パッカーズのキャンプは、本拠地の「ランボーフィールド」から車で5マイル(約8キロ、10分)のところにある「セントノーバート大学」で行われています。
 夏休み期間なので学生はほとんどが帰省などでいなくなっていて寮も空いています。ミーティングなどは教室などを利用します。食堂も学食で食べ放題システムです。


 NFLヨーロッパ(NFLE)の時よりもメニューに幅がありゴージャスです。明らかにお金のかかり方が違っています。
 アイスクリームコーナーには専門のお姉さんが待機しています。新聞なども取り放題。あちらこちらにチームグッズが放り投げてあり持ち帰り放題です。
 フットボールに関心が有る無しに関わらず、たまに会う学生さんらからは羨望の眼差しが向けられます。
 そりゃあそうでしょう。僕と河口マーサ以外はスーパースターです。まだNFLでは成功していない人でも大学、高校時代は街で知らない人がいないほどの有名人の集まりです。


 プロの選手は体つきが一般のアメリカ人とはまるっきり違うので、ベンチに座ってサングラスとヘッドフォンをしながらアイスクリームを食べていても「(パッカーズの)フットボールプレーヤー」だと一目でわかります。
 筋肉の付き方では河口マーサもNFL選手に負けていません。僕は100キロ以上あったのですが、当時はまるっきり普通の日本人留学生な感じで、アメリカ人には「テニス選手か?」とよく尋ねられました。


 学食で朝食をとり、渡米2日目、活動初日がいよいよやってきました。まずは契約です。ランボーフィールドまでチームのバンで連れて行かれたオフィスで、偉いおっちゃんが何人か待っていました。
 メディアも来ています。サインするシーンではストロボがバシャバシャッとなり無事にパッカーズの一員となれました。


 次は衣装を合わせます。用具係の長が案内してくれます。「お前ら、ここでヘルメットもらえ」と、バンバンとテーブルをたたいて若い衆を呼びつけました。
 若干口が悪そうです。でも、目は完全に笑っていて良い人そうですので問題はなさそうです。ヘルメットは基本「RIDDELL」ですが他のものも指定できます。フェイスマスクも好みのタイプをリクエストできます。


 あごひももいろいろありましたが、いつも使っているものをもらいました。その次はスパイク、人工芝用のシューズ、グローブ、そしてショルダーパッドです。「よっしゃ、ほんならロッカー行こか。そこで着替えて練習場行けや。午前はハーフパッドや間違えんなよ」と次の動きを教えてくれました。


 余談ですが、流行に敏感な僕は在庫で最も小さなものを選択しました。90年台前半から、NFLではショルダーパッドはクッション部分の機能が向上したことにより段々小さくなってきました。
 日本では体を大きく見せるために、とてつもなく大きなものが流行しており、フットボール専門店で「NFLみたいな小さいのを買いたい」と訴えても「危険だから」と絶対に売ってもらえませんでした。


 全部黄色と緑をあしらったチームカラーのお宝グッズばかりです。グローブだけがスポーツショップでも売っている通常タイプでした。
 その他の短パン、スエット上下、ソックス、ウインドブレーカー上下、キャップなどなど「必要かもしれないもの」を全て渡されました。


 そして個人用ロッカーに案内されると、そこに先ほど選びまくった防具類など全てが既に置かれているではありませんか。そして背中に「NAKAMURA」と書かれた練習用ジャージーが吊ってあります。感動です。
 僕は「20番」。RBとしては申し分のない番号です。ライオンズのバリー・サンダースと同じです。


 オフェンスは白いジャージー。ディフェンスは緑のジャージーで練習します。そして、どう猛な守備選手が気合が入りすぎて間違ってタックルしてしまわないようにQBだけ赤いジャージーを着て目立つようにしています。
 NFLではQBと他の選手の体力差が有りすぎて危険なのです。とは言っても、この時のQBは4人とも190センチ100キロクラスです。こんなのが日本にいれば間違いなくQBではありません。そんな連中が、いわゆる「虚弱なポジション」「虚弱な肉体」と位置付けられているのです。異常な世界です。


 この時のQB4人をご紹介しておきましょう。
 まずはご存知「4番・ブレット・ファーブ君」。僕と同い年。歯の矯正をしているので、口の中に違和感があり食べるのに不自由そうです。陽気でリーダーシップ旺盛なみんなのキャプテンです。
 「18番・ダグ・ペダーソン君」。一つ年上。NFLEの前身であるワールドリーグ「ニューヨーク・ナイツ」からマイアミ・ドルフィンズ入りした、数少ないドラフト外入団の生き残りです。無口で面白みがないのが欠点です。でも、人のギャグにはちゃんと反応して笑うんですね。
 選手としては大成しませんでしたが、指導者として開花しました。昨年はチーフスでオフェンスコーディネーターを務め、2016年シーズンはヘッドコーチとしてイーグルスを率いることになりました。


 「移籍の補欠・デービッド・クリングラー君」。同い年。大学時代は、パスを投げまくるラン&シュートのQBで「ライフルアーム」と言われドラフト1巡でシンシナティ・ベンガルズ入りしましたが、鳴かず飛ばずでパッカーズにやって来ました。
 常時眉毛が下がっていて、自信なさげで気の毒な感じです。ギャグを言う余裕はなく、何をやってもうまくいかない感じでした。


 「新人で補欠・マット・ハッセルベック君」。ドラフト6巡目の新人君ですが、見た目はおっちゃん。後にホルムグレン監督がシアトルに引っ張りスーパーボウルに出場しました。笑い大好き。彼のオモシロ逸話をここで書けないのは残念です。


 4人のQBとは一日2度の練習で何十回もハンドオフとパスキャッチをする機会がありましたが、やはりファーブ君がダントツなのです。
 ものが違うんです。NFLEのQBたちは、クリングラーやハッセルベックと同レベルですので、僕としては慣れた感じです。しかしペダーソンは一枚上。そしてその10枚ほど上なのがファーブでした。
 圧倒的に違うので「何が違うの?」と聞かれても「まるっきり全てが違う」としか答えようがありません。


 投球一つとっても柔らかいタッチ、コントロール、威力、スピード、全てが機械みたいで絵に描いたような精度でボールが飛んできます。基本の動作も含め、キッチリこまめに最後までプレーをやり切ります。
 この「やり切る」という感覚が、日本とアメリカの違いが大きく出る部分でもあります。これはまたそのうちお話しします。 

【写真】NFLパッカーズとの契約書にサインする多聞さん