スーパーボウルが昨年(注1)とは打って変わって、イイ感じの盛り上がりを見せて今年のフットボールシーズンが終わりましたね。
 ハーフタイムショーのメーンを飾ったケイティ・ペリーが、ゲストのミッシー・エリオットに食われていたように感じたのは僕だけでしょうか?


 10年ぐらい前からパタッと表舞台に出てこなくなったので「もうけすぎて悠々自適な暮らしをしているんだろーなー」と思っていたらご病気だったんですねー。ま、日本のフットボールファンはミッシーなんて言われてもご存知ないでしょうけど。


 さて、肝心の試合を振り返ってみましょう。
 前半を14―14の同点で折り返し、最後の最後までどちらが勝つかわからない非常に見応えのある「好ゲーム」でした、と簡単に書けばなんと2行で収まってしまうのですが、専門的に掘り下げていくと全く面白くないウンチクを並べるしかありませんので、興味深い点を僕なりに検証してみたいと思います。


 残り試合時間わずかで、相手のゴール前まで前進し、あと少しで逆転&試合終了というシーンで、守備側がパスをインターセプトし試合が終了。「ここでなんでパスを投げろとシーホークスのコーチは指示したのか?」がアメリカで大きな議論となっているそうです。もちろん日本でも意見している人が多くいます。


 NFLで勝ち続けられるほど専門的なプレー選択の能力は、当然僕にはありませんが、残念ながらネットで意見している人々にもその能力はありません。ましてやNFLでは年間20試合ほどを勝ち進み、とんでもない人数が注目する中で重圧に打ち勝って、選手やスタッフをまとめ、すべての作戦に目を配って責任を取り続ける、というのがヘッドコーチの役割の一つです。


 ビール片手にプロ野球を見ながら「なんでそこで敬遠やねん! 直球で勝負せえや!」と言っているお父さんと同じですかね。その局面だけを何のプレッシャーもない人が熱心に批評(注2)するヒマあったら「母校帰って後輩を教えに行きなはれ!」と言いたいですね。


 プロのコーチ(注3)は、作戦を考え続けて24時間を生きています。土曜と日曜になれば仕事がお休みで、家で家族とゆっくりできるエリート社会人とは人生の密度が違います。
 プロのコーチに休息や家族との時間などありません。年がら年中良い作戦を考えて試行錯誤し、練習や会議がないときでもズーッと勝つためのことを考えています。


 家でリラックスする暇があればチームのことを考えておきたい、というのがコーチの心理です。そこまでしているコーチという生き物が、最後の最後で「作戦の選択」をミスすることなどありません。結果がどうなろうとそれは「ミス」ではないのです。コレが僕の中の大前提です。


 僕は日本のチームで6人(注4)のヘッドコーチ(か監督か知らんけど)の下でプレーをした経験があります。その中で、「さすが、いいプレー選ぶねー!」「あれ? 変なプレーだなー」「ココでこのプレーかよ!」「なんでやねん!」などといろんな気持ちを持ったことがあります。


 自分の少しの経験とスーパーボウルの局面とを比較しては申し訳ありませんが、社会人選手権を「ジャパンエックスボウル(昔は東京スーパーボウルと言いました)」と呼びます。その舞台で僕は150ヤード以上走り最優秀選手賞(MVP)をもらったことがありますが、なんと僕はそのゲームでタッチダウンをしていないのです。


 アサヒ飲料攻撃隊の中核となる僕のランプレーで得点していないのです。アサヒ飲料のコーチは絶対に負けられない試合の重要なシーンで、僕にボールを持たせるフェイクで他の人が持ったり、パスしたりというプレー選択をしたのです。


 もちろんその時は敵味方全員がダマされウマくいきました。でも、もしこれがうまくいかなかったらどうなっていたか? 
 ゴール前のショートヤード。あれだけ進んでいた僕のランプレーでタッチダウンを取りに来るはずだと会場中の誰しもがそう思っていた所に別のプレー。当然テレビカメラもだまされました。これがコーチの仕事です。プロの仕事です。他の人がスコアしてあんなにうれしかったのは、後にも先にもそのゲームだけです。


 別の年の日本選手権(ライスボウル)では2週間しか練習していない特別なフォーメーションと作戦で戦い、学生さんに負けました。
 が、自分の信じるコーチが選んだ作戦ですので、間違いなく今の自分たちが最も勝利できる確率の高い選択をしているのだと決めつけて試合しました。疑う余地というか、そういう知恵すらありませんでしたけども。


 プレーの選択は、その時にフィールド内にいる選手、そしてその周りにいるコーチ、観客やその他が予想できないものでないと「プロのコーチ」としての能力に欠けます。
 アサヒ飲料では「うそ、ココでそれいくのん!」というプレーがコールされ、うまくいったことが何度も何度もありました。3rdダウンロングのシチュエーションで中央のラン攻撃や、パントやフィールドゴールの構えからパスを投げたりというのもその一つです。


 今回のシーホークスが選択したプレーはたまたまインターセプトで失敗となってしまいましたが、投げられた瞬間はタッチダウンを信じ、僕も「シーホークス2連覇かよー!」と思いました。
 が、ドラフト外で入った新人君が、研ぎ澄まされた自身の勘を頼りに根性を見せてシーホークスの願いをぶっ壊したってだけのハナシやと思います。そうです。単なる個人の超ファインプレーなんですね。


 ま、要するに無関係の人たちから批判の的にされるくらいじゃないと、人気スポーツとは言えず、注目されていないということですね。日本のフットボール界でも、おべんちゃらの上っ面だけの褒めちぎり解説ではなく、本音で語る辛辣な解説者が増えてくればいいですね。


(注1)出場チームの州が大麻を医療用以外にも合法としたので別名「マリワナボウル」と言われた大会。8―43でデンバー・ブロンコスがぼろ負けしました
(注2)自分のフットボールインテリジェンスを友達に自慢したいだけなのでしょう
(注3)プロのコーチがいかにすごいか大変か、しっかりと知っている人はまだまだ日本には少ないので、ついつい出身大学の偉大なコーチと重ねてしまう気持ちはわかりますが、残念ながら10倍は違うと思います。日本フットボール界はそれも含めてレベルアップが必要なことも忘れてはなりません。現在はトップコーチ同士の競争もほとんどないのが実情です
(注4)偉そうにしている僕ですが、結局のところ藤田智コーチ(現富士通)でなければ全く活躍できなかったわけです。ほかのコーチでは僕を活躍させることができなかったわけで、いかに能力が低く、扱いが難しい人材かが証明されています。「フットボール選手が活躍するには、どんなコーチに仕えるかが非常に重要な鍵となる」を信じて疑わないのはそのためです

【写真】スーパーボウルの翌日、記者会見に臨むペイトリオッツのQBブレイディ=提供:さそり団