ワールドリーグ(後のNFLヨーロッパ)のトライアウトは、大きなミスもなく無事に終了しました。自分がやれることは全てやったので、また落選したら悔いが残ります。
 しかし、トライアウトは昨日、関東地区でも開催されています。それはそれはすごいメンバーが参加していました。


 すでに社会人リーグでは敵なし状態の腕に覚えがある全日本級の選手がゾロリです。このトライアウトは、ある一定の点を取れば合格するのではなく、その中で上から何人(受験時には未発表)かが合格する仕組みなので、自分の出来がいくらよかろうが、他人様の点が上だと昨年同様不合格になるのです。


 実は前日の関東地区トライアウトに三武ペガサス時代の仲間に偵察に行ってもらいました。どこの誰が受験しに来ているのかを、ユニフォーム姿でない「顔」「体つき」だけで判断せねばならないので正確な情報を確保するのに苦労したかとは思います。しかし、試験内容はおそらく大阪地区も同じになるのは常識から言って当然です。
 行われる順序や方法、受験者の記録はもちろん、外野で見学する人々の反応や印象まで細かくリポートしてくれました。


 大阪地区での会場は、僕の住んでいた場所から自転車でスグの場所である長居球技場(現キンチョウスタジアム)ですので、人工芝の状態などは1カ月前にもゲームで走っていますから、シューズの選択は雨用と晴れ用の2種類で済みますので楽なもんです。


 体調も最高、準備も万端、集中力も抜群、苦手なフットボールインテリジェンス(IQからこっちに変えてみた)を問われるクイズも有りません。
 体重はスピード重視で96キロに減らしました。それでも他の日本人バックフィールドの平均値よりかなり重くて大きいので問題ないでしょう。


 「では以上でトライアウトを終了します。合格者には本日か明日に連絡がいきますので携帯電話を常時持っておいてください」の声で2年間の鍛錬が終わりました。


 一番大変だったのがやはり減量ですね。ダイエット。前に書いたように給与が少なかったので外食することもできず、太る要素が少ないにも関わらず、どうしても勝手に大きくなってしまう体は、少しでも余分に栄養を摂取すると綿密に立てた減量計画がパーになってしまいます。


 現時点では、後に到達する自身の技術の最高地点と比べるとパーフェクトな「ド下手」ですので、むやみに体重を落としきってしまうのも恐怖があります。
 何しろ体重別の競技ではないので、強くて速い者が有利なのは、どの対戦型競技でも同じでしょう。


 我慢に我慢をしたワケですから、応援してくれたり支えてくれたみんなと食べ放題飲み放題のパーティーへと繰り出すことにしました。早朝から始まったトライアウトが終わったのは午前中です。


 「こんな時間からどこで生ビール飲めるかわかる?」とみんなに聞いても当然知りません。20代の若者が午前中から団体で飲める店を熟知しているはずがありません。
 現在のようにネットでの情報がなく、飲食店検索は経験と知識のみが物を言う時代です。でもキラッとひらめきました。ファミリーレストランです。あそこならビールと唐揚げと広い席があるはずだと!


 先行部隊が長居公園近くのファミレスを訪れ席取りします。赤ん坊なども含めば20人弱だったと思います。スポンサーがてら父親も参加です。というか僕の父はスタンドであの応援を一緒にやってたんか? とか考えていたら到着しました1杯目の生ビール中ジョッキが!! 


 唐揚げもドンドン出てきます。この店に在庫している生ビールと唐揚げとフライドポテト全部食い尽くせとばかりに暴飲暴食しました。
 日曜日のランチタイム時にファミリーレストランで宴会をするなど、店はまだしも他の家族連れには大変ご迷惑をお掛けしたかもしれません。


 そして宴会をしていてフッとある約束を思い出しました。トライアウトのあった同じ会場で午後から友人が出場するエックスリーグのゲームがあったのです。これに「多聞さん、僕の応援来てくださいよー!」なんて言われていたので、ファミリーレストランの会計を済ませ会場に戻りました。


 その前に「ひとり1本、ウイスキーかテキーラを買うてラッパ飲みで応援」というルールを制定し、酒屋に寄って安いのを買いました。
 これだけみんなが酔っ払ってハイになっているので、応援はさぞ盛り上がるはずですが、騒ぎすぎでつまみ出されてはいけませんので選手証では入場せず、あくまで一般客を装うために当日券を買い入場です。


 半券を捨てては買ったという証拠が残らないので、キッチリ持ったまま騒ぐ(応援する)ようにというルールも新たに制定され、スタンドに陣取りました。さっきまで僕を応援していた主役の「ペガサス大太鼓」もあるので準備はバッチリ。


 応援するチームはなんと「アサヒ飲料ワイルドジョー」です。その友人は守備側の選手でしたが、ドリームディフェンスとうたわれたユニットに入っていないわけで、我々にとってはまさかのベンチスタートです。
 こうなると僕らも何を応援しにきたかわからなくなります。アサヒ飲料を応援するのは今年2度目。最初は自分の利害のため。そして今回は新しい友人のため。


 よそのチームを応援するのは、自分もそれほど気分のいいもんじゃないですが、約束ですから仕方ありません。彼の出番を待ちます。しかし出てきません。たまに出てきてもキッキングでボールにも関わらないので面白くありません。


 そこでクチから出るのがやはりコレです。「キトー出せー! 勝手に出てまえー!」コールです。キトー君の正確なポジションも知らないまま太鼓叩いてどんちゃん騒ぎです。
 アサヒ飲料ベンチからは怒りのニラミが我々に向けられていましたが、おたくのチームメートから正式に依頼されている応援団なんだから、そんな怖い顔してにらんじゃダメだよ、となります。


 そうこうしているうちに、携帯電話が鳴ります。「中村さん合格です。おめでとうございます。つきましては、合格者記者発表に参加するため上京してください」と。


 電話がなった時点で我々のテンションは最高潮、そして僕が「合格? ありがとうございます!」と、ガッツポーズして大声で叫んだものだから、スタンドに来ていたファイニーズチア軍団も祝福のダンスを舞ってくださり、周りの人たちもどういう事情かを認識してくれたようで、スタンドのその辺りはゲームに集中しない時間が発生しました。


 そしてひとしきり騒いだ後に、先方から追加がありました。「このことは秘密です。記者会見まで、誰にも言わないでくださいね」。アンタそれ言うの遅いわ―。1997年12月7日のことであります。

【写真】多聞さんと仲間たち