日本のフットボール界において、1流と3流の差は何か? これは「基礎」の差だと思うてます。これは努力で埋まるのに、重要視していないとなかなか埋まらないことがしばしばあります。


 3流の選手が3流のチームで3流の敵を相手にチョコチョコやっているのと、甲子園ボウルだとかライスボウルに出ている選手やコーチとは、脳みその中が何百倍も違います。いや、何千倍も違います。
 コーチは考えるだけですが、選手は瞬間、瞬間でいろいろな判断をして相手を凌駕する必要もありますので、そもそもの用意してある知識と経験の量が物を言います。コレが大きい。この差を埋めるのに僕は何年かかったことか。というか、差は埋まらずに引退を迎えたと思います。


 結局のところ、DIV3やDIV2の大学出身者でエックスリーグで大成する人がなかなか出てこないのは、感受性豊かな青少年時代、つまり基礎の時にいい加減なことをやっていたので、「フットボールってこんなもんだ」というとてつもなく甘い認識が細胞の奥の奥まで染みついてしまっているのです。


 僕の場合は、防具をつけたのは中学生の時ですが、試合の戦力としてしっかりプレーしたのは20歳を越えた時です。チーム内に手本となる多数の年上や先輩がいなかったので、テレビを見て、マネをするだけのフットボールでした。
 何故このように動くのか? 何故この練習をするのか? 全ては自分達が気付くか気付かないか、にかかっていました。


 そんな状態では「正しい基礎」を構築する事は不可能です。ただ、僕はあまりにも多くのNFL映像を小さい頃から脳みそに刻んでいたので、日本の強いチームでもやっていたテクニックや戦術には違和感を覚えたことは少なくありませんでした。
 例えばタックルにいくとき、頭を下げて足元に突っ込むとか、タイムアウト欲しさにけがしたフリをする、パントをゴロで蹴るとかです。


 能力もフットボールIQも3流な僕でしたが、日本のトップレベルのフットボールの全てを肯定していたわけではありませんでした。
 しかしそんな細かいことよりも、何とかして自分を他人様に認めてもらいたい。この一点を目指すことにしてしばらく経ちましたが、なかなかまだまだマニアの間にしか「中村多聞」の名前は通っていません。


 大学を出て三武ペガサスで3年。サンスターに移籍してテレビ放送に初めて登場した時は「26歳の新人、ランニングバック中村ですねえ。体重が100キロです。鹿島からの移籍です」と解説者に言われる始末です。まだまだだなあと痛感しました。


 26歳でまだまだ日本の業界内に名前が通っていない自分が、どうすれば専門誌や新聞、テレビに出て、フットボールファンやスポーツファンの人々に「中村多聞」の名前を知ってもらい、「彼は名選手だ!」と思ってもらえるようになれるのか?
 その為に、目立つ方法を前に少し書きましたが、結局のところ「肝心な場面」や「期待されるシーン」で活躍するかそうでないかだけなんだと思うのです。


 三武ペガサス、サンスター、アサヒ飲料時代にはキックオフのリターナーとしても出場していた僕ですが、いずれも強固な守備が看板のチームでしたので何しろロースコアゲームばかりでした。
 つまりリターンの回数が極端に少ないのです。その時に僕側にボールが来るとも限りませんので実際に数年間でリターンした回数(ファンブルロスト2回、タッチダウン1回)はとても少なかった中で、注意していたことがあります。


 リターナーとして僕が注意していたこと、絶対に守らねばならないこと。それは1人目にタックルされてしまわないことです。横に逃げるのは最後の手段として、1人目はよほどの事情がない限り縦方向にかわしてもらいたい。


 秋のリーグ戦が始まり、社会人リーグの観戦に行っていますが、とても気になるのがリターナーが1人目にタックルされているシーンの多さです。
 パントのリターン、キックオフのリターンいずれもです。そもそもかわそうともせずにあきらめてアタマから突っ込んでいくシーンもありました。
 ライスボウル出場を公言している各チームのエースリターナーがそんなレベルでは、いくら優秀な外国人選手を起用してもオービックの5連覇は阻止できません。


 ボールを持った者は味方のブロックが失敗していようがうまくいっていようが、1人目を自分の能力でどうにかしなければならない、という大前提を心の底から理解すべきです。
 何なら2人目も自分が処理するんだという意気込みがほしい。この場合の「役割」はエースとしての役割ですから、1人に一つだけ与えられている「アサインメント」とか言う、チームの作戦など関係ないのです。


 リターン時に1人、2人をかわすファインプレーで前進すれば、チームにとってどれだけ気持ちの上でパワーとなるか。ボールを託されたエースとして「上級者気取りの勘違い野郎」が目の玉をひんむいてヨダレを垂らして、必死のパッチで暴れてくれたら、日本のフットボールがどれだけ面白くなるか。


 NFLのカッコいい選手にあこがれて、グローブやユニフォームの着こなし、生意気な身のこなしといったチャラチャラした部分ではなく、人生を賭けた渾身の生き方とプレーを真似ないといけません。


 日本の選手には、ボールを持つということに覚悟と責任が全然足らないように見えます。チームとチームメートの運命がそのボールに乗っているのです。
 ボールを持ったらいいカッコせず全力で走れ。アナタ達の能力で思いっきり走れば、タックルされて吹っ飛んでもファンはその心意気に感動します。サイドラインの仲間達はそのハートを見て発奮します。


 何を目指しているのか、何が怖いのかサッパリわかりませんが、チョコマカチョコマカと逃げ惑うエースの姿は誰の心も動かしませんし、相手にとって何も怖くありません。「あいつウワサだけで根性なしのヘタクソやな」となります。


 「本当はうまい」「本当は強い」「練習だったらすごい」「彼はチームで一番だ」という意味不明な成績表をもらって喜んでいるウチはまだまだ2流です。
 自分の本当の気持ちと実力を「ココ!」という場面で見せてくれない人はニセモノです。トップリーグで日本一を目指す資格はないと言えるでしょう。
 トップチームのエース諸君に「ハートのこもったプレー」を期待します。

【写真】アサヒ飲料でリターナーとして活躍した吉田昌弘さん=撮影:佐藤誠