「アメリカ人にマンツーマンでは全て勝った。本番のキャンプに呼ばれたら必ず活躍して、日本人で初めてのNFL選手になりたい」。2013年の春、川崎球場で行われたパールボウルトーナメントの試合後に、IBMのWR栗原嵩は数人の記者に囲まれていた。
 レーベンズのルーキーキャンプに参加したということで、その感触を聞くために集まったのだが、栗原の表情は最高のパフォーマンスができたという自信に満ちあふれていた。


 現在、アメリカンフットボールの最高峰NFLへ挑戦を続けている日本人選手の中で、最も有望なのが栗原だ。彼の挑戦について記述する前に、まずは日本人プレーヤーがNFLへたどり着く方法を説明しておきたい。


 NFLヨーロッパが存在した2007年までは、日本人選手にとってNFLへの道がはっきりと見えていた。まず、日本国内で毎年開催されるトライアウトでNFLヨーロッパ(NFLE)にスカウトされる。リーグで活躍して、NFLのチームのキャンプに呼ばれる。さらにキャンプやプレシーズンマッチで活躍を認められれば、晴れてNFL選手になれるというわけだ。


 1996年シーズンにNFLEが初めて日本人選手を受け入れて以来、活躍を認められたRB中村多聞やLB河口正史らが、NFLチームのキャンプに参加した。
 06、07年にNFLEの最優秀リターナーに選出されたWR木下典明(現オービック)は、ニューヨーク・ジャイアンツとアトランタ・ファルコンズの2チームからスカウトされ、ファルコンズのキャンプに参加した。プレシーズンマッチに出場したものの最終ロースターに残ることはできなかったが、今まで最もNFLに近づいた日本人と言えるだろう。


 NFLEがなくなった現在では、日本人がNFLのキャンプに参加すること自体がかなり難しい。つまり、NFLの入り口にすら立つことができなくなっている。そんな状況でわずかな道を探すとすれば、大きく二つの方法が考えられる。
①米国の大学で活躍してドラフトにかかる
②米国のトライアウトでスカウトされて、キャンプに呼ばれる


 ①については、ユタ大に進学した早大学院高出身のRB高田ジェームスを以前この欄で紹介した。世界に挑戦する日本人アスリートを支援する「株式会社THE CAMP」の井上友綱代表によると、この流れは加速しているという。
 「私のところからは、これまでに8人の選手を送り出している。さらに米国の高校、大学でアメフトをプレーする日本人選手は、把握しているだけでも15人いる」


 このルートからNFL選手を次々に誕生させているのがドイツだ。ニューヨーク・ジャイアンツのDLマーカス・クーンをはじめとして、有望な若手選手は強豪高校や大学のトライアウトを受けて、米国へと移住している。
 今春、日本代表との親善試合で代表チームとともに来日したドイツ協会の関係者は、ドイツ人のNFLでの活躍を喜ぶ一方で、有望選手の人材流出に頭を悩ませていた。


 米カレッジのレベルは日本の大学と比較するとかなり高いが、多くの日本人がチームでレギュラーとして活躍するようになれば、いずれ彼らがドイツ人のようにNFLでドラフト指名されることも現実的な話になってくる。


 次に②のルートについてだが、この方法で日本人がNFLにたどり着くのは、残念ながらかなり厳しいだろう。なぜなら、これらのトライアウトは基礎的な身体能力やスキルを見るものであり、日本人のトップ選手以上に優れたアスリートは、米国にたくさんいるからだ。
 例えば40ヤード走のタイムが4秒3、60ヤードのキックを確実に決められるといった飛び抜けた才能を披露しない限り、スカウトの目に留まることはないだろう。


 つまり、米国の強豪大学でフットボール部に入り、レギュラーで活躍してドラフトにかかる。現状ではこの方法が日本人にとって最も現実的なNFL入りの道なのだ。


 それでは栗原は昨年からの2年間、いったいどのようにNFLへと挑戦を続けてきたのか。そして、いかなる成果を残したのか。後編ではこれまでの彼の取り組みと、来季への決意を紹介したい。

【写真】2013年からNFLへの挑戦を続けているIBMのWR栗原=撮影:Yosei Kozano、9月27日、八千代市総合グラウンド