今年の春シーズンからトップチームで仕事の合間に「コーチ業」を楽しんでいます。この夏は、早稲田大学とXリーグのノジマ相模原ライズの2チームの夏合宿を掛け持ちしました。
 楽しいのは、大勢のアスリートたちと雨の日も風の日も、勝利のために時間を共有することそのものなのかもしれません。 


 しかし「ランニングバックスペシャルコーチ」という肩書きが与えられている以上、それなりの成果も求められます。
 イマイチ走れなかった場合に「よく頑張った」とかの慰めではなく「明日からの練習でもっと多聞に食い下がったる!」と心に決めて、根性で努力する。その後、実際に上達したかどうか、そしてそれをゲームで発揮できたかが重要です。


 練習の流れはどのチームも同じようなもので、ミーティングをしてポジション別で練習して全体のフォーメーション練習。前後に個人練習や調整時間があり、終わってから反省のミーティングとなります。


 前回の練習での課題を検証。今日克服すべきなのか、長期的にとらえるのかを判断し、練習メニューを考えて前に進みます。
 選手がどのような問題を抱えているのか、疑問点はどこなのかに神経を集中して観察します。


 クセ、心の揺れ、体力やパワーの問題、センス、やる気、ガッツ、勘、経験などなど選手たちは若ければ若いほどあらゆる可能性を発揮してきます。
 これらをつぶさに観察してやっと指導が開始できます。僕の頭の中でその選手の成績表が出来上がり、悪い点と良い点を考察してどうすれば総合的に良くなっていくのかを、僕の鈍い脳みそで一生懸命考えます。


 これを基準にレクチャーを開始します。これまで関わった選手たちの中には全日本級から高校生までいろいろいます。
 しかし全員に共通することがたくさんあります。「やってはいけないこと」と「やらなければならないこと」がバラバラでメチャクチャなのです。ほとんどの選手がデタラメに指導を受けていて、そこから先は「すべてセンス」でプレーしてきているわけです。


 NFLに行けたかどうかというようなレベルの外国人選手が増えてきている昨今の社会人リーグでは、「持ち前の天然センス」だけで彼らと渡り合うのは至難の技と言えるでしょう。
 外国人選手だけではなく、それを手本にして成長する頭のいい日本人選手もグイグイとよりアメリカに近いテクニックでフィールドを支配しようとしています。
 だまし討ちのようなセコい技だけでは乗り越えられなくなってきています。勝負に徹し、戦略を練り、肉体の損傷を犠牲にしてでも、全力でぶつからなければ太刀打ちできません。


 しかし、せっかくの才能をうまく使えずくすぶっている選手も多く存在します。原因のほとんどが能力的な問題ではなく、心の問題です。
 新しいことを聞いても「これまでそんな風に習ったことがない」という心のブレーキで殻が破れないのです。


 頭では僕の教えを理解し、克服しようと努力するのですが、どうしても長年培った経験によるクセを解除するのは非常に難しいのです。
 まあ当然でしょう。体全体でコンタクトがあるスポーツですし、敵の全員がボールを持っている自分を狙っている特殊なポジションです。敵が近づいてくるのを察すると本能的に身を守ってしまう「クセ」がとても厄介です。
 的確に護身するならまだしも、仮想の敵にもいちいち反応していては2秒か3秒のプレーで自分の思い通りに体を動かす時間が残されません。


 目を見開き敵をいち早く発見し、相手の行動を自分の動きと照らし合わせて、1秒後の未来を予測する。
 敵が存在するスポーツは、この繰り返しによって勝敗が決まります。見なければならない場所を見ずに、敵と出会い頭で衝突、なんてことはよく起こります。


 その過去の「イヤな経験」があるので、体を硬くしてどこから敵が来ても大丈夫なように備えたりしてしまいます。そんなことをしていては手足を振って疾走できるはずがありません。
 この場合ではここを見てここを注意して前に進む。またこの場合には…というように、いろんなケースを学んで対処法をインストールしていきますが、机上ではしっかりと正しい答えが理解できても、人間ですから試合中の切羽詰まった場面ではなかなか実践できません。


 ずいぶん前に、京都大学時代の水野監督が「(選手に)能力を試合で出し切らせることが非常に難しい」とテレビで話していたのを思い出します。
 選手が、いついかなる時でも実力が発揮できるような精神状態を作る手助けができるコーチにならなきゃなと思いながら、現在関わっている二つのチームの夏合宿を過ごしました。

【写真】ノジマ相模原の夏合宿でRBを指導した多聞さん