プロフットボールの祭典「スーパーボウル」が終わり2カ月経ちました。そして日本フットボールの春季シーズンが始まろうとしています。各チームとも新人が入り始動していると聞きます。今年も大きな契約が成立せず、無所属7年目に突入致しました中村でございます。みなさんご機嫌いかがでしょうか?


 フットボールでシーズンを戦っていく上で、とても重視していたことがあります。(親指で自分を指差しながら)それはココです。心です。


 自身の実力がリーグのレベルより圧倒的に上の場合はあまり関係ないのですが、平均レベルの場合は心の持ち方で全てが変わってきます。
 「一生懸命頑張る」というややこしい言葉がありますが、僕は何をどう頑張るのかが気になります。
 試合には必ず結果がついて来ます。試合会場のスコアボードにみんなにわかるように表記されています。が、コレがまたややこしい。


 自分の所属する攻撃隊がたくさん点を取っても、守備がそれ以上にたくさん失点すれば試合としては「負けー!」となります。練習でそのヘタレな守備陣をもっと鍛えとればええんちゃうの? というのは今回の「心」の問題とはズレてしまいますので、それはまた別の時に用意してあります。


 60分間の試合を通じて序盤は種まき、終盤にその裏をかく。初っぱなにいきなり相手の出鼻をくじく。選手によっていろんな考え方で1試合を過ごします。
 しかし、その時に「不安や心配事、迷い」があったり「欲」「冷静さを欠く」などの「プレーに集中する邪魔な心の問題」がしょっちゅう起こります。


 コレをまとめて「雑念」なんて言います。雑念にはこんなのがあります。
 ▽不安や心配事」
・ 作戦の覚え間違いはないだろうか
・ 相手に作戦を読まれてないだろうか
・ 治りかけのけががヒドくならないだろうか
・ 前回ボールを落としたので今回も落とさないだろうか
・ 前にいる敵は日本代表候補の選手だ。こんなのブロックできるだろうか
・ あれ? 敵はミーティングで聞いたのと違う作戦で攻めてきているぞ。どうすればいいんだ


 ▽欲
・ この短い距離なら楽々タッチダウンで試合後の飲み会はモテモテだ
・ ココで活躍してスカウトの眼を釘付けにしてやる
・ せっかく試合に出してもらったのだからコーチに恩を返す
・ あと1回で新記録達成だ
・ あいつは同期のライバルだ、やっつけてやる
・ 毎年負けている相手だから今年こそは勝ってやる


 ▽冷静さを欠く
・ さっきのアンニャローめ悪口言いやがった。次のプレーでははね飛ばしてやる
・ プレーを間違ってしまってチームに迷惑をかけた。ああどうしよう
・ 審判の判定に納得がいかない。腹が立つ
・ 味方の応援がうるさくてアメリカ人コーチの英語がききとりにくい
 まあ、どれもこれもよくある「心境」です。しかし、今から行なわれるプレーに必要な「心」の用意はこういった外的な要因ではなく、自身が完全に支配した「心」でプレーを遂行せねばなりません。


 ボールが動き敵味方の22人が一斉に動き始めます。そして審判の吹く笛が聞こえてくるまで、それぞれ全員に与えられた任務(アサイメント)を全てやり切るのがアメリカンフットボール選手のアサイメントの大前提です。


 コーチが配ったアサイメント帳にはイチイチ書いていませんが、作戦が思い通りに運ばなかった場合の緊急時にそれぞれが何をするかは、日頃の規律がモノを言います。
 思わぬ所を敵に突破され、それをコンマ数秒の判断で再度撃墜せねばならない時に先ほどの「雑念」が出ると絶対にウマくいきません。


 フットボールはこの「規律」を遵守した上で、自分たちを本気で邪魔しにくる敵を振り払い「任務」遂行する競技です。それだけでも手いっぱいになるのですが、そこがチェスや将棋と違う所。実際に戦うのはひとりの人間なので能力の差、気持ちの差が出てくるのが面白いところです。


 「雑念」を捨て、または忘れた状態で臨んだプレーは良い結果を生んだ覚えがあるヒトも多くいらっしゃるのではないでしょうか。結果を気にせず、「心」を無にして任務に就いたときは驚くべきチカラが発揮されませんでしたか?
 僕はチャラチャラしたイメージの裏側で、実は精神集中にほとんどのエネルギーを費やしていました。練習でも、トレーニングでも、試合でも、雑念を振り払いそのプレーだけに集中することほど大変で難しい「任務」は僕の経験上、ないと言えます。


 僕はタッチダウン後に踊るなどのパフォーマンスが人間性のワリに少なかったことは覚えて頂いておりますでしょうか? なぜかと言いますと、プレーに集中するあまりその後のことまでは用意できていなかっただけなのです。本来は反則になるほど派手にやってみたかったのですが…。


 試合の結果よりも重要なのは、ホンマの本気でプレーに没頭すること。過去も未来も関係なく思い切りプレーすること。コレがなかなか難しい。
 僕の知る限りでは京都大OBの大部分の選手はコレができて、モノすごくお手本として学ばせてもらったことを思い出します。そういうトコロにも水野さんのすごさを感じていました。


 NFLEの試合後に僕らの試合を解説していた元49ersのロニー・ロット氏と酒を飲む機会があり、「日本流一気飲み」でゴリゴリに酔ってきた彼も同じようなことを言っていました。
 ロニー君「おーい、タモン。オマエ、フットボールでイチバン重要なことって何か分かってんのかー、あーん?」
 僕「偉そうに、この酔っ払いが、しらんわ!」
 ロニー君「(親指で自分を指差しながら)それはココや!」
 僕「なんと、さすがセンパ〜イ!」
どうやら間違いではなさそうですよ。心の問題は。ではまた来週!


 【付録】=タモンの雑念年表
・大学時(20〜22歳)→こいつらアテにならへんから俺一人で試合する→結果は全敗
・ペガサス時代(22〜25歳)→クッソー! 毎日毎日意味分からんことばっかり教えやがって! 今に見とれよ!
・サンスター時代(26〜29歳)→認められたい。こんなはずじゃない。目立ちたい
・NFLE時代(29〜31歳)→あんなデッカイラインバッカーをブロックできるワケないやん! よーし、日本人初のタッチダウン取ったる→せっかく独走もつま先引っ掛かってアウト
・日本代表(30歳)→ニッポンのミナサマ、コレがプロのハシリですよ。ヨーク見といてクダサ〜イ→結果は全く活躍できず
・アサヒ飲料1年目(30歳)→意外と雑念ナシで無心に近い
・アサヒ飲料2年目(31歳)→夜の仕事になって生活サイクルが変わったが、そんなのに負けない→サッパリ活躍出来ず
・アサヒ飲料3年目(32歳)→背水の陣。年間を通して「ONE PLAY AT A TIME」に大成功
・アサヒ飲料4年目(33歳)→急な現役復帰で必死すぎて雑念が逆になく大成功
・アサヒ飲料5年目(34歳)→開幕戦の最初のプレーで独走タッチダウンを本気で狙って→そのプレーで大けがし入院手術、シーズンアウト→選手生命終了
・アサヒ飲料6〜9年目→昔取った杵柄の余力だけでリハビリばかりの4年間

【写真】NFLヨーロッパ時代の中村多聞さんとロニー・ロット氏