僕が所属するライン・ファイアー対フランクフルト・ギャラクシー。大雨が降る中、NFLヨーロッパ(NFLE)のナンバーワンを決める「ワールドボウル」がいよいよ始まりました。
 大歓声は、大雨だとあまり響かないことを初めて知りました。


 ライン・ファイアーは、フリーフリッカーからロングパスが決まり相手陣内へ侵入。ゴール前に近づき3rdダウンでパスのコール、僕はRBのポジションに入りました。
 するとQBがセンターからのエクスチェンジでボールをファンブル。ボールを落としたQB本人はまさかの出来事にボールを見失っています。


 味方の11人でマイボールがファンブルで地面を転々としているのを知っているのは、当然QBの後方に位置しているRBの僕だけです。
 しかし同時に敵の守備選手からもそれは見えています。あんな大男たちとリカバーで激突してのボールの奪い合いなど猛烈にイヤです。イヤでイヤで仕方ありませんが、仕事ですので行くしかありません。


 この余計な迷いは0・3秒ほどだったでしょうか。僕は猛ダッシュして雨でビショビショに濡れた天然芝に頭からスライディングしてどうにか敵にボールを取られず、なおかつ痛い目にも遭わずにリカバーに成功しました。


 次の4thダウンはフィールドゴールで先取点を得ます。試合はそのまま一度も逆転されることなく完勝しました。エースQB(NFLのダラス・カウボーイズから派遣)が試合前にけがをして、控えのシアトル・シーホークスから派遣されたQBが初先発しましたが、これといったミスもなく、いつもと変わらぬ「ライン・ファイヤー・オフェンス」を演じられるアメリカ人の力量に感心しました。
 34―10。我がライン・ファイアーはNFLEのチャンピオンに輝きました。


 勝利チームには表彰式が待っています。キラキラ光る紙吹雪が何かしらの機械から大量に噴射され、フィールドはすごいことになっています。
 NFLのスーパーボウルでおなじみのとてつもなく巨大な表彰台がいつの間にか用意され、その上ではNFLEコミッショナーのオリバー・ラック氏から「ワールドボウル」の優勝トロフィーがヘッドコーチに授与されます。


 補欠の僕も数名しか上がれない表彰台の上に呼ばれてもないのに勝手に登り、ベンチに隠しておいた自作の優勝ハチマキを巻き、レギュラー選手が喜びを分かち合っている所から早々に奪い取り、メディアがたくさんいる方に向かって両手でこの「ワールドボウル」を頭上に掲げてポーズを取りました。
 ものすごい数のメディアが一斉にフラッシュを光らせます。何せ150カ国で放送されているわけですから、日本のソレとは桁が違います。興奮しきった僕はカメラの前でさんざん騒いで次の人にトロフィーを渡しました。


 そして次は表彰台から降りてファンの所へ行きサービスです。ファイアーのファンはまだ興奮したままで、スタンド内でチームの応援ソングを大合唱しています。
 チアリーダーも大雨の中でダンスを続けています。試合が終わり、選手としての仕事は終了していますから、少しぐらい遊んでも怒られることはないと踏んだ僕は、チアリーダーたちと一緒に優勝のダンスを踊りました。
 このシーンをタッチダウン誌でご覧になられた方もいらっしゃるのではないでしょうか。2ページブチ抜きのフルカラーで、フルスタイルの選手がブロンドの白人チアたちとダンスする写真など、真面目な専門誌にとって最初で最後のサービスカットだったのではないでしょうか。


 ほとんどのお客さんが、スタンドを追い出されるまでフィールドに残ってサインしたり握手したり写真を撮ったりし、ロッカールームに入りました。
 選手は大騒ぎです。タキシードを着たウエイターさんがシャンパンを丸いトレーに乗せて配っています。選手が裸でウロウロしているロッカールームですよ。そしてそのシャンパンでカンパイ&イッキ大会です。


 もったいないのでシャンパンファイトは一部で軽く行われた程度でした。そして大きな葉巻もたくさん用意されていました。
 葉巻とシャンパンは、アメリカではこういう時に必ずセットなんですね。以前に映画でも見たことがあったのを思い出しました。


 着替えて試合会場を出た僕たちは打ち上げ会場のスポーツバー「チャンピオン」へ行きました。そこにはチームメートやリーグの関係者が楽しそうに飲んでいました。
 以前にもこのコラムで書きましたが、ここであの49ersなどでセーフティーとして活躍したロニー・ロットさんと同席させていただくことになったのです。
 と言うより、僕らがビールを片手に座っているテーブルにハッと横を見たらロニーさんが座ってらしたのです。


 僕が日本から持って来ていた「さそり団」と書かれた赤いステッカーは、チームメートたちと飲みに行く時は必ず大量に持って行き、周りにいる僕から見れば外国人に「デコに貼れ!」と渡して、その店にいる人たちがみんな「さそり団」ステッカーをデコに貼っています。


 ロニーさんも「おいタモン、それ俺にもくれや!」とおっしゃるのでもちろん差し上げました。NFLで最も残虐なハードタックラーとして最強の守護神だったロニーさんが、異国のドイツで僕みたいな者と一緒にデコに日本語のステッカーを貼って気のいい酔っ払いに変身しています。
 ロニーさんと僕の交流は以下を参照ください。http://www.47news.jp/sports/turnover/column/nakamura/143878.html


 翌日、二日酔いでフランクフルトを去り、あとは納会みたいな集まりと細かい契約のこと、故郷へ帰る飛行機のこと、利用していたロッカーやホテルの部屋の整理、チームメートたちとの連絡先交換などをしました。


 「ヘルメットは持って帰るなよ。無くなっていたら100ドル給料から差し引くからな」というヘッドコーチからの通達がありました。それって、逆に言えば100ドル払ったらもらえるんかいな、と僕は大喜び。もちろん一つもらって帰りました。今でも実家に飾ってあります。

【写真】「ワールドボウル」の優勝トロフィーを掲げる多聞さん