NFLヨーロッパ(NFLE)のアトランタキャンプが始まりました。「マイナーリーグ」とはいえ、元NFL選手もいてレベルは低くありません。


 1998年3月1日(日)
 午後からいよいよ初練習。今では日本でもお馴染みの「ヘルメットのみ」です。軽くフォーメーションの確認をしましたが、コーチに呼んでもらえたのはたったの2プレーでした。


 アメリカ人QBから英語で作戦が伝えられるハドルも初体験。シンプルな隊形からインサイドのランプレーが伝えられ、ミーティングの通りとはいえ緊張してガタガタながら、どうにかこなしました。
 この時はまだメチャクチャに下手くそなので、今考えれば僕の走りを見たアメリカ人たちは「アチャー、何やこいつ!」と思ったことでしょう。まあ、マイナーリーグの練習ですが、日本人初のNFLでのボールキャリー達成(注1)です。おめでとう俺。でもかなり先行き不安。


 1998年3月2日(月)
 6時30分から朝食。今日から完全防備のフルパッド練習が始まります。足首にテーピングをしてもらいましたが、昨年のファイナル6以来4カ月ぶりのテーピングです。
 そのせいか少し気合いが入り、いったん休憩した午後の練習ではタックルなしのスクリメージです。サンスター・ファイニーズのオフェンスが97年から採用した「ゾーン(注2)」がそのまま同じなので、もっと上手にできてもいいようなものですが全くダメです。


 アメリカ人の大きさとスピードに終始圧倒され、どうにもこうにもなりません。ランニングバックには僕の他に黒人選手が4人。NFLのドラフトでは5巡で全体112位、公式戦での活躍も記録に残っており、高校では陸上で100メートルを10秒4で走った男がフットボールキャリアの最後になぜかマイナーリーグでのプレーを選んだ175センチ、90キロちょいのモジャモジャ頭の「モジャ」。
 また、同じくNFLのパンサーズから来た身長165センチ、95キロの「ズングリムックリ」君は、40ヤードを4秒3で走ります。


 ドイツのファンから絶大な人気を誇るエースは元デンバー・ブロンコスで185センチ、110キロの大型ですがパスを捕るのがうまく、インサイドのラン技術がピカイチです。
 「やつはすごい才能があるのに体を一切鍛えないからNFLに戻れないんだよ」と別のコーチから聞かされた「エース」。そして4人目はニックネームを「筋肉番長」と名付けたほどのマッチョマンです。


 皮下脂肪がほとんどないのに体重は100キロちょい、身長175センチで、いつもゲップをして「Cuse Me」って言います。「ズングリムックリ」も「筋肉番長」もベンチプレスのウォームアップが140キロ。こんな連中(注3)とどの部分で渡り合えるのかみじんも見えてきません。消える寸前のヤル気の炎がより一層消えそうになった一日でした。


 1998年3月3日(火)
 目覚まし時計の音で目が覚めたのはいいのですが、全身がとんでもない筋肉痛です。そりゃあそうでしょう。オフのトレーニングは怠っていなかったとはいえ、NFLのプロ(注4)と練習したのですから、体中が緊張してこわばってとんでもない疲労感に襲われていましたから。


 足の裏から頭のてっぺんまで、筋肉と言う筋肉が全て悲鳴をあげています。こんな時は栄養と欲求を満たすのが全てです。大好物のパンとソーセージとタマゴとオレンジジュース(注5)が食堂で僕を待っています。
 ガッツリ満腹になり、午前の練習に入ります。ハーフスタイルという、ヘルメットとショルダーパッドだけの練習です。下は防具のないスウェットパンツや短パンをはきます。


 装具やジャージー、トレーニング用ウエア、チームグッズなど、自前で用意するものは何もありません。練習で使う下着からシューズ、全て貸与されます。
 貸与といっても、試合で使う物以外は一度使用されれば再利用されることはありませんので事実上もらえます。


 用具係には日本から大量のお土産を持参しているので、アメリカのプロにしか出回っていない服や道具を山ほど持ち帰った僕は天才ですね。
 と浮かれていたら、スクリメージ中に僕をタックルしに来て(タックル無し練習なのでランニングバックはそのまま突き抜けます)かわしてくれた守備選手の膝が僕の膝に激突。プロのアメリカ人ラインバッカーに膝蹴りされた僕の膝はみるみる腫れ、関節が動きにくくなってきました。


 しかし見るからに最も下手くそなアジア人が「コーチ、さっきのどうでもいいシーンでけがしたので、休んでイイッスかー?」などと言えるはずもなく(というかそんな英語わかんない)なんとか練習を終わりまでやりすごしました。


 ホテルに帰ってプールとジャグジーでリラックス。アイシングで膝を冷やしまくりました。今じゃ当たり前ですが、「痛いところを人前で氷をあてがうなど弱虫のすることだ。武士ならそのまま死ね!」と、三武ペガサスで教育されていましたので非常に戸惑っていたら、ルームメートの風呂に入るのが嫌いなオーレ君には見られてしまいました。


 この日見た夢は、当時1歳位だった長女チコが僕の方に駆け寄ってくるシーンでした。完全にホームシックのヘタレ状態ですが明日も頑張ります。


(注1)初かどうかは僕が決めていますし、この件も僕だけの記録です
(注2)わからん人はネットで調べよう
(注3)RB陣のリザルト
・「ズングリムックリ」ベンチプレス最大445ポンド、40ヤード走4秒3
・「筋肉番長」ベンチプレス最大445ポンド、40ヤード走4秒4
・「モジャ」ベンチプレスやらない、100メートル走10秒4
・「エース」ベンチプレスやらない、40ヤード走4秒7
(注4)Xリーグのチームにチェスナットの選手が混ざっている感じです
(注5)ここで白ご飯が出てきたら確実に帰国していましたね

【写真】NFLEのキャンプに参加する多聞さん