100人近くの記者、カメラマンに15台以上のテレビカメラ。ライスボウルでもこれほどは集まらないというくらい、多くのメディアが続々と集結する。試合開始を待ちきれないファンが開門前から列を作り、スタンドは立ち見が出るほどぎっしりと埋まった。
 12月7日に神戸市の王子スタジアムで行われた、京大―追手門大の関西学生リーグ1、2部入れ替え戦は、異様な熱気に包まれていた。


 本来はボウルゲームの裏でひっそりと行われるはずの入れ替え戦が、ここまで注目されたのは、この試合が「水野彌一劇場」そのものだったからだ。
 京大を4度の日本一に導いた名将が、総監督として2部の弱小チームを率いて母校に引導を渡そうとしている。しかも京大にとっては創部史上初の入れ替え戦出場だ。シーズンの途中からこの対戦が実現するのではないかとファンやマスコミが騒ぎ立てたが、まるで周囲の期待に後押しされるように両チームの対戦が実現した。


 しかし、試合内容は京大の一方的な展開に終始した。追手門大はいいところなく、0―52の完敗。特にオフェンスはこの日のために準備した「トリプルオプション」が不発に終わった。


 QB矢部椋太の後ろにRB3人が配置した「ウィッシュボーン」隊形から、QBが守備を見ながら誰にボールを渡すかを「選択」するラン攻撃。この日はこのオプション攻撃を40回近く仕掛けたが、京大の激しいタックルにつぶされて前進することができない。1回平均の獲得ヤードはわずか1ヤードほどだった。


 「いつも通りのオフェンスをやっていれば、もう少しいい試合ができたのに」。試合後、追手門大の戦術について首をかしげる記者も多かった。確かに追手門大は2部のリーグ戦を、守備に的を絞らせない多彩な攻撃で勝ち上がってきた。
 QBの矢部はパスもうまい。だが一方で、フィジカルを中心とした京大との実力差は明らかで、これまでのような小手先の作戦が通じる相手ではないことも事実だった。


 試合前、追手門大の木目田康太オフェンスコーチにどのように戦略で臨むか聞くと、「原点に回帰する」と一言だけ答えてくれた。
 木目田コーチの言葉通り、オフェンスのゲームプランは徹底してオプション攻撃。どんなにやられても決して攻撃を変えることはなかった。京大の強烈なヒットを受け続けて、追手門大のオフェンスメンバーがみるみる消耗していく。


 この状況に対して「なぜ打開策を講じなかったのか」という指摘もあるかもしれないが、私はこれで正解だったと思っている。もし、追手門大がオプションを捨てて逃げのプレーに切り替えていたら、傷口はもっと広がったはずだからだ。
 「この日は何があってもオプションでいく。京大と真っ向勝負」と選手たちが腹をくくっていたから、何とか心が折れずに1試合を戦い抜けたように見えた。


 入れ替え戦での愚直なオプション攻撃を見ていて、追手門大がやりたいことは、本当はこういうフットボールなのではないかと思った。今はまだ1部のレベルと比較して、選手たちにパワーもスピードもない。この日も余分なものを削ぎ落として、全てをかけたオプション攻撃による一点突破はならなかった。
 だが、水野総監督が本気でチームの強化に乗り出した今、この攻撃が相手を圧倒する日もそう遠くはないのではと感じている。


 翌週の12月13日、東京のアミノバイタルフィールドで行われた立教大―専修大のチャレンジマッチも、オプション攻撃が勝敗を分ける重要なポイントとなった。
 第4クオーター残り7分、「TOP8」昇格を狙う「BIG8」の専大が、7―8と立教大に1点のリードを許して向かえた最後のオフェンス。自陣で第4ダウン4ヤードという状況を迎える。
 残り時間は5分以上あり、パントを蹴ってもいい場面だったが、迷わずギャンブルを選択。QB升川岳史からRB梶川陸人へのオプションピッチでこの局面を乗り切った。


 さらに敵陣に入って再び第4ダウン8ヤード。今度は残り時間が3分ほどしかないので、ランオフェンスの専大としてはもうギャンブルするしかない。ここで選択したプレーがまたも「スピードオプション」からのRB梶川へのピッチ。しかもあえて狭いサイドにプレーを展開した。
 梶川が10ヤードを走って最大のピンチをしのぐと、FGを狙うには少し遠いフィールドポジションで3度目の第4ダウン。これもオプションピッチを受けた梶川がロングゲインを奪って、逆転のFGへとつなげた。


 この時、立教大の守備は大黒柱のLB坂口裕一朗をはじめとして、負傷者が続出していた。ベストコンディションとはほど遠い状態だっただろう。だが、それを差し引いても専大のラストドライブは迫力があった。
 パスを投げるのは簡単だが、自分たちが最も練習してきた自信があるプレーで勝負をかける。そして、全員が自分の役割を遂行する。特に8ヤードをオプションで走りきったプレーは、WRを含めて全員のブロックが素晴らしかった。


 1部昇格を目指して取り組んだ「トリプルオプション」で真っ向勝負し、京大の前に散った追手門大。磨き抜いた「スピードオプション」で立教大に食らいつき、最後の最後で「TOP8」の座を勝ち取った専大。結果は明暗がはっきりと分かれたが、どちらの「オプション」も見るものを揺さぶる気迫に満ちていた。

【写真】立教大に逆転勝ちして来季の「TOP8」昇格を決めた専修大=撮影:seesway、13日、アミノバイタルフィールド