「次回はQBのパッシング能力についてお話しします」としておりましたが、その前にまず「ハンドオフ」について日米のレベルを比べてみました。ハンドオフであれば日本人もNFLL選手と同じことができるかもしれません。


 アメリカ人QBの「性能」に関しては、NFLヨーロッパ(NFLE)でチームメートだった3人で十分に心の準備ができていました。
 一人はダラスカウボーイズ支配下のオールNFLEに選出され、さらにアメリカ青春ドラマに出てきそうな理想の好青年なブロンド白人選手マイク君。二人目は決勝戦でMVP受賞のシアトル・シーホークス支配下選手のジム君。そしてもう一人は、QBとしてではなく守備のセーフティーとしてオールNFLEに選出されるほどの結果を出した黒人選手のKJ君です。


 彼らはセットバックからでもショットガンからでも正確無比なフットワークとボールさばきで、どんな新しいプレーでも僕たちRBに正確なハンドオフしてくれていました。
 ボールを差し出す時は異常なまでにソフトなタッチでなおかつスピードも抜群に速い。これまで多くの日本人QBとフットボールをしてきましたが、日本人のそれとは比較のしようがないほどに高いレベルの「ハンドオフ」でした。


 でも、これはマイナーリーグの話です。ここメジャー中のメジャー、グリーンベイの4人はどれほどのモノなのか? めちゃめちゃ興味ありました。何がどれほど違うのかと。


 そしていよいよQBとのハンドオフ練習の時間です。体の大きなフルバックと、僕のような少し体が小さめ(100キロちょうどくらいだったのでアメリカでは標準サイズ)のテールバック。RBは全員で7人でした。
 4人のQBで順番に回すと毎回違うQBがハンドオフしてくれます。以前ご紹介した4人を当時のチーム序列順であらためて書きますと
①ブレット・ファーブ(世界的スーパースター)
②ダグ・ペダーソン(今年からNFLイーグルス監督)
③デービッド・クリングラー(ラン&シュートの申し子)
④マット・ハッセルベック(後にスーパーボウル出場の新人)
となっています。


 「センター不在でQBがスナップを受けたとして」の時間差をつけたスタートですら、日本人QBはタイミングが曖昧で初動に不安が付きまといます。
 自分が出すスタートの合図でセンターがボールを動かすので、QBの手に届くまでのタイミングにはほんの少し「ズレ」が生じるのはフットボール経験者なら全員知っています。こんな重大なことをキッチリやらないのが日本です。


 しかしアメリカ人は違います。どこまでも聞こえるんじゃないだろうかというほどの大きな声でスタートの合図を叫び、全く無駄のないフットワークでRBの懐にボールをデリバリーしてくれます。
 もちろん先ほどの「時間的ズレ」は寸分違わずいつでも必ず全員同じ。こちらさえキッチリ動いていれば、どのQBからのハンドオフも全く同じ結果が生まれます。
 つまり僕が7人のプロアメリカ人QBと仕事をしてわかったこと。それはハンドオフが日本人QBの数倍正確で速くてうまい。これが結論です。残念ながら比較になりませんでした。


 アウトサイドゾーン、インサイドゾーン、カウンター、何でもいいでしょう。何度やっても誰とやっても全く同じ。ですからこのQBは背が低いだとか、手が長いだとか、関係ありませんし気になりません。
 距離感も近すぎず遠すぎず。ミスも一切ありません。こちら(RB)としても練習に夢中だったこともあり、ファーブがどうだったかという記憶がありません。全員同じです。オフェンスコーディネーターがエースQBと交わした決め事を、補欠が完璧に形態模写できる、ということでしょう。


 日本だとこのようなQBの基本動作を見せてくれる良いお手本(テレビでも先輩でも)がほとんど存在しません。
 運動神経とインテリジェンスが少し優秀であれば、大した競争もなく活躍できる世界ですので、指導者側も選手として大成させるより自分のチームが勝てればそれでいい、という考えになるでしょうから、ハンドオフの微妙なテクニックなど教えることもできないしそもそも重視しません。


 RBはランプレーに関する歩数や角度、タイミングをかなり繊細にイメージして練習します。ところが日本のQBは雑な割に社会人になると練習時間が激減するので、これがなおさら顕著になります。
 センターからのスナップがちゃんと来ないというマンガのようなミスも多発します。センターからのスナップがちゃんと予定通り来ているかどうか、そしてQBがそれを確保してミリ単位の精度でRBの懐に届けてくれるかどうかは100%の確率ではないのです。
 QBが4人いれば4通りです。RBはそれぞれの特徴や癖を覚えて対応しなくてはなりません。足が前に出過ぎていて踏まれるQBもいます。


 NFLは違いました。自分のやることだけに集中すればいいのです。さすがプロですね。RBの主な仕事はボールを受け取って少しでも前に進めることです。
 センターのスナップがちゃんと来ているかどうかのチェックは、プレーブックに書かれていません。


 このように、米国のプロレベルにはほど遠いのが実情です。日本フットボールのスタンダードが少しでも底上げされるようになればいいなと思います。
 次回こそはプロQBのパッシング能力について書きたいと思います。

【写真】NFLパッカーズのキャンプでQBからボールを渡される多聞さん(20)