LIXILが勝つとしたら40点前後のハイスコアゲーム。試合前にこう予想していた。しかし、54点を挙げたLIXILは、IBMに69点を奪われて敗れた。
 11月30日に横浜スタジアムで行われたXリーグの決勝トーナメント準決勝の第2試合は、両チームのQBがパスを決め続け、予想を上回る高得点ゲームとなった。両チーム合わせて123得点は、リーグ新記録だった。


 第1クオーター、IBMのQBケビン・クラフトはWR小川道洋、ジョン・スタントン、栗原嵩に立て続けにTDパスを決めて、21―0と大きくリードを奪う。LIXILもQB加藤翔平がWR中川靖士、鈴木謙人にパスを通して2TDを返すが、そこから再び点差が広がっていく。


 IBMディフェンスは今季強化したフロントを中心に、LIXILのランプレーをわずか18ヤードに抑えた。さらに、DB中谷翔吾が三つのインターセプトを決めるなど、合計六つのターンオーバーを奪って、要所でモメンタムを引き戻した。
 一方、LIXILの守備には打つ手がなかった。ランもパスもIBMオフェンスが繰り出すプレーに対応できず、合計で676ヤードを許した。


 この試合はオフェンスで勝つしかない。第2クオーターのラストプレーで、LIXILの森清之ヘッドコーチ(HC)の決意が見られた。42―21とIBMがリードした場面での第4ダウン、ゴールまで残り8ヤードという状況だ。
 LIXILはFGを蹴るだろうと思った。点差は大きいが、前の2プレーはロスタックルとQBサックで後退させられ悪い流れになっている。何より、森さんはむやみにギャンブルするのを最も嫌うHCだからだ。


 7点を狙ってギャンブルをするのか、3点を得るために確実にキックを蹴るのか。コーチは試合中に常にこの選択を迫られる。以前、日本代表のHCも務める森さんに、この決断をする上でのポリシーを聞いたところ、「確実にファーストダウンやTDを決められるプレーがない時、少しでも自分の中に迷いが生まれた時はキックを蹴ることにしている」と答えてくれた。


 この状況で確実に8ヤードを決められるプレーなどない。それでも迷わずギャンブルを選択したのは、FGの3点では意味がない。TDのチャンスがある時に取っておかないと、この試合はとてもIBMに追いつけないと判断したからだろう。
 結果はQB加藤がWR宮本康弘へエンドゾーン右隅にパスを決めて、前半終了と同時に2TD差に詰め寄った。このプレーを成功させたことで、LIXILのオフェンスは腹をくくったように見えた。「全ての攻撃機会でTDを取り続けるしかない」


 後半に入ってもIBMの勢いは止まらない。マンツーマン守備で1対1になったWR栗原にQBクラフトが立て続けにTDパスを決めて、第4クオーターの8分を切って62―38とリードが24点に広がる。LIXILもよく頑張ったが、さすがに試合の大勢は決まったと思われた。 


 会場のそんな空気をLIXILオフェンスが一瞬でかき消す。QB加藤がWR前田直輝にTDパスを通し、2点コンバージョンも決めて16点差。さらにオンサイドキックを成功させ、今度はWR宮本にTDパスを決める。2点トライもきっちり決めて、8点差に迫る。この間わずか1分という速攻だった。


 残り時間はまだ6分以上あり、LIXILに一気に逆転の目が出てきた。だが「残り6分」という余裕が生まれたことが、逆に悪い結果へとつながった。
 再びオンサイドキックの構えをしていたが、森HCがタイムアウトを取る。選択したのはオンサイドシフトの裏を突いたゴロのキックだった。


 この時IBMのリターナーは一人で、後方には大きなスペースがあった。有利なフィールドポジションを得て、さらにあわよくばボールを抑えようという狙いだろう。しかし、ボールはサイドラインを割ってIBMの攻撃となる。
 このオフェンスを最後はRB末吉智一がTDランで締めくくり、IBMが69―54でまれに見る点取り合戦を制した。


 この試合もそうだが、今季のXリーグを見ていて思うのが、強力なパスオフェンスの進化に対して、パス守備の整備がまだ追いついていないということだ。
 2005年、オービックのDLケビン・ジャクソンの加入は、リーグに衝撃を与えた。けた外れのスピードとパワーに加えて、長い手足を生かしたパスラッシュでQBサックの山を築いた。以来、有効性が証明された米国人DLの数は年々増え続けて、今季のファイナル4に残ったチームには合計で5人の外国人DLが所属している。


 この流れに呼応するように、彼らと対峙する日本人OLも進化を続けてきた。今までは世界選手権の時だけ意識していた外国人という存在と、リーグ戦で何度も戦わなければならなくなったからだ。
近年では日本代表OLの平均体重は130キロを超えるようになり、パワーとクイックネスを兼ね備えた選手が次々に現れた。これはXリーグの外国人DLの存在がもたらしたと言っていいかもしれない。


 一方でパスカバーの方はどうだろうか。 米国人QBのパスに慣れて、進化を続けているWR陣とは対照的に、これを防ぐディフェンスバック(DB)の能力や技術が追いついていないように思える。


 小欄でコーチの視点でコラムを寄稿してくれている新生剛士さんが指摘しているように、日本人DB陣もある特定のポイントでは進化した部分が見られる。だが、ファンダメンタルを中心としたDBのパス守備の技術や能力はまだ発展途上にあるようだ。何よりマンツーマンでWRを抑えられるDBがまだまだ少ないのだ。


 米国のNFLやカレッジフットボールの歴史を振り返ってみても、相手に対応するために必要な技術が進化してきた。長身のWRを抑えるためにDBが大きくなり、俊敏なDEに対抗してよりフットワークの優れたOTが育成された。
 Xリーグの現状を見ると、米国人QBを中心とした高度なパスアタックに対して、DBをはじめとしたパスカバーが追いついていない。だが、これを抑えるためにディフェンスが対抗策を考え、これからパス守備は急激に進化していくだろう。


 12月15日に行われる、社会人日本一を決める「ジャパンエックスボウル」は、米国人QBが率いるチーム同士のハイスコアゲームが予想される。注目の一戦では、その試合内容とともに、パスディフェンスに進化の予兆が見られることを期待したい。

【写真】両チーム合わせて123得点は、Xリーグの新記録となった=撮影:Yosei Kozano、11月30日、横浜スタジアム