NFLが2015年シーズンからTD後のエキストラポイント時にキックを選択した場合、今までは2ヤード地点に置かれていたボールを、15ヤードラインに置く新ルールを採用することになった。


 2ヤード地点の場合、実際はスナップバックで7ヤード下がってキッカーが蹴るので、エンドゾーンの10ヤードを加えて19ヤードになるが、プロのキッカーにとってこの距離はほぼ100%失敗がない。
 こうしたオートマチックな得点は意味がないと判断したNFLは、新ルールの採用を決めたが、日本がすぐに追随するわけではない。


 TDの後のエキストラポイントは「トライ・フォア・ポイント(TFP)」と呼ばれ、キックなら1点、ランかパスでゴールラインを割れば2点が与えられる。
 日本のトップリーグであるXリーグのTFP成功率を調べてみると、昨季の第1ステージのTFPの総数は315本。そのうち、キックを外したのは11本で、成功率は96・5%だった。


 キック失敗の中には守備のブロックやスナッパー、ホールダーによるミスも含まれる。つまり、トップリーグでプレーするキッカーがTFPを外すということは、100本蹴って1、2本あるかどうかという確率なのだ。
 しかし、日本のボウルゲームでは過去に好キッカーがTFPを外すという信じられない出来事が、何度も起きている。今回は試合終了間際に起きた三つのTFP失敗の実例を紹介したい。


 ▽1997年甲子園ボウル=関学大21―21法大
 元朝日新聞の記者で当時の関学大の攻撃コーディネーターだった小野宏さんは、この試合の終了間際に起きた出来事を「59秒の真実」と題して記事にまとめている。詳細についてはぜひこちらをご覧いただきたい。
http://kgfighters.sakura.ne.jp/history/koshien/1997/essay1.html


 残り試合時間59秒で21―15と法大が関学大を6点リードしていた。関学大は59秒をフルに使ってドライブし、タイムアップと同時に同点のTDパスを決めた。関学大の「サヨナラ逆転勝ち」を決めるはずだったTFPをキッカーが外し、最後までもつれた試合は両校優勝という結果になった。


 キックを外してしまった太田雅宏さんは、この年にキッカーとして初めて関西学生リーグの年間最優秀選手に選ばれた逸材だった。
 社会人では松下電工でプレーしたが、彼の長いキャリアの中でもTFP失敗はほとんどない。「59秒の真実」によると、試合後に鳥内秀晃監督はこう言ったそうだ。「キックの失敗は、俺も含めてタッチダウンに浮かれたチームの責任や」


 ▽2012年あずまボウル=法大23―22日大
 白熱した試合は17―16と法大が1点をリードして第4クオーターに突入する。残り試合時間10分、法大がTDランを決めるがTFPを外して、23―16と点差は7点。日大が最後に反撃して、残り10秒で1点差に迫るTDランを決める。
 試合は同点となり延長タイブレークに突入するかと思われたが、日大のキッカーが決めれば同点となるTFPを失敗した。


 その時のキッカー、井ノ口悠剛さんは現在母校でコーチを務めている。関東学生リーグの歴代通算最多得点記録保持者でもある。
 50ヤードを超えるFGも当たり前のように決めるキッカーで、この試合でも49ヤードのFGを成功させていた。さらに、彼は最後のTFPを外した直後にオンサイドキックを成功させている。一般的に成功率が15%ほどと言われるオンサイドを決めて、95%以上は成功するはずのTFPを失敗してしまったのだ。


 ▽2014年パールボウル=オービック37―34富士通
 最もファンの記憶に新しいのがこの試合だろう。28―22と富士通が6点をリードした状況で、オービックがキャッチアップオフェンスを展開する。試合終了と同時に同点のTDパスが決まった。
 この時にアクシデントが起こる。あまりに劇的なTDにオービックの一部の選手がサイドラインからフィールドになだれこみ、パーソナルファウルを取られてしまったのだ。「サヨナラ逆転勝ち」をかけたTFPは、15ヤード罰退して蹴られることになった。


 オービックのキッカーは金親洋介。第3回世界選手権では日本代表としても活躍した選手だ。40ヤード以内のFGであれば8割近くの確率で決めることのできるキッカーだ。
 しかし、こちらも反則により罰退した後の35ヤードのTFPを外して、試合は延長へともつれこんだ。


 前述の通り、一流のキッカーはほぼ100%の確率でTFPを決める。チームメートたちも、彼らがTFPを外す場面をこの時まで見たことがなかったかもしれない。
 TDが決まった時点で同点や逆転を確信してしまった心情は理解できる。だが、「決めて当然のキック」と「既に勝利を確信したサイドラインとスタンド」という今までに経験したことのない重圧が、キッカーたちを襲ったことは間違いないだろう。


 TFPではなくFGのことだが、早大とアサヒビールで活躍したQB波木健太郎さんからとても興味深い話を聞いたことがある。上記の三つの例とは全く逆のエピソードなので、ご紹介したい。

 
 2002年の関東学生リーグ準決勝は法大―早大の対戦となった。当時の法大は関東を8連覇しており、関東の公式戦でも4年間負けなしの37連勝中だった。
 23―24と1点差を追う早大は、試合終了間際に敵陣31ヤードまで攻め込んでキッカー神聖の48ヤードのFGに逆転を託した。


 この時、FBとしてオフェンスのハドルにいた神さんは、試合を決めるFGを前にして激しく動揺していたそうだ。
 50ヤード近くのFGは練習でもほとんど決めたことがない。「このままの精神状態で神が蹴っても望みは薄いな」と波木さんは感じながらサイドラインへ向かったそうだが、ここから状況が一変する。


 法大がタイムアウトをすべて残していて、3回連続でコールした。英語では「Ice The Kicker」と言われ、キッカーを揺さぶる狙いがある。
 リードしているチームが相手のキッカーにプレッシャーをかけようとタイムアウトを取ることはよくある。しかし、このタイムアウトが結果的に神さんに落ち着くきっかけを与えることになり、直後にサヨナラFGが決まった。


 劇的なTDの興奮が残る異様な雰囲気の中で、いつもなら確実に決められるはずのTFPを外してしまった名キッカーたち。相手チームの取ったタイムアウトによって冷静さを取り戻し、練習でもほとんど決めたことがないキックを決めたオフェンス兼任の選手。
 実際に彼らがどのような精神状態だったのかは分からないが、勝負を決める試合終了間際のキックは、数々のドラマを生んできた。

【写真】昨季のライスボウルで4FGを決めてチームの日本一に貢献した富士通のキッカー西村豪哲=撮影:Yosei Kozano