社会人アメリカンフットボールの決勝戦「ジャパンエックスボウル」のカードが決定しました。富士通フロンティアーズとIBMビッグブルーです。
 僕個人としては両チームともに公式戦では戦った記憶がありませんので、全く馴染みはないのですが、それぞれのヘッドコーチがそこそこ知り合いなんです。ま、そんなこと言えば、ほとんどのチームのコーチがそうなんですが、僕にとってこのお二人は非常に特別な存在なのです。


 このコラムでも、「自分物語シリーズ」で当然将来登場しますが、僕のフットボールキャリアに大きく影響を与えた(注1)お二人なのです。


 IBMの山田ヘッドコーチと富士通の藤田智ヘッドコーチは、僕とアサヒ飲料チャレンジャーズで一緒に遊んだ仲です。山田晋三氏は関西学院大学卒業後に所属したのがアサヒ飲料。藤田氏は京都大学のコーチを一旦休業し、アサヒ飲料で4年間指揮を執られていました。


 藤田ヘッドコーチは、アサヒ飲料で地区優勝2度、社会人優勝2度、日本一1度という輝かしい成績で4年間(注2)を終えられました。
 その後、現在の富士通フロンティアーズに所属し、過去4度、社会人決勝戦(注3)に進出されています。


 一方、山田氏はIBMでの決勝進出は初めて。この大会でMVPを受賞したほどの超一流選手だった人が、ヘッドコーチとして帰って来るのは前例がありません。
 選手時代からコーチの意図を120%理解し、フィジカルの足らない部分(注4)を頭脳とリーダーシップでカバーする特殊な存在でしたので、コーチとして成功するのはごく自然な流れと言えるでしょう。


 決勝戦において藤田氏は、アサヒ飲料時代と合算して「2勝4敗」。アサヒ飲料では勝率100%でしたが、富士通に入ってからは0%に。山田氏は選手としては「2勝0敗」ですがコーチとしては「初体験」であり当然勝利経験なし。
 選手としてMVP受賞(注5)した時の勝利も「自らの力と運と根性」で、無理やりもぎ取っています。そういう星の下に生まれているのかもしれません。


 藤田氏は悲願の富士通初優勝。超のつく優秀な選手たちと素晴らしい環境に恵まれながらここ3度は1タッチダウン差で敗れています。チーム関係者のフラストレーションは最高潮でしょう。
 しかし、今年はその厚い選手層の頂上に本物のアメリカ人クオーターバックと他3人のアメリカ人選手を配備し、強さに隙がない(注6)ように見えます。


 ただし、アサヒ飲料時代に藤田氏が試合前や試合中に皆の前で度々口にした言葉で「ええか、強いチームが勝つんちゃうねん、勝ったチームが強いねん!」が(この言葉だけで我々選手はどれだけ勇気づけられたことか)あります。まさに今のご自分のチームが絶対に勝てるわけではないという意味です。


 アサヒ飲料は、関東のチームや松下電工に比べ、弱さ、力の足りなさを皆が自覚し、練習と試合ではガムシャラに一生懸命力を出し切るスタイルで戦ってきました。そして(珍しく)自分たちの力を過信しおごり高ぶった時、ライスボウルでガムシャラに戦ってくる関西学院大(注7)に足をすくわれました。


 フットボールは戦術や戦略が前面に出されることが多い(注8)ですが、結局のところ約3時間、120プレーほどの試合中に、コーチと選手の根性が何秒間途切れたかのかが勝負の分かれ目だということです。
 「ヤバいかも」「大丈夫かな?」「これは無理」「やられた」と、相手に振り回される時間や、相手に気持ちを支配されている時間が少なければ少ないほどしっかり集中し、良いプレーを生産できるというものです。


 IBMの選手とコーチはボウルゲーム経験が少ない分、ガムシャラに戦えると思いますし、LIXILとノジマ相模原を倒したファイナリストとはいえ、リーグ戦では富士通に負けていますので、決しておごり高ぶることもないでしょう。
 自分たちの力をしっかり出し切らねば、数万人+テレビ視聴者の前でどえらい目に遭わされる(注9)ことは百も承知だと思います。


 そして、オービックの5連覇を圧倒的な力で阻止した富士通は、今年のチームが日本のフットボール史上最強だということを証明するためにも、隅から隅までの全員が挑戦者として必死に戦えるかどうかが鍵ではないでしょうか。
 あと少しのことで、もう一踏ん張りしていれば、という負け方をこれまで何度もしています。トップチームなのに、リーグで最も気持ちの振れ幅が大きかった富士通フロンティアーズというチームを、藤田ヘッドコーチがどういう塩梅でチャンピオンに導くのか。とても楽しみです。


 富士通がやや優勢な世間の前評判ですが、いつも僕が言うてますように相手はNFLと違います。プレーヤーのほとんどが同じ日本人であり、技術や経験、知力を合わせた実力差なんてほんのわずかです。
 120プレーかそこらを、どんだけ根性決めて言い訳なしにヤリ切れたか? で勝負が決まるんちゃいますか。どちらのチームの応援団でもないファンが面白いと思える試合になるには、IBMの守備がどれだけ頑張れるかがKEYかな、なんて思っています。


絶対勝てサト藤田。負けるな晋ちゃん。どっちも頑張れ!


(注1)藤田さんは僕に大きなトロフィーをくれました。そして守備の要である山田さんがいなければかなわなかった僕の夢です
(注2)4年で辞めていなければ、オービックより先にアサヒ飲料王朝が築けたかもしれません
(注3)まさかの全敗。50歳に近づいて、ようやくゆとり教育世代の選手たちに藤田さんがフィットできるようになったんでしょうかね
(注4)足は遅いし力も弱い。運動神経は並の下。サッカーも野球も運転も下手。でもラインバッカーだけはうまかった。本当にうまかった
(注5)MVPの副賞は10万円分の旅行券。即刻金券ショップで換金するも、勝利を祝う場所で仲間に一切おごらなかったセコさは伝説
(注6)どこに弱点があるのか僕ごときではさっぱりわかりません
(注7)個々の能力ではアサヒ飲料の方が上とされていたが、学生の肝のすわった根性の前にあっさりと敗退
(注8)わかったようなことを書いたり話したりするど素人が流布したデマカセ。戦争をイメージした格闘技ですので、心の安定がとても求められます。作戦はその次
(注9)先のコラムでも書きましたが、アメリカ人QBは現在の日本の守備から80点取る能力があります

【写真】アサヒ飲料時代に社会人選手権を連覇した(左から)藤田智HC、RB中村多聞、LB山田晋三=撮影:佐藤誠