アサヒ飲料チャレンジャーズで選手生活を終え、その後10年間を「フットボール評論家」として過ごして参りましたが、なんと今年度より現場に顔を出し始めております。


 縁あってXリーグの強豪、IBMビッグブルーのランニングバック(RB)陣に僕の知識と経験を伝授する活動を開始しました。
 IBMにはアサヒ飲料チャンピオンズクラブの盟友たちがコーチとして在籍しています。ヘッドコーチの山田(関学OB)、守備の上田(京大OB)、ラインの昌原(立命館OB)。気心の知れた動きやすい環境な上に、熱烈な勧誘を受けたので依頼を受けました。


 ただし、現在のところはチーム所属コーチとしてではなく、あくまでも僕の知識と経験をRB陣に伝授するだけの活動です。活動組織名は「タモン式」です。
 このコラムでも「最強RBへの道初級編」を書いたところ、大きな反響を頂きました。IBMでの活動は「タモン式最強RBへの道初級編/実技指導バージョン」です。


 みなさんご存知の通り、IBMビッグブルーのRB陣には日本代表経験者の猛者がズラリです。そんな彼らに対して「初級編」とはなんたる上から目線! とお感じになられるでしょうが、そこは気にせず、まずはアメリカンフットボールにおける「ランニングバックというスポーツ」の基礎を徹底的に理解してもらわねばなりません。


 彼らがこれまでに日本で習ってきたランニングバック術は元ネタがわからないような古いシロモノです。下手くそが初心者の時に注意すべきことばかりで、実戦では全く使えないようなテクニックや考え方ばかりです。
 これではダメなので、アメリカに古くから伝わるランニングバック術を僕が独自に日本人向け(自分向け)にカスタムした理論にアップデートしてもらいます。いわゆる洗脳です。使用する用語も重視するポイントも、日本古来のものとは全然違います。


 しかし、そんなとんでもなく古くて使い物にならないはず(少なくとも僕はそんなのではうまくなりませんでした)のテクニックを使って日本代表になるとは一体どういうことなのか、と興味津々でした。
 答えは初日の練習でわかりました。地力というか元々備わっている運動神経や反射神経に瞬発力、筋力、持久力、精神力、作戦理解力その他もろもろが僕なんかとは比べものにならないぐらいにすごいのです。
 それだけの地力を使えばこんなお粗末なRB走行術の知識で日本代表になれてしまうんだということに敬服しました。


 でも、ここからは問題が山積みです。週に2度だけのチーム練習では、上達するチャンスが少なすぎです。
 スクリメージは当然みんなで交代出場ですし、パスがあったり誰かのミスでプレーが潰れたりで、良いイメージでボールを持つ回数が1日に1、2回しかない場合もあります。これではできることの確認作業だけになってしまいます。運動不足解消にすらなりません。


 最も重要な「できない領域へのチャレンジ」をすることが許されないわけです。この状態には僕もかなり困っていますし焦っています。
 あとは練習せずに座学だけで上達してもらう以外に手はありません。いやいや、それは無理というものです。


 僕が合流してから2カ月(練習日数で15日ほど)が経ち、ようやく共通の言語で意思疎通を図れるようになってきました。
 「タモン式」には効果的な独自のメソッドはありますが、カチッとしたカリキュラムがあるわけでなく、自分がやっていた練習や考え方を彼らの体調や気分に合わせて次から次へと提案し、選手らの脳みそが賢ければ賢いほど混乱するように仕組まれています。


 一つのプレーやドリルで与えられる課題にどれだけ挑戦して成功して反復して身につけるか。ココに重点を置いてシゴキまくっています。


 彼らが目指しているのは「日本中の相手守備から恐れられる選手」になること。そのためには日本で最も過酷な内容の練習を、他チームの守備陣の何倍もやらねばなりません。
 過酷と言ってもたくさん走ってしんどい思いをするとかではなく、考えて考えて考えまくってノイローゼになって、それを乗り越えてまた壁が登場してそれもぶち壊して悩んで迷ってまた一皮むけて…の繰り返しが過酷なのです。


 今はまだ頭の中で最高のイメージを作り出せていませんが、そのうち描けるようになります。そうなればあとはイメージ通りの動きが実際にできるように反復するだけです。
 理想の自分が見えてからの練習ほど辛くて大変なものはありません。ほとんどの行為が満足の行くレベルに達するはずがないわけですから当然です。


 理想なのですから簡単には全てがそろいません。頭で描いた「完璧な走り」など相手がどれだけ弱くてもなかなかできるものではありません。
 はるか先を走る理想の自分が頭の中に見えてからが勝負の始まりです。イメージできないことに向かうのは、暗闇を走っているのと同じです。


 僕の場合は「NFLなアメリカ人RB」というお手本を毎日見ることのできる環境があったので、イメージそのものに苦労はしませんでした。
 しかし、彼らは自分より圧倒的にうまい選手と一緒に練習し続けたという経験が少ないため、この部分での負担はかなり大きいと思います。


 とはいえ、目標を達成できるようになるまでシゴキは続けるつもりですが、いつ飽きてほっぽり出すかはわかりません。

【写真】XリーグIBMのRB陣にNFL仕込みの技術を教える多聞さん(中央)