僕が臨時コーチを務めるIBMビッグブルーが、パールボウル決勝(6月13日・東京ドーム)に進出しました。
 臨時コーチとして担当しているランニングバック(RB)陣には「タモン式」独自のゲーム用課題を強制しています。課題のクリアは難しいのですが、チームが勝利したのでよかったです。


 前節は試合場に行かなかったのですが、準決勝のノジマ相模原ライズ戦はサイドラインに立ちました。フットボールの公式戦でベンチに入るのは現役を引退して10年ぶりでした。


 特に与えられた役割はありません。RB陣に何かあれば少しアドバイスする程度です。僕は春から毎週末を使い、ほぼ休まず練習に参加してはいますが、他のポジションの選手らとの交流がほとんどありません。
 名前や出身校、背番号とポジションが明確にわかる選手は数人しかいませんし、ほとんどの選手と会話したこともありませんので、彼らとの信頼関係が非常に希薄です。というかほぼゼロです。「あのオッサン誰やろ?」という感じでしょう。


 僕のような者が真剣勝負のベンチ内に存在することを、現役時代に最も嫌っていました。「練習場で戦っていない者が、試合だけ来て我が物顔でウロウロするな!」と、スポンサー会社の偉い(かどうかわからんけどそう振る舞っている)おっちゃんらが、ベンチでのさばる姿に嫌悪感を抱いていました。「スタンドで見ろよ!」「邪魔や!」「士気が下がるわ!」「何しに来とんねん!」と。


 ですから僕もチームに馴染んでいるわけでもありませんから、試合を生で見たいのは当然ですが、スタンドにいたいのです。しかし、今回はRB陣に頼まれイヤイヤですがベンチに入りました。


 まずベンチだとRBの動きがよく見えません。ベンチで出番を待つ選手たちはボールがある位置の延長線上に陣取りますので、僕のような仕事のない者がその大群に混ざっていては選手交代や作戦伝達などの邪魔になります。
 ですからできるだけ離れた場所で見ます。これだと絶対にスタンドの方が見やすいんですよね。


 足運びや顔の向き、加減速など、細かいポイントをいろいろ見たいのです。双眼鏡を使ってどうにか見ることができましたが、同じ高さで遠くから見ても奥行きがわかりにくいのでやはりいまいちです。


 彼らは僕より20歳以上も若く、自分の子どものような気持ちです。練習でいろんなことに挑戦してもらい「過去を捨てて新しい情報を武器に戦え。そうすれば必ず上達する」とアドバイスしています。
 とはいえ、活躍できなかったらどうしよう。大きなけがをしないだろうかとハラハラドキドキ心配で心配でたまりません。点差が開くまで(今回は前半で勝負が決まった)の毎プレーは針のむしろに座っている気分でした。


 彼らの才能に加えて「確実に以前より試合で活躍できるネタ」として、いろんなことを少しずつ毎週毎週インストールしています。
 僕の教えることを信じて、短く大切な選手時代を過ごしてもらっていますから、上達していなければ僕は単なる嘘つきで知ったかぶりの裏切り者になってしまいます。


 もちろん彼らが好ゲインを奪えばメチャクチャうれしく誇らしい気持ちになります。練習でマスターした動きができていなければ、次週以降の課題として残ります。


 試合では結果しか問われませんので、これまでの努力がいかにつらいものであっても、試合でその成果を発揮できなければ何の意味もありません。
 逆に言うと、途中はどうあれ結果さえ出れば何でもいいのです。ですから試合中に「修正や調整」はそれほど必要ではありません。
 まだ経験が浅く若い選手であれば、不調な時にモチベーションが下がったりしますが、一流であればそれも自分で乗り越え相手にかかわらず、いついかなる状況でも安定した心を持ち、同じパフォーマンスができるようになります。


 こんな感じですので、練習場ではほんの少しだけ僕にも役割があるのですが、試合ではほとんどありませんでした。
 ベンチにいて、何の役にも立たないのはファイニーズ時代以来で久しぶりです。この無力感はなんとも言えません。まさしく運動会や発表会で子どもを心配する過保護な親の心境です。


 大活躍してマスコミやファンそしてチームメートからチヤホヤされる醍醐味があるからこそ、現役時代にはどんな練習やトレーニングにも耐えられたわけです。


 「週2回の臨時コーチ」じゃ、スリルや高揚感が足りません。やはりフットボールをやる(コーチも同じ)ならフットボールを人生の最優先事項に繰り上げ、エネルギーの全てを注いで大活躍する。それができないなら弱いチームに行くか見る側に回るしかありません。
 なので、見るならサイドラインじゃなくてスタンドやテレビで仲間とビールを飲んで無責任に楽しむのが一番だと再認識しました。


 春のシーズンはあと2週で終了です。パールボウル決勝は19時キックオフです。みんなで大騒ぎしましょう!

【写真】パールボウル準決勝でIBMのベンチに入った多聞さん=撮影:Yosei Kozano