NFLヨーロッパ(NFLE)のアトランタキャンプも佳境に入ってきました。日々レベルも強度も上がる練習に苦戦しながら、ヒントももらえる毎日。ここからが正念場です。


 1998年3月14日
 朝起きて体重を測ったら216ポンド(98キロ)でした。2週間もアメリカ人と1日2回練習の合宿だと、好きなだけ食べ放題でも体重が減ってきているのです。素晴らしい! 
 初日の身体測定の日は225ポンド(102キロ)でした。まあでも、あの時は前日にビールしこたま飲んでいるし、ドーピングチェックの検尿用に水分を山ほど摂取させられたので、イマイチ正確さに欠ける気もします。


 1998年3月15日
 今日は日本にいる僕のパパ(注1)のお誕生日です。51歳おめでとう。
今日も対外スクリメージです。日本人コーチたちもたくさん見学にいらしています。恐怖感もだんだんと薄れていますが、やっぱり本気のタックルが来る練習試合はイヤなもんです。まあ試合ほどのハードヒットではない(注2)のですが。


 まず左側へのインサイドゾーン。なんと10ヤードゲインです。そして次はパスなのでプロテクション。幸いブリッツしてくるラインバッカーはなし。3プレー目は左のインサイドゾーンからバウンスアウトして切れ上がる得意のプレーでしたがノーゲイン。次はパス。
 そして5プレー目も左のインサイドゾーンで11ヤードゲイン。なかなかの出来で本人は上機嫌です。しかし落とし穴がありました。5歩ドロップバックするパスプレーの時にプロテクションするラインバッカーがいなければコースに出るのですが、このコースを間違っていたことが夜のミーティングで発覚。いいゲインをしたランプレーがキレイサッパリ台無しになりました。


 プラスマイナスで、マイナスです。ガックリ。ミーティング後、ホテルのバーで一人たそがれながらビール飲んでいたら、コーチがやってきて笑顔で「多聞、今日はよう頑張ったな。でも選手はここでビール飲んだらアカンねんぞ。はよ部屋帰って寝ろ」と言われましたが、日本人コーチたちのツアーも最後の日が近づいていると聞いて数人が集まり、3軒ハシゴ(注3)して就寝しました。


 1998年3月16日
 対外スクリメージの翌日、朝かユニホームを与えられて集合写真と個人写真(注4)の撮影です。あれ? ランニングバックが一人少ない。「筋肉番長」がいない。そうしたらコーチが「あいつは今朝早くに故郷へ帰った。クビや」と。キビシー、さすがプロ!
 昨日の好ゲインでチームメートから人間として対応(注5)してもらえるようになり、体の疲れや痛みも我慢や! と元気が湧いてきました。今日の練習はヘルメットだけの軽めで終了。スクリメージを撮影したVTRをしつこく何度も見て自分を検証。部屋に帰って仮眠したら夜のミーティングに遅刻。「めっちゃすいませんコーチ。ホンマすいません許してください!」って感情を込めた英語が言えずに顔芸で反省を演出し、クビにならずに(注6)すみました。
 居眠りで夕食をミスしてしまったので近所のピザ屋で外食。でっかい丸(注7)のペパロニピザが2ドル99セントでドリンク付き。どんな仕組みでこの値段やねんアメリカ。小麦の仕入れタダ(注8)なんか!


 1998年3月17日
 29歳を迎えました。朝からホテルやバスやら食堂やらでみんなから「誕生日おめでとう」って声をかけられます。ものすごい人数になっています。話したことのない守備の選手や、リーグの人まで。からかわれているのか、そういう文化なのかわかりませんが、とてもうれしい気持ちになりました。
 そして練習後にはヘッドコーチ(ヒゲなしサンタ)が選手全員にハッピーバースデーソングを合唱させてくださり、チームのオーナーもドイツからキャンプ地視察で訪れていたので大きなケーキを用意してくれていました。素晴らしい体験ですわ。
 「多聞何歳なん?」「29」「えー?!なんてなんて? もっかい言うて。歳聞いてんねん歳! 何歳なん多聞!」と聞き返されます。29歳ってイッパツでわかってもらえない理由は僕の英語の発音が悪いことはもちろんですが、彼らが、まさかこいつが自分らよりかなり年上だと思っていないこと。これに尽きます。
 ま、うまければ興味も沸いただろうし、下手なのが悪いんです。素晴らしい体験やとか感傷に浸っていたらコレや。あーもー朝からしんど!


 で、このあとの練習で「最強ランニングバックへの道」のきっかけをつかみます。視野のことで以前いろいろ書きましたが、この時に視野の広さや見る場所が違うとここまで変わるのか、という感動が僕を襲いました。
 昨日まではアメリカ人ディフェンスがさまざまな角度からあらゆる場所に急に飛び込んで来ていたのですが、「視野」が変わると飛び込んでくる随分前からディフェンスが見えるようになったのです。神さまがくれた29歳の誕生日プレゼントは視野(注9)でした。もっといろいろちょうだい神様―。


(注1)中村政雄1947年生まれの競泳バタフライ滋賀県代表の国体選手
(注2)そんなのはシーズンに入ってから判明したことであって、この時はホントに怖くて逃げたくて仕方ありませんでした
(注3)こんなにビール飲んでいてもやせるという素晴らしい合宿
(注4)そのシーンを横から自分のカメラで撮ってもらっておきました(写真)
(注5)アメリカではどの程度の実力があるのかが重要なんです
(注6)ランニングバックコーチはヘッドコーチが兼任。ヒゲなしサンタクロース
(注7)直径40センチはある分厚いピザ。至福の時間。ピザ食べ放題
(注8)うちの店ではピザ用の小麦粉を元チャレンジャーズ守備エンド古河氏の経営するワイン専門店で輸入してもらっていますが、材料の量から考えてざっと30倍はします。いったい何がどうなっているのでしょうか
(注9)あと足らないのは判断力。そしてケーススタディーと成功に裏付けられた自信、そしてチームからの信頼です

【写真】1998年3月17日、NFLEのキャンプ地アトランタで29歳の誕生日を迎えた多聞さん