針で、一心不乱与えられたメユーをこなしてきた選手がほとんどです。
 そして社会人チームに入ると練習がのんびりしている。「これが社会人なのか」と勘違いしていくのが普通です。


 しかし、現状に甘んじることなく向上心の旺盛な人は「これで良いわけない」と気づいているのです。「どうすればいいのか」もほとんど分かっているのですが、「自分の考えや意見が正しいんだ」という確証を得て、自信を持って改革に邁進したいのだと思います。


 僕は練習とミーティングの方法にかなりのこだわりがあります。練習時間を「1秒たりとも無駄に使いたくない病」の患者なのです。
 せっかく全員が一つの場所に集まってフットボールの練習をするならば、最大の効果を生みたいのです。練習というものは、暑かったりしんどかったり寒かったり痛かったりと、雑念と誘惑が入り混じっています。気の合う友達とおしゃべりするのはとても楽しいものですが、怠けていると日本一への道は消えてしまいます。


 まず「絶対に全力でプレーする」「一切手抜きをしない」「全身全霊で集中してプレーする」。これを徹底します。
 少しぐらい上手でも、全力じゃない選手など全く怖くありません。また、少しぐらい下手でも全力で目ん玉開いて「親の仇」とばかりにかかってくる選手は厄介です。こんなことは分かりきっています。


 練習時間の全てで「全力」ってとても難しいのですね。これをガッチガチに監視します。フットボールはほんの5秒ほどで一区切りのスポーツですので、この5秒間さえ集中して全力で暴れればいいのです。
 が、甘やかされた環境でプレーしてきた甘ちゃんは70%くらいでこなしてしまうのです。これが「腐ったみかん」。ほんの少し手を抜いても誰にも見つかりません。誰からも指摘を受けません。上級者であればなおさら、少しくらい手抜きしても相手には勝っちゃいます。これでおかしな世界に入り込みます。楽な道は麻薬と同じで簡単には抜け出られません。


 この「腐ったみかん現象」がチーム内に蔓延し、口じゃいくらでも「やったるで!」「日本一や!」「今日もやるで!」「サー行こう!」と叫んでも自分自身に嘘をついている弱虫は、結局最後まで本気を出せずに試合に負けて引退します。そして会社で「俺は日本代表クラスの選手だった」とか言うのです。


 アサヒ飲料時代のヘッドコーチがとても怖い存在でした。怒鳴られたり殴られたりするわけではありません。それどころか一切の指導もされません。
 全てを見透かしたような眼で見ているだけなのです。でも怖くて怖くて必死で練習しました。何が怖かったのか? 信頼をなくすのが怖かったのです。


 必ずゲインする。怪我もしない。元気に周りを鼓舞する。期待されていることは分かっていましたが「必ずゲインしろよ」「けがするなよ」「皆を元気付けろよ」など言われたことなどありません。
 しかし無言の期待が重責で、少しのことで弾けてしまいそうな緊張感でした。この期待に応えるというスリルが、この後の僕のフットボールにはなくなってしまい、つまらなくなっていきました。


 少し話がズレましたが、今は偉そうに言っている僕もこうやって「コーチの目」を練習の間ずっと気にしてビクビク怯えていたから集中した練習がどうにかできたのです。
 「超集中した5秒間」を何十回も練習でやり抜くには、一人では無理なのです。コーチなり、先輩なり、仲間なり、「確かな目」を持った人がしっかりと選手を見ること。コレがとても重要なのではないかなと思います。


 「今のプレーはもう少し右に行けば良かったんじゃないか」というアドバイスをすることだけがコーチの仕事ではありません。
 「その選手がアクセル全開だったかどうかを、じっと見てあげないといけない」。何度も自分に言い聞かせて、今週もノジマ相模原ライズ&早稲田大学の練習に参加してきます。

【写真】練習でノジマ相模原のRB陣の動きに目配りする多聞さん