9月27日に行われた関東TOP8、法大―中大の一戦。最終スコアは38―6で法大の圧勝だったのだが、とても興味深い場面があった。
 前半残り2分で6―17とリードされた中大の攻撃。自陣30ヤード付近で第4ダウン1ヤードとなる。状況だけを考えれば、多くのコーチはパントを選択するだろう。なぜなら、もしギャンブルが失敗してこの地点から法大に攻撃機会を与えれば、さらに追加点を奪われて前半で試合が決まってしまうからだ。
 中大の庄子達郎ヘッドコーチ(HC)は、ここでギャンブルを選択した。結果はRBがダイブしてギャンブル成功。しかし、WRに痛恨のキャッチミスがあり、その後の攻撃は続かなかった。


 この光景を見ていて、一年前に同じような場面があったのを思い出した。昨年の日大―慶大の一戦。7―28で負けていた慶大は、前半残り数秒で第4ダウンのラストプレーとなる。
 ゴール前8ヤードからの攻撃だったので、常識的に考えればとりあえずFGで3点を追加して、前半を終えるのがセオリーだろう。しかし、慶大のデービッド・スタントHCはFGではなくギャンブルでTDを狙った。結果はエンドゾーンの手前で日大守備にタックルされて前半が終了した。


 庄子、スタント両HCは、主将とHCとしてリクルート(現オービック)時代に日本一を達成しているのも奇遇だが、二人の選択に共通しているのは、おそらく「このままの点差で折り返しても、勝機は薄い」と判断したことだろう。
 失敗した場合には前半で勝負が決まってしまいかねないリスクを負って、スコアするための賭けに出たのだ。


 ギャンブル、FG、パントの選択について、コーチは多くの要素を総合的に考慮した上で判断しなければならない。チームとしての総合力の差、有効なプレーの有無、キッカーの射程距離、コントロールパントの精度、風向き、スタミナ、ディフェンスの余力などだ。
 さらに、以前にある高校のコーチがこんなことを言っていた。「FGの射程距離に入っていたとしても、確率が4割以下ならパントを蹴ることにしている。なぜなら、FGやギャンブルの失敗は、流れを断ち切ってしまうからだ」。つまり、いいリズムでドライブしてきても、最後にFG失敗、ギャンブル失敗で攻撃が終わると、そのシリーズが無駄になり、止めた守備の方が勢いづくことがある。
 パントで終われば得点はできないが、いいフィールドポジションを確保して、次の守備につなげやすいということだろう。


 判断の是非については、結局のところ結果論になってしまいがちであり、正解など存在しない。しかし、事前の準備の段階で、この場面ではこの選択をすると周到に用意して、チームの意識を統一しておくことは重要だ。
 オービックと関学大が戦った3年前の日本選手権。第4クオーター残り3分で、関学大は13―14と1点差に追いつくTDを決めた。この場面で関学大は、同点のキックではなく迷わず2点コンバージョンを選択する。


 RB望月麻樹からWR小山泰史へのスペシャルプレーのパスが決まって、15―14と逆転に成功した。関学大はこの瞬間のために、完璧な準備をしてきたのだろう。この時、サイドラインにいた私の目の前にセットした望月を含む関学大の4人の選手たちが、「遂にこのプレーを出せる場面が来た」と武者震いしているように見えた。
 最後は地力に勝るオービックに再逆転を許したが、決死のギャンブルが近年のライスボウルにおいて、最も社会人を苦しめた一戦を演出した。


 「確実にファーストダウンやTDを決められるプレーがない時、少しでも自分の中に迷いが生まれた時はキックを蹴ることにしている」。今夏の日本代表でもHCを務めたLIXILの森清之HCは、決断をする上でのポリシーをこう語る。
 コーチの判断一つで、チームの一年間の努力が水の泡となってしまうこともある。ギャンブルかキックか。試合を左右するコーチの重大な決断は、アメリカンフットボールにおける最大の魅力の一つだ。

【写真】今年1月の日本選手権でも関学大は果敢にギャンブルを試みた=撮影:Yosei Kozano