7月に米オハイオ州カントンで開催される世界選手権に向けた、日本代表チームの選手選考が本格的に始まった。4月1日に発表された81人の1次候補選手は、強化練習などを経て最終的に7月1日に45人へと絞られる。


 1次候補に学生が6人も入ったことは意外だったが、リストアップされた選手たちはほぼ想定していた通りだった。しかし、大方の予想とはかなり異なるメンバー構成となったポジションが一つだけあった。ランニングバック(RB)だ。


 今回の1次候補に選ばれたRBは6人。古谷拓也(オービック)丸田泰裕(LIXIL)神山幸祐(富士通) 高木稜(IBM)小形亮介(オール三菱) 李卓(慶大) だ。


 Xリーグでの活躍や代表における実績などを考慮すると、1次候補のメンバーとしては以下の選手たちが本命だと考えていた。末吉智一(IBM)古谷、原卓門、望月麻樹(オービック)東松瑛介、宮幸崇(ノジマ相模原)高野橋慶大(富士通)横田惇(パナソニック)丸田(LIXIL)。


 しかし、この中から候補入りしたのは古谷と丸田だけ。フルバック(FB)タイプのパワー派のランナーは一人もいない。
 いったいどのような選考基準でこのメンバーは選ばれたのか。4月5日に富士通スタジアム川崎で行われた日本代表候補のエキシビジョンマッチの後に、富永一攻撃コーディネーターに話を聞いた。


 RBの選考について説明する前に、富永コーチとはいったいどのような人物なのか少し紹介したい。法大でプレーしていた富永コーチは、腰椎分離症に悩まされて選手の道を断念する。
 1995年、大学4年時に当時デービッド・スタント・ヘッドコーチ(HC=現慶大)が率いていたリクルートに、アルバイトのスタッフとして入部する。
 その後はアシスタントコーチからポジションコーチ、キッキングコーディネーターなどを担当して、2010年からはオービックのオフェンスコーディネーターとして日本選手権4連覇に貢献した。20年間こつこつとキャリアを積み上げて、日本代表の攻撃を任されるまでになった「たたき上げ」のコーチだ。


 オービック時代の富永コーチの采配は、とにかく王道を貫くものだったと理解している。QB菅原俊、WR木下典明、RB古谷らを軸にして、相手が警戒している場面でもかまわずにストロングポイントで勝負する。
 「菅原や木下のような切り札がいたので、シンプルに彼らが力を出せるように攻撃を組み立てた。(LIXILも)いい選手は多いが、違うアプローチも必要になるだろう」と富永コーチは語り、今季から攻撃コーディネーターを務めるLIXILのオフェンス構築については、日本代表と同様に手探りの段階のようだ。


 そして、生来の性格と本人が言う用心深さも彼の大きな特徴だろう。昨春のパールボウル決勝。延長戦の末、富士通に劇的な逆転勝ちをおさめた試合の後だというのに、富永コーチは「草原の真ん中で四方から猛獣に狙われているような気分だ。少しでも気を抜いたらわれわれは食われてしまう」と言って、秋に向けて早くも気を引き締め直していた姿がとても印象的だった。


 今回、そんな富永コーチは二つの条件を基に日本代表RBの選考を行った。
①インサイドのランプレーを走るのが得意
②WRなどでマルチにプレーできる


 RBの選考では最終的にコーチの好みが反映されるだろうと以前に書いた。今回、富永コーチは国内での一般的な評価や実績にとらわれることなく、また多様なタイプの選手をそろえることもなく、ただ二つの条件に当てはまるRBを選んだのだ。「やろうとするオフェンスのコンセプトが異なれば、メンバーは全く違っていただろう」と説明する。


 あらためて1次候補の6人を見てみると、この二つの条件をよく満たしている。WRからコンバートされた神山をはじめ、パスレーシーブは全員得意で、サプライズ選出となった李は、RBながら昨季の関東学生リーグのレシーブ部門で4位となっている。さらに、高木や小形はスクリメージラインを抜けるスピードがとにかく速く、クイックタイミングでのランが上手だ。


 それでは今回の日本代表オフェンスがやろうとしていることは何か。これは富永コーチに話を聞いた上での解釈なので、多少語弊があるかもしれないがこういうことだと理解している。「パスを中心に攻撃を組み立てながら、米国相手にもランをしっかり出す」


 前回の世界選手権、米国との対戦がなかった日本は、全ての試合でラン攻撃が機能していた。カナダ戦でも1回平均6ヤードのラッシュ記録を残し、ゴール前ではTDランも決めた。
 日本代表の森清之HCも度々言及しているが、日本のオフェンスライン(OL)は地上戦でも世界と互角以上に戦えるレベルに到達している。


 そこで大事になるのが、07年の世界選手権以来対戦がない米国相手にも、ランを出せるのかということなのだろう。
 ヒントは09年のノートルダム大OBとの試合にある。この時の日本代表のOL、タイトエンド(TE)陣には本場のパワーに対抗するために超重量級のメンバーがそろえられていた。特にOL出身のTE山岸逸人(元アサヒビール)白木栄次(元富士通)とTの平本晴久(元アサヒ飲料)井澤健(元鹿島)山本直希(元富士通)らのコンビネーションによるアウトサイドのランに自信を持って臨んだ試合だった。


 しかし、ノートルダム大OBの実力は想像以上だった。パスはまずまず通るもののランプレーは完全に封じられて、終わってみれば日本はFGの3点だけに抑えられた。
 象徴的だったのが試合終盤、敵陣に攻め込んで迎えた第4ダウン1ヤードでのギャンブルだ。日本は最も自信のあったアウトサイドのラン「パワー」で力勝負に出たが、1ヤードを取れずにロスを強いられた。この時米国チームはブリッツやスタンツを入れていなかったと記憶している。完全に力負けだった。


 7月に世界選手権で対戦する米国代表チームが09年のノートルダム大OBより強いのかどうかは現時点では分からない。ただ、Xリーグでの日本人OLと米国人DLの対比でも分かるとおり、日本のOLが米国のDLを押し込んでランプレーを出すという光景はあまり想像できない。
 これはあくまで推測だが、今回の日本のランオフェンスが速いタイミングのインサイドのランに活路を見いだそうとしているのは、対米国を意識した上での戦略が少なからず影響しているだろう。


 例えばスピードを生かしてアウトサイドゾーンを走らせたらノジマ相模原の東松が最も素晴らしいと思うが、今回の日本はそういうランプレーはやらないということを、今回の1次候補の発表で表明したのだととらえている。
 そして、本番までに練習できる機会も限られている以上、森HCも言うようにやることはシンプルにして精度を高める方がいいと思う。その意味でも目指すオフェンスを作り上げることにフォーカスして、1次候補段階から完全にメンバーを絞り込んだ富永コーチの決断は評価できる。


 4月5日の日本代表記者会見では森HCや選手が口々に米国、カナダを倒して世界一になることが目標だと明言した。彼らがいったいどのようにその高い目標をクリアするのか。代表選考も含めた本大会までのプロセスもしっかり追いかけていきたい。

【写真】富永一・日本代表オフェンスコーディネーター=撮影:Yosei Kozano