昔コーチに教わったこんなお話しもあります。チーム練習をしている時に、けがなどでチームプレーができない者に、リハビリ運動や体力トレーニングなどをさせるトレーナーがいるが、それはほとんどの場合駄目な選択であると。


 僕の解釈ではこうです。けがや病気を早く治して練習に復帰できるように努力しなければいけないということは、どんなアホでもヘタクソでも分かっています。
 しかし、アホやヘタクソだとわかんないこと。それは「練習をどう見るかで復帰した時に大きく変わる」ということです。
 「仲間が一生懸命頑張っているから、俺も頑張ってリハビリやろーっと」では全く駄目です。


 そんなんでは復帰した時に大変です。筋力も心肺機能も低下している上に、勘や感覚も鈍くなってしまいます。つまり選手として1段も2段もレベルが落ちてしまうのです。何なら1段くらい上げて復帰したいところですよね。
 他人のプレーをしっかり見て、ビデオではなく生の動きから解析して「どうするのがベストだったか」を自問自答し必死で解答を見つけ出す作業をし続けるのです。練習の全てのプレーを。


 もう一つ右のホールを走れば良かったねー、とかいうような低いレベルの反省会はラインマンらとのビデオミーティングで話し合えますが、RBの技術向上にはあんなミーティング(ただし、撮影する位置や撮影技術、そしてカメラ機器の性能が良ければビデオでも復習可能な場合があります。家庭用ビデオカメラではなく、テレビ局がカーレースなどを撮るための物が欲しいトコロです)は微塵も役立ちません。
 生でしか見えない情報を一日の練習でどれだけ収集できるかが、とても重要なのです。


 僕の経験上、練習の見学というのは、非常に脳みそが疲れます。僕はプレーを知った上でボールキャリアの真後ろから見るのが見やすくて良いと思います。(2軍のヘタクソが参加している場合は方程式に入力する数値が狂いますので自分の技術向上のためには見ていてもムダですが、チームのためには2軍のヘタクソのプレーも見て、親切に教えてあげましょう)


 「見るだけでうまくなる方法」には、カリキュラムがトテツもなく多いのですが、大きく分けるとRB(ア)と守備(イ)の二つです。中でもボールを持った時には以下を注意して見ます。
(ア)RBの何を見るかと言うと、スピード、重心の位置、歩数、判断してから体を動かすまでの時間、予測のアタリハズレ、そして守備全体をRB中心にどれだけ動かせたか、切り裂けたかを見ます。
(イ)守備の何を見るかというと、最初に構えている位置からプレー終了までの守備全員の速度とパワーを入力して、架空の軌跡を頭の中で描き、理想の切り裂き方とはどれほどズレていたかをビデオを使わず解析して記憶します。また、進行方向で一番近くにいる守備選手はRBの視界に入りやすいのですが、それ以外の位置(横や奥)にいる守備選手だけを見て(つまり手前の選手は見ない)理想のコースをイメージする。これは相手の作戦どうこうではなく、敵11人全員の動きの隙を見つける訓練ですので、コーチたちが事前に調べてある敵軍レポートのデータは必要ありません。


 つまり、練習を休んでいても、練習をやっているよりも意味があるようにしなければなりません。
 この重要さはトレーナーたちの理解を超える場合がほとんどです。トレーナーは体のことには選手より詳しい場合が多いですが、各ポジションに必要な知識や練習内容、心構え、というものをほとんど知りません。
 一般的な運動理論はわかっていてもRBが何をどう見てどうすべきかを知りません。下手をすると「フットボール選手」を一括りに考えている場合もある上に、トレーナーは理屈を唱えてお金を稼いでいる大人ですのでコーチも理屈で言い負かされます。


 ましてやヘタクソの選手など黙って言うことを聞くしかありません。トレーナーは自分の理論を心の底から信じているのでコチラの言い分を聞いてくれることはとても難しいと思います。
 コレに勝つには何しろけがをしないことが重要です。もしけがをしてしまったら、練習の見学を最優先させるリハビリメニューを検討してもらうようにお願いしましょう。


 トレーナーやチーム側としては、他にリハビリする時間がないから仕方ないというのが最も多い言い訳ですが、練習を見る方は今しかできません。リハビリなどはやり方とメニューを作成して「練習後にやっとけ」でいいと思います。


 肉体や精神が充実しきった状態の選手(いわゆるピーク期)として生きられる時間は、思っているほど長くありません。トレーナーやコーチの息は選手よりはるかに長い上に、今回の失敗を来期以降に生かすという技も使うので、必ずしも今年のアナタをスターにしてくれるとは限らないんだ、ということを忘れてはなりません。
 誤解を恐れずにいえば、選手は彼らの実験台になってしまいます。彼らのほとんどは自分の職業や趣味の為に活動しているので、選手一人一人を成功させるためではありません。


 彼らの間違いや勘違い、そしてウソを早期に見抜き、自分を守らねばいつまでも上達せずゴミの様に捨てられてしまいます。そのためには身体のこと、運動のこと、栄養のことなどなど、ベテランのトレーナーにも負けないような知識を身につけておくことも忘れてはなりません。


 全ての事柄には必ず終わりが来ます。情報や物、人、時間など、全てを吸収して使い切ることは不可能です。その際に何かを切り捨てねばなりませんが、判断を誤るとどれだけ実力があろうと運が良かろうと、自身も勝利や栄光から切り離されます。
 上達させてくれて、活躍させてくれて、そして勝たせてくれるコーチやトレーナーを見つけることが、選手としてやらねばならない最も重要な仕事の一つだと思います。


 見る目を養うには、情報の収集と勉強と経験です。進む道は全て自分で選択し、その道を選んだ自分を信じて邁進できれば必ず目的は達成できると思います。


 まずは自分の生活している周りにいる人全てを圧倒する「勝ちたい」「うまくなりたい」という気迫に満ち溢れた日々を送ることです。ヘラヘラ笑って食べたいものを食べて飲みたい物を飲んで、仕事に家庭にと優先事項がフットボール以外に多い人からはこの気迫を感じにくいと思います。
 片手間で取り組んでトップに立てるほど世の中甘くありません。腕立て伏せの回数をフェイスブックで宣伝せずに、他人に本気が伝わるような険しくツラい方法で頑張るのがオトコです。

【写真】チャレンジャーズのオーナーと優勝の喜びを分かち合う多聞さん