米国で開催された第5回世界選手権が幕を閉じた。日本は米国に2度敗れての準優勝だった。この結果と内容を「日本フットボール」はどのように受け止めるべきか。自分なりに考えてみたが、なかなか消化することができない。


 日本代表の森清之ヘッドコーチは「今日の試合の中で、こうすればよかったとかいう問題ではない」と決勝の米国戦後に語ったが、一つ一つのプレーを分析することに意味が見いだせないほど、最終的には米国との大きな差を感じた。帰国後の選手たちのコメントを見ても、米国相手に通用する部分があった一方で、フィジカルを中心にまだまだ差を感じたというものが多かった。


 先日、米プロバスケットボールNBAボストン・セルティックスのアシスタントGMを務める、マイク・ザレンさんという人と話をする機会があった。ザレンさんは統計学の専門家で、NBAの中でいち早くトラッキングシステムを導入し、緻密なデータ分析をチーム運営に取り入れた人物だ。
 トラッキングとはスタジアムに設置された複数のカメラで選手やボールの動きを追って、詳細なデータを収集、分析するシステムだ。現在はアメリカンフットボール、サッカー、バスケットボール、テニスなどの競技でトップリーグやチームに採用されていて、既にNFLではスタンダードになっている技術だ。


 ザレンさんに日本―米国の試合の動画を見てもらった上で、日本が米国に勝つにはどうすればいいか、あるいは日本人がNFLに行くためには何が必要だと思うかを聞いた。


 彼は自分がフットボールの専門家ではないと前置きした上で、明確な答えをくれた。「日本人は技術を磨くべきだ。それは過去にMLBやNBAでプレーした日本人の特徴を見ても証明されている。例えば田臥勇太(2004年にフェニックス・サンズでPGとしてプレー)は背が低く、身体能力も高くないが、ドリブルやパスで米国人以上の卓越した技術を持っていた。中国人選手の姚明も同じだ。彼は背が高い(229センチ)からNBAで通用したのではなく、ファウルをもらう技術が優れていた。それはデータに表れている」


 もちろん、コンタクトスポーツであるフットボールにおいて、他の競技以上によりフィジカルが重要であることは言うまでもないし、米国人選手との差があることも事実だ。今大会でも、例えば米国オフェンスがキープレーとして使っていたオープンフィールドのスクリーンパスでは、米国人WRと日本人CBのフィジカルの差が浮き彫りになった。


 一方で、日本人選手のフィジカルレベルは確実に上がり続けている。今大会で最も健闘したポジションの一つであるOLの平均体重は、前回の119キロから126キロへと4年間で7キロも増えた。
 また、学生フットボール界にフィジカルの重要性を示した先駆者的存在である、立命大の湯浅康弘ストレングスコーチはこう語る。「木下典明(2004年卒)だけは別格だが、10年前と比較して選手たちのフィジカルは着実にアップしている。例えば2年生のWR近江克仁は、既に4年時の冷水哲(2003年卒)よりもいい数値を記録している」


 より成長速度を上げる必要があるかは別として、日本選手のフィジカルは確実に向上を続けている。一方でザレンさんがキーポイントに挙げたフットボールの技術はどうだろうか。
 私は春から関東、関西の学生1部リーグに所属する全24チームを取材して回っているのだが、学生コーチと社会人コーチの指導内容が違っていて、選手がどの技術が正しいのか困惑する場面を何度か目にした。さらに、一時代前のテクニックが教えられていることもあった。これが1部リーグの現場なのだから、下部リーグの現状は推して知るべしだろう。


 なぜこのようなことが起こるのか。理由はトップチームとそれ以外のチームとの情報格差だ。Xリーグや学生のトップチームは米国へのコーチ留学や、米国人コーチの招聘などで、常に最新の情報や技術をアップデートしている。


 一方でデイリーコーチの確保もままならず、5年生の学生コーチが自分の感覚をもとに指導しているチームも少なくない。近年は、春シーズンをファンダメンタル(基礎技術)向上の期間に充てているチームも多いが、それもほとんどがボウルゲームを目指すトップチームであり、フットボールのファンダメンタルとは何かを正しく理解しているチーム自体が、実はまだまだ少ない。


 オービックが北海道で、日大がNFLのコーチを招いてクリニックを開催するなど、トップチームも技術を普及しようと継続的な取り組みを行っている。
 しかし、底辺のチームへ十分に情報が行き渡るまでには至っていない。下部リーグや地方の大学出身者の中には、社会人になるまでほとんど専門的な技術や知識の指導を受けなかったという選手も珍しくないのが現状だ。


 全米大学体育協会(NCAA)では毎年、数千人のコーチが全米から集まる大規模なカンファレンスを開催するなど、ダイナミックに情報が共有されている。
 NFLで脳しんとうが深刻な問題になり、ユース世代の競技人口が減りだしてからは、頭からヒットしない「ヘッズアップ・フットボール」の理論やテクニックがあっという間に全米の若年層の指導者たちに広まった。


 日本でも戦術理論などは二の次として、まずはフットボールのファンダメンタルをはじめとした正しい知識が、日本全国のコーチたちに広く共有されるべきだろう。そのためには各連盟の垣根を越えた、日本フットボール界の横断的な取り組みが必要だ。


 かつてパッカーズのキャンプに参加したRB中村多聞さんは、「同じ体重、同じスピードで走っていても、トルク感が全く違う」とチームのエースRBとの差を表現した。
 ファルコンズとルーキー契約したが、最終ロースターに残ることができなかった前述のWR木下は、「スピードもクイックネスもフィジカルだけなら互角以上に戦えた。しかし、試合に出るレギュラーの3人とは技術の面でとてつもなく大きな差があった」とNFL挑戦を振り返った。


 つまり、「フィジカルが課題」と言っている間は、永遠に米国との差は埋まらないのだ。フィジカルは米国人と同じ土俵で戦うために最低限必要な装備であり、次のステップに行くためには、フィジカルの差を克服して各選手がどれだけ技術を磨くことができるかが重要になってくる。


 スウェーデンが開催権を返上し、開催が危ぶまれた第5回世界選手権。わずか2カ月間の準備期間でホスト国を引き受けたウィリアム・ヒーリー・カントン市長は、期待を込めてこう言った。「世界選手権で誰かが米国を倒してくれれば、どんどんチームのレベルは上がっていく。いつの日かNFL選手を中心に構成されたドリームチームが、USAのジャージーを着るところを見てみたい。日本のフットボールの成長に期待している」

【写真】NBAボストン・セルティックスのマイク・ザレン・アシスタントGM(右)