白熱の展開となったスーパーボウルも終了し、今季のフットボールシーズンも幕を閉じた。ライスボウルが終わってからはNFLのプレーオフをチェックしていたが、一人の守備選手が気になった。カロライナ・パンサーズのLBルーク・キークリーだ。


 2012年に最優秀新人守備選手、13年には最年少で最優秀守備選手に選ばれた、NFLを代表するLBだが、この選手とノジマ相模原の新人LB田中喜貴のプレースタイルがとても似ているのだ。


 ワイドスプレッド隊形からのフィールドを広く使ったパスオフェンスが主流になるにしたがって、LBに求められる役割が増えている。かつてインサイドのLBはDLのすぐ後ろにどっしりと構えて、ランプレーを止めるのが主な仕事だった。
 現在では長身のWRやTEをマークするためのサイズと、前後左右に素早く動いてパスを防ぐ能力が求められている。


 キークリーは3年連続で「150」を超えるタックル数を記録しており、MLBとしてラン守備も一流だが、守備範囲の広いパスディフェンスこそが真骨頂だ。
 一方の田中はノジマ相模原でアウトサイドのLBとしてプレーし、昨シーズンは半分近くの試合でチームのリーディングタックラーとなった。
 しかし、彼もキークリーと同様に、LBとして最も優れているのはパス守備だ。パスカバーの能力は、日本のトップクラスだと思っている。


 田中のパスディフェンスはどこが優れているのか。キークリーのプレーと対比しながら解説していきたい。
①プレーリードとパスコースの読み
ワイルドカード(パンサーズ―カージナルス)※52秒から
http://www.nfljapan.com/streaming/detail/7462.html
リーグ戦(ノジマ相模原―富士通)※1分13秒から
http://www.sagamihara-rise.com/game/result/2014/10/05_1900.html


 どちらのプレーもゴール前でのプレーアクションパスだが、まず素晴らしいのは二人ともランプレーのフェイクにだまされることなく、すぐにパス守備の体勢に切り替えていることだ。


 キークリーは前に1歩ステップを踏んだ後、すぐに左に走りこんだWRの位置を確認している。その後は絶妙のタイミングでWRの前に入り、インターセプトした。
 田中の方はパスだと分かった後にWRを見ていないが、パスコースを予想して、WRがいると想定される地点に向かって移動方向を変えている。その後はパスが投げられる瞬間にスピードアップして、WRの前に入ってボールをキャッチした。


 ポイントはQBが投げる前にあえてWRをカバーしていないということだ。富士通のQBコービー・キャメロンもそうだが、レベルの高いQBはカバーされているWRにパスを投げない。つまり、守備にとってはQBに「WRがノーマークになっている」と思わせることが重要となる。田中はこの「WRを泳がせる」というテクニックを、法大時代からよく使っている。


 このようなプレーを実行するためには、必然的にオフェンスのプレーやパスコースを予想しなければならない。田中はそのためのビデオスタディーについて、法政二高時代から膨大な時間を費やしているという。
 「学生時代はビデオを見続けて相手のプレーを把握し、常に何も不安がない状態でフィールドに立っていた。社会人は時間の制約があり、まだそれが十分にできていない。今は7年間の貯金でプレーしている状況だ」と、Xリーグでは力を出し切れていないことを明かした。


 余談だが、昨シーズン王者富士通のオフェンスが最も苦しめられたと言えるこの試合(最終スコア7―0)、ノジマ相模原ディフェンスはQBキャメロンのカバーリードを狂わせることに重点を置いていたそうだ。
 加藤慶ディフェンスコーディネーターは、「キャメロンはXリーグで誰よりもリードが早い。だから、彼がパスカバーをミスリードしてくれるような仕掛けをたくさん用意した」と試合を振り返っていた。


②ボールの落下地点へ最短距離で動く
ワイルドカード・「パンサーズ―カージナルス」※1分25秒から
http://www.nfljapan.com/streaming/detail/7462.html
パールボウルトーナメント準決勝「ノジマ相模原―オービック」※1分58秒から
http://www.sagamihara-rise.com/game/result/2014/05/23_1640.html


 こちらは二人の判断の早さと守備範囲の広さを表すプレーだ。キークリーはサイドステップをしながらパスコースを見極めると、一気にギアチェンジしてボールが投げられるポイントへダッシュしている。最後はパスカットして、DBのインターセプトをアシストした。


 田中は途中までWRを追いかけながら、WRが内に入ってくると分かった瞬間に先回りして、最短距離でパスが投げられる場所へ到達している。後ろにいるSFの位置も把握した上で、ベストなポジションに移動してパスカットを決めたのだ。
 技術的な話で言うと、田中のターンについては守備コーチが注意するかもしれない。肩を返して方向転換するとスピードが落ちるので、一度QBから目を離して切り返すのが守備のセオリーだからだ。しかし、田中はボディーバランスが優れているので、肩を返してもあまり減速せずに方向を変えることに成功している。


 この試合では田中が終始素晴らしいパスカバーを見せていたのだが、その裏にはオービックのQB菅原俊との間で、目線を駆使した高度な攻防が繰り広げられていたそうだ。
 「菅原さんは常にディフェンダーの視線をチェックしている。だから、自分はこっちを警戒しているぞというのを目で菅原さんにアピールして、逆のWRに投げてもらうように誘導していた」と田中は説明する。


 菅原や関学大の斎藤圭をはじめとして、QBがアイフェイクを使って守備を誘導するのは常套手段だが、目線でQBにトラップを仕掛けられるディフェンダーは、日本のフットボール界にそれほど多くはいないだろう。


 今年は4年に一度の世界選手権が米国で開催される。当然、Xリーグで結果を残した田中も活躍が期待される選手の一人だが、本人は代表選考への出場を辞退する方向だという。「世界選手権が開催される時期は、仕事の繁忙期と重なる。フットボールを理由に仕事で迷惑をかけたくないので、出場は難しい」


 そんな田中について、ノジマ相模原の須永恭通ヘッドコーチはこう語る。「今シーズン、田中は毎週、仙台と相模原を往復する生活を送りながら、仕事とフットボールを両立してきた。新人だが、既にリーダーとしての彼に対するチーム内の信頼は厚い」


 「目の前の大きなチャンスをあきらめきれるのか?」と最後にもう一度質問すると、田中は少し考えてからこう言った。「僕にとってはライズで勝つことが最も重要なんです。このチームは一度なくなっている。スター選手はいないけど、フットボールができるありがたさを心から実感することのできるこのチームで日本一になりたい」
 新たなステージでも成長を続ける、田中のプレーに来季も注目したい。


※映像提供:NFL JAPAN、ノジマ相模原ライズ

【写真】新人ながらノジマ相模原の守備をけん引したLB田中喜貴=撮影:Yosei Kozano、2014年