チームの本拠地で、いよいよプロとしてのデビュー戦を迎えます。不安と期待が入り交じる中、プロという世界の特別な空間を味わう僕でした。

 1998年4月3日金曜日
 明日はいよいよ試合です。僕が出場するかもしれないプレーが10個発表され、僕がキャリーするランプレーも含まれています。大丈夫やろか? 心配です。


 1998年4月4日土曜日
 いよいよプロとしてのデビュー戦の日です。とりあえず朝からミーティングがあり、ホームゲームなのでホテルからいつものバスで球場入り。思っていた以上にファンがたくさん集まっていました。車の渋滞もすごいけど、「プレーヤー用バス」なので白バイで先導され、優先的に走行させてくれました。プロって本当にすごい世界。


 球場の周りの公園や駐車場ではお約束の「テールゲートパーティー」で大盛り上がり中。出店も山ほど出ていて、NFLエクスペリエンスの施設や、ステージでは有名スターがライブをしていて、ありとあらゆる遊びが集結しています。
 チームの広報の人に僕ともう一人だけが呼ばれ、ライブの合間にステージに上げられ、DJにインタビューされました。数千人がいる前で英語でインタビューってアンタ。でも、ここでもしっかり「つかみ」はやっておかないといけません。
 「ハロー、デュッセルドルフ(これはこのまま)! 私は日本から来ました、番号は21のタモンです(ドイツ語で)!」と叫ぶと、大観衆から拍手喝采大盛り上がりです。作戦成功。その後は、街にいてもどこにいても名前を呼ばれてサイン攻めにあいまくりました。


 練習でいつも使っているロッカールームに行くと、自分のスペースに試合用ユニフォームが吊るしてあります。ヘルメットもワックスでピッカピカに磨かれ、細かい部品も新品に取り替えられていました。さすがプロです。
 日本では前に日に自分でやることを、プロになれば誰かがやってくれるわけですね。燃えてきます。そして皆より少し遅れて試合前練習に参加、スタンドにもお客さんが少しずつ入り始めています。


 花火と大砲が鳴る派手な入場行進で僕も緊張していながらも超興奮状態です。開幕戦なのでアメリカから来たNFLのコミッショナーがコイントス。やっとここまで来れたんやなと思い、とてもうれしい気持ちになっていました。


 フィールドから客席を見上げると全体が揺れて見え、企業の動員などではなく、熱狂的なファンのひとりひとりが自分のお金で入場し、思い思いのスタイルで大騒ぎしてわれわれ(僕以外)のプレーを見に来ているのです。
 「この感動を忘れたくない」と当時の日記に書いてあります。「でもシーズンの終わりには慣れてしまっているんやろうけど」とも書いてあります。全くその通りになりましたが…。


 試合では極度に緊張もせず、伸び伸びとやれた気がします。オフェンスで15プレー出場。残念ながらボールをキャリーするチャンスはもらえず全てパスプレー。プロテクションは一つ間違えました。
 キッキングでは多く出場しましたが、パントリターンチームで2回ほど相手にやられてしまいました。アメリカ人の本気のパワーに早く慣れないといけません。


 オフェンスのプレーで問題が生じたことがありました。ワンバックで左のタイトエンド+3人のレシーバーを置いた隊形から、3歩ドロップバックのパス。ランニングバックの僕は右側守備エンドのインサイドナンバーへ突っ込んでプロテクションするのが任務です。


 195センチはあろうかという手脚の長い汗だくの黒人選手が第3ダウンのパスシチュエーションでブルブル言ってQBサックを目論んでいます。
 ビビった僕は彼の番号が書いてある胴体の部分ではなく、右の膝あたりに突っ込みました。衝撃は少なかったのですが彼は見事に転倒し、パスも成功で僕は役割を全うしました。


 パスが成功したのでファーストダウンになり、僕はベンチに下がります。チームメートからヘルメットをたたかれ「ナイスブロックや!」「ナイスやタモン!」と賞賛されまくったのですが「でもな、次はやるなよ。もう無理やぞ」「2回目は無理やで」「あれはアカンで」と、みんなに言われました。
 結果など良くても、シーズン初盤です。「ライン・ファイアーの21番はヘタレやから下に寝っ込んで来よる」というデータを蓄積されただけだと言われました。
 195センチのディフェンスエンドをどうやってプロテクションするん? と悩む前に、試合で他のアメリカ人ランニングバックがどうやっているか学ぶしかありません。

 
その後、アメリカ人の習性を自分で研究してわかったのですが、初対決時にそんな「奇襲」をすると男気がないヘタレ。自分から僕は弱いですと言っているようなものなので、今後ずっとなめられるそうです。
 つまり永遠にイニシアチブを取られてしまう、という図式になっているのです。アメリカは結果だけではなく、そのプレーヤーが選手として皆から認められる「オトコ」なのかどうかが、何よりも重要なのですね。


 日本では、どんなにカッコ悪くても試合に勝てば構わない。なぜか? それが目標だからですね。
 でもアメリカ人はNFLのチームに認められ、メディアから認められ、ファンに認められ、コーチから認められ、他の選手からも認められる必要があるのです。まず自分の活躍があり、それを有効に使って試合にも勝つ。


 他人やチームに気遣いする前に自分がもっと頑張る。アメリカ人はこの集合体です。そしてそんな猛者どもを軽く手なづける大親分が「ヘッドコーチ」ですね。


 ライン・ファイアーにも、おじいちゃんの素晴らしいヘッドコーチ(ランニングバック担当・現フロリダ在住)がいました。沢山のことを教えてくださいました。


 まだ開幕戦です。毎週ドラマがあるのかどうなのか、とにかく少しでも多くの情報をキャッチしてうまくなって帰国するぞ、と張り切る僕でした。
 試合後はもちろん皆んなでナイトクラブへ飲みに行き、ベロンベロンで就寝しました。明日は朝からコンディショニングです。

【写真】ナイトクラブでチームメートと息抜きする多聞さん