通常の遠征よりも2日ほど早く、我々ライン・ファイアーはフランクフルト入りしました。調整もそうですが、さまざまなイベントがあるからでした。
 「ファンの集い」みたいなものはもちろんですが、いろいろな撮影会がありました。大聖堂のような歴史的な建物の横だったり試合会場だったり、練習とミーティング以外になにかと仕事がありました。


 さすがの僕も補欠とはいえ大試合のゲームウイークですので、得意のガイドブックなしの観光遊びは封印です。
 練習とミーティング、そしてメディアとファンへのサービスに明け暮れました。しかしそのメディアの中にはかつての名選手がテレビの解説者としていらしていました。
 NFLヨーロッパ(NFLE)はアメリカのFOXの放送ですので、49ersなどで名セーフティーとして活躍したロニー・ロットさんが解説者として現地入りしていました。


 ロットさんは2週ほど前から解説のためにヨーロッパに来ていたようで、決勝戦も担当すると聞きました。練習後、取材に来ていたロニーさんに話しかけられました。「タモン、どうや調子は?」と。俺の名前知ってるんかいな、とビビりました。緊張して「はい、ベリーグッドっす。ロニーさん解説っすか?」「せや、頑張れよ」「はい、頑張ります!」とスーパースターと会話できました。ラッキーでした。


 いよいよ試合当日です。朝からホテルに宝石商が来ていました。一人ずつ呼ばれて宝石商の陣取るエリアに向かいます。椅子に座らされると指の太さを測られます。
 ちょうど良かろうというサイズが決まり名前と背番号を確認され終了です。コレ、勝った時にもらえるはずの「チャンピオンリング」の採寸だったのです。試合前にこの演出、さすがプロですね。NFLですね。


 そしてホテルのレストランで食事しているテーブルクロスを無断で拝借し、マジックインキをフロントで借り、ハチマキを作りました。もちろん書く文字は「優勝」の二文字です。
 勝った後にこれを巻いてウロウロしておけば、外国メディアの注目を浴びるに違いない、という作戦です。これを小さなバッグに入れてこっそりベンチ脇に置いておくのです。


 試合会場の周りでは大イベントが催されていて、試合を控えた僕もファンの皆さんに混じって「NFL EXPERIENCE」を楽しみました。
 ワールドボウルに出場するとあって日本からもマスコミが来ています。記者さんと一緒にいろいろ回って写真もたくさん撮ってもらいました。


 僕は毎度毎度こうやってホームでもアウェーでも試合前に会場周辺を観光しています。試合の何時間も前から試合だけに集中しても良い結果が出るとも限りません。
 それよりもアウェー5チーム+地元の計6チーム分、どんなイベントをしているのか調査しておいたほうが将来のためになると思っていたようで、キックオフギリギリまで外で遊んでいることもありました。


 ワールドボウルの会場はこれまでとは違ってすごい人出です。売店やステージも普段とは気合いの入り方が違って見えます。
 同時期にフランスでサッカーのワールドカップをやっているらしく、NFL側もそんなのに負けないように盛り上げようという目論見だったのでしょう。


 午前中からお昼にかけては快晴でしたが、その後雲行きが怪しくなってきました。そして夕方から夜にかけて大雨に変わりました。


 フランクフルトのスタジアムに来るのは今季2度目。前回は歓声が大きすぎてどうにもならない状態でした。
 フランクフルトまでは200キロと少し離れていますが、決勝戦なのでファイアーのファンも多く来場されるはずです。ファイアーのファンも、フランクフルトがリーグで一番クラウドノイズ大きいことは知っています。一人でも多く参戦して少しでもクラウドノイズを下げてくれることを期待しました。


 決勝戦だからか、入場の花道に地元ドイツ出身の選手が一人一人名前をコールされ入場すると発表されました。
 そしてそこには僕の名前も入っていました。5万人弱集まった満員に近いスタジアムでそんな経験ができるとは。
 約160カ国以上に放送されるボウルゲームの入場に「TAMON NAKAMURA」の名前を呼ばれるなんて、うれしすぎます。大興奮状態で叫びながら、チアリーダーの作った花道を猛ダッシュしました。


 勝てば世界のフットボールチームで31番目に強いチーム。負けても32位です(当時はNFLのチームが30だった)。大学では練習に三人しか集まらなかったところから始まり、10年ほどでやっとここまで来ました。


 NFLのグリーンベイ・パッカーズのサマーキャンプへの招聘を聞かされていたこともあり、ここは軽く勝利して優勝リングを頂戴し、前年度スーパーボウル出場チームに乗り込むために景気づけしておかないとですね。


 「運」がどんどん転がり込んできています。

【写真】ファンから激励の日の丸をプレゼントされる多聞さん