フットボールのルールがわからなくても楽しめるプレーヤー。僕が目指していたスタイルであり、僕が好きなプレーヤーです。
 「すごいブロック」に代表される、玄人好みな活躍がなければフットボールが成り立たないのは百も承知ですが、試合会場でリプレーが見られないことがほとんどの日本では、最近流行の「アンサングヒーロー」の活躍を素人が発見するのは非常に難しいと思います。


 今、日本のフットボールに求められるのは「スーパースター」です。誰が見ていても活躍していることが明確にわかるパフォーマンス。初めて試合会場に連れて来られたフットボールに興味のない人でも「あの人が活躍しているのだけはわかる」と言われるプレーヤー。そして数カ月後に、たまたま見たスポーツニュースでチーム名や名前を見つけるのです。
 お正月に暇だからたまたまつけたテレビでまたその名前を見つけ「あ、この人知っている。この前試合を見に行った時にすごく目立っていたので覚えてる」と言われるプレーヤーですね。


 日本のフットボールでは過去現在を通してダントツに有名で、一般の人からも名前を知られていた京都大学の東海辰弥氏。新聞にも載るほどのニックネームは「怪物くん」。


 メンバーをスポーツ推薦で入学させることができない国立大学なのに、2年連続で日本一になり、社会人のアサヒビール・シルバースターでも大活躍。クオーターバックなのにライン級の体格を持ち、野球経験者らしい抜群の運動神経と強肩、そして強気で豪快なプレースタイルとリーダーシップでフットボールを見る人を魅了してやみませんでした。


 立命館大学からプロフットボールに挑戦し続け、日本では全くの敵なし状態な河口正史氏も守備選手ながら観客やテレビの視聴者を楽しませました。
 高校時代をアメリカで過ごしウエートリフティングやフットボールで体と技術を鍛え上げ、日本では見たことのない太い腕、すさまじいスピードと破壊力のあるタックルでブロッカーもろともはね飛ばして仕留めるスタイル。


 プレーが始まる前に味方選手とのコミュニケーションの取り方、タックルしたあとのアクションや仕草は斬新で、見ている我々には「ワルっぽいアメリカ」を感じさせてくれました。日本にもいよいよこんなのが出てきたんだな、と当時を知る人は感じたと思います。


 そして、日本大学フェニックスの篠竹幹夫監督。東京で年配の方とフットボールの話をすると「ニチダイ」という名前は必ず出てきます。「日大にすごい監督いたよね。えーっとシノタケ監督、怖い監督さん」となります。
 篠竹監督が常勝日大を長期間率いておられた頃、関東での有名度はハンパではなかったという証拠でしょう。
 テレビに映る強面で選手をしかりつけるシーン、インタビューに答える時の目つきや声、その迫力は一度見た人の記憶に焼きつくには十分だったということです。


 やはりそれがカリスマ性でありスター性。三武ペガサス時代に日本大学との合同練習で数度お会いしましたが、ふざけた僕のような人間でも話しかけるような大それたマネはできませんでした。


 そしてその篠竹監督の下で1980年代前半に活躍した日本大学フェニックスの名クオーターバック松岡秀樹氏。在籍した4年間すべて甲子園ボウルに出場し、長身で俊足、投げる投げると思わせて走り出したら止まらない。
 怪物くんと同じく野球経験者なので運動神経と根性は抜群。甘いマスクと8頭身で野球選手のごとく老若男女を問わず羨望のまなざしを浴びた数少ないスーパースターです。


 いずれの方も、非常に大きくわかりやすい特徴や武器を持ち、大きな大会で結果を出している人たちです。よく売れる商品なども同じことが言えるのではないでしょうか。予想や期待を裏切らない部分でも共通しています。


 最近ではアメリカ人選手が社会人リーグで猛威を振るっていますが、なかなかスーパースターが出てきません。
 我々はカタカナの名前を覚えるのが得意ではない日本人ですので、もっともっとテレビや新聞で名前を連呼されないと、記憶に残りません。


 ジーコ、マスカラス、ラモス、バース、クロマティ、ブッチャー、ラミレス、ローズ、アンディ・フグ、ストイコビッチ、デストロイヤーといった他スポーツの外国人超有名選手の名前はメディアでさんざん聞きましたし目にしましたので覚えています。


 この場合も長期間に渡って日本で活躍し続けてもらうしかありませんので、早期の帰国は勘弁してもらいたい。その点、オービックのケビン・ジャクソン氏は、あれほど優しく知的なお人柄とは思えない残虐性のあるプレースタイルで、日本のフットボールに非常に貢献されていると思います。
 彼に続く外国人選手を熱望します。2、3年チョロっと冷やかしでプレーして帰っちゃうみたいな選手はフットボール全体のファンからすると不必要です。


 そして今、日本で圧倒的なパフォーマンスを見せてくれる選手といえば、オービック・シーガルズのワイドレシーバー木下典明選手だと思います。
 驚くべきスピードとアクセラレーションで敵をブチ抜く様は、放送するテレビ局が彼を撮るためだけに2台3台の専用カメラを用意すべき価値のある唯一の選手でしょう。


 しかし、残念ながらポジションがワイドレシーバーなので常時ボールを持つわけではありません。よって活躍する機会が非常に限られているのが僕はとても不満です。スターではなく「スーパースター」というのは皆さんがどう思おうが昔から「クオーターバック」と相場が決まっています。
 NFLのスーパーボウルMVP受賞者も過去49回で半数以上の27人ものクオーターバックが獲得しています。


 ワイドレシーバーとリターナーを兼任する木下選手にはもっともっとボールを持つ機会を与えて大暴れしてもらい、街を歩くフットボールに無関係なオッサンたちにも名前を知ってもらえるようになってほしいと思います。


 そのためには、クオーターバックやランニングバックのポジションからのプレーや、守備でも出場してインターセプトから独走タッチダウン(60minutes man=60分間オトコ=試合に出ずっぱりの体力、実力ともにリーグの遥か上に位置する神に近い存在)するなど、過去に例のないスタイルでスター街道を邁進してもらいたいです。
 あれだけの能力を1試合に10回やそこらだけのボールキャリーでは「スーパースター」を待ち焦がれる我々としては満足できません。


 春のシーズンが始まりました。今年は世界選手権もありますので、いろいろ楽しみですねー。

【写真】シニアフットボールで現役QBとしてプレーする松岡秀樹さん(左)と多聞さん