「そんなご託を並べても、うまくいったのは『アンタだから』でしょう? 特別な才能と体格、運動能力、その他いろいろなことに恵まれた『「アナタだから』うまくいっただけでしょう。自分達じゃそうはいかない」という意見を100人以上から聞きました。
 ですが、そんなことは百も承知で書いています。僕がどの程度普通だったか数値で出せる事柄だけでも挙げてみます。初心者の頃の僕になら勝っているという人、大勢いませんか? こんな奴でも何年か頑張ればニッポンのボウルゲームで活躍できるんだという資料にならないかなと思いました。

 ▽大学4年時(21歳/体重90kg)
・ 40ヤード:5秒8
・ ベンチプレス最大90キロ


 僕はこのレベルから、コーチや先輩のいない状況でフットボールをしていました。何度も言いますがこの頃に、京都大学の監督である水野さんがテレビでこう言うのです。「スピードとパワーは、努力していれば必ずどうにかなる。難しいのは他のことだ」と。
 ああそうか。そうなのか。じゃあ鍛えるわ。ということでパワーはボディービルとパワーリフティングの本を読み漁り、マッチョマンに話を聞きまくる。走るのも本を読み漁り陸上競技の選手に習う。
 確かにどうにかなりました。


 それがこのスペックです。
・ 40ヤード:4秒4(31歳/体重108kg)
・ 100メートル:10秒98(31歳/体重108kg)
・ ベンチプレス100キロ×30回(30歳/体重102kg)
・ ベンチプレス180キロ×10回(35歳/体重107kg)


 しかしどうでしょう。僕がこれほどチカラがあって俊足だったという印象の方がいらっしゃいますか? ほとんどいないと思います。同じチームにいた人たちも、そんな認識はないと思います。それはなぜか?


 ズバリ運動能力が足らないのです。残念ながら。「ヨーイドン!」ならば手足を強く速く動かすことができても、ランニングバックのように複雑な動きが連続する種目だとチカラが発揮しにくいのです。


 持てるパワーやスピードの最大値をフットボールのプレー中に(体に無理なく)発揮できる才能があれば、結果は随分と違ったと思います。勿論、経験で培ったこと、身につけた技術にも同じことが言えるでしょう。


 徒競走なら早いが、ベンチプレスなら挙げるが、フットボールがうまくならない。なぜなんだ? どうすればいいんだ?! という葛藤は長い時間続きました。
 「もうあきらめてやめようかな」「やっぱり3部校から超一流になるのなんて無理だったのだ」「他のスポーツに転向しようかな」などと考えたことも少しはありました。


 「失敗したらどうしよう」「練習通りいくだろうか」と考え過ぎるあまりに、ミスを連発したこともたくさんあります。緊張してロクに動けなかったこともあります。
 ファンブルを恐れるあまりに思い切り走れなくなったこともあります。
 同じミスを何度も何度も繰り返してしまったこともあります。プレーブックが覚えられず、悩みに悩んでヘルペスになったこともあります。


 しかし上手にならないなら、やれることは水野さんのおっしゃる「パワーとスピードの向上」しか思いつきませんのでとりあえずヤリました。
 これ以上できないというところまで自分の体を鍛え、「いつかはうまくいくハズだ!」と信じきり、自分より上手なフットボール界全ての人を敬い憧れ「フットボール界に自分の名前を知らない人がいなくなるようになるまでヤル!」という目標を定め毎日毎日コツコツコツやってきたからです。「継続は力なり」なんて言葉がありますがまさしくその通りでした。


 オリンピック選手だろうが誰だろうが自分と同じだけのトレーニングをやっている人はいないし、絶対できないだろうと神様に誓えるほどに壮絶な毎日でした。生きている全ての理由が「ランニングバックとしてトップになる」としていましたので、頑張るのは当り前のこととしか考えていませんでした。


 その強い気持ちが普通の人にはムリなんですよ、なんてことも言われますが、他のスポーツでも新聞やテレビに出て来るような人は全員とんでもない質と量の鍛錬をしていますし、そのためには強い気持ちが大前提になります。


 自分の行き先を明確に決めて、気持ちを固める。そうすれば何をすべきかがだんだん見えて来ると思います。回りに何を言われようが思われようが関係ありません。全ては強い気持ちです。


 身体能力が劣っていても、実際の試合では大きな差になりません。強い気持ちで準備して全力でぶつかれば、大抵はどうにかなるもんです。

【写真】グアムで仲間と自主トレをする多聞さん