いいQBの条件とは何か。サイズ、強肩、モビリティー、パスの正確性、プレーの理解度、守備のリードなど要素はさまざまあるが、個人的に最も大事なことはチーム全体に「いける」と感じさせるリーダーシップと、試合を壊さない能力だと思っている。
 関東学生TOP8の開幕戦で日体大のルーキーQB小林優之は、それらを兼ね備えた非凡な司令塔であることを証明した。

 
 関東は日大、法大、早大の「3強」が前評判通りの力を見せているが、密かに注目していたのが日体大の小林だった。春の訪問取材時に、たまたまエースの辻陽太が就職活動のため不在で、1年生の小林が中心となってパスユニットを率いていた。
 東京の強豪・佼成学園高から入ったいいQBだといううわさは聞いていたが、全ての面で想像以上にレベルが高かった。一方でサイズは162センチ、58キロしかなく、大学の1部リーグではおそらく最も小さいQBだろう。彼が大学レベルの守備を相手に、試合でどこまでプレーできるかに注目していた。


 9月5日、リーグ戦デビューの相手は優勝候補の法大。途中から出場した小林は、法大守備フロントの圧力を受けながらも、次々と小気味よくパスを決めていく。ショットガン体型からのオプション、パンプフェイクのパス、TDを決めたロールからの技ありの投球。全てが1年生とは思えない落ち着いた動作から繰り出された。


 日体大のオフェンスと法大の守備の力の差は明らかで、パスプロテクションはかなり頑張っていた(法大がブリッツなどをそれほどしかけていなかった)が、WRは法大DBにマークされる場面が多かった。  小林は空いているWRに確実にパスを決め続けたのはもちろん、マークされている状況でもインターセプトされずにWRに捕球のチャンスがあるリードボールを投げ込んでいた。


 さらに、QBとしての姿勢が素晴らしかった。攻撃がうまくいかない時にイライラしたり、下を向いたり、首をかしげたり、慌てたりネガティブな動作をする選手は1部の選手の中でもまだまだ多いが、小林はサイドラインでの様子も含めて常に堂々としていて、味方を勇気づけるものだった。
 法大守備に3人がかりで激しいヒットを受ける場面もあったが、すっと立ち上がり、何事もなかったかのように次のプレーの準備を始める。彼は法大のエースQB鈴木貴史、早大の坂梨陽木らと同様に、リーダーとしての優れた資質を備えている。


 日体大の今後の日程は、同じく優勝候補の日大、早大と対戦する厳しいものだ。現時点のチーム力で上位に対抗するのは難しいが、小林の能力をオフェンス全体で生かすことができれば、リーグの中位に食い込む力は十分にある。
 なにより、初戦で小林がチームの将来を託せる逸材だとあらためて確認できたことは、日体大にとってこれ以上ない収穫となっただろう。

【写真】新人ながら日体大のオフェンスをけん引するQB小林