日本社会人Xリーグは8月30日に西地区が開幕し、エレコム神戸がパナソニックを延長戦の末、24―21で下した。
 両チームの守備が奮闘した試合は、パナソニックがDB今西亮平、LB東健太郎がインターセプトを決めると、エレコム神戸はDL池田真治、LBロッキー・アロらがロスタックルを連発して、一進一退の攻防となった。最後は延長3回裏にエレコム神戸のK松岡準がサヨナラFGを決めて、3時間に及ぶ激闘に終止符が打たれた。


 2012年の秋、エレコム神戸の荒木紀仁ゼネラルマネジャー(GM)に会った。オレゴン州立大出身のQBライル・モエバオら外国人選手を補強したチームを見ようと、大阪の試合会場に行ってみた。
 試合はアズワンの堅守の前にエレコム神戸が21―39で完敗。第2ステージは下位リーグでの戦いが決まった、荒木さんの口数は少なかった。「外国人を補強して結果が出せなかったのは苦しい。スポンサーには懸命にプレゼンしているが、あと1、2年が勝負だろう」と話した。


 ヘッドコーチ(HC)とGMを兼任して臨んだ13年シーズンも、強豪の壁を破ることはできず、下位リーグに沈んだ。「今年が外国人を補強できる最後のチャンスかもしれない」。そう覚悟して臨んだ14年シーズン、荒木GMがHCに指名したのは、立命大、エレコム神戸でWRとして活躍し、昨年はアシスタントHCを務めた29歳の狩野良太さんだ。


 「人望が厚く、コーチとしての仕事ぶりが素晴らしかった」。荒木さんはXリーグの強豪チームとしては、異例の若さの狩野HCを任命することに迷いはなかったという。
 一方の狩野HCも「昨年はチームがばらばらになった。自分が生まれる前から存在する伝統チームを変えたい」。不安はあったが、その一心でHCを引き受けたという。


 「チームを変えたいんです。力を貸してください」。まず狩野HCは、信頼する他チームのコーチに頭を下げて回った。大産大付高時代の恩師である武田真一さんは、「お前のためだったら一肌脱ごう」と、守備コーチに就任した。
 立命大時代の先輩の岸野公彦さんは、立命大のコーチ就任が決まっていたが、「狩野を助けてやりたい」と兼任コーチとしてサポートすることを了承してくれたという。さらに狩野HCはこう語る。「長谷川昌泳さん(日大コーチ)や木下典明さん(オービックWR)にもサポートしていただいている。本当に自分は多くの人に支えられて、HCをやっている」


 エレコム神戸の今季開幕戦となったパナソニックとの大一番で、狩野HCは選手たちにこう言い続けた。「いい試合をしても意味がない。必ず勝つんだ」。その姿勢が表れたのが第4クオーター残り3分、14―14の同点に追いついた直後の采配だ。
 ここで狩野HCはオンサイドキックを選択した。守備が善戦していたこの試合において、もしオンサイドキックを失敗して負けた場合、HCの責任が問われかねない選択だった。
 「試合前から強気でいこうと決めていた。守りに入ったら負ける」。そして、狩野HCの心意気に応えるように、選手たちはオンサイドキックを成功させる。終了間際のFGは外れたが、エレコム神戸は強豪パナソニックに対して、攻めの姿勢を貫いた。


 延長3回、パナソニックが無得点で迎えたエレコム神戸の攻撃。試合を決めるFGキックを誰に託すか、狩野HCは悩んでいた。抜群の飛距離を誇る新人K高井善朗は、ここまで2本のFGを外している。しかし、チームの将来を担うホープに託したいという気持ちもあった。
 狩野HCは高井と松岡の2人のキッカーを呼んだ。「最後は目を見て決めようと思った。松岡の目は、おれが必ず決めてやると言っていた」。狩野HCは松岡をフィールドに送り出すと、直後に21年ぶりのパナソニック戦の勝利が決まった。


 就任1年目でいきなり大きな金星を勝ち取った狩野HCだが、決して現状に満足していない。「うちのチームはまだまだ弱い。オービックさんや富士通さんと勝負できるレベルではない」。だが、最後に力強くこう言った。「チームに伸びしろはたくさんある。一戦一戦勝ち抜いていけば、チームは必ず成長する。最後はみんなで東京ドームに行く」
 チームの前身は、かつて一時代を築いた「湖北ファイニーズ」であり「サンスター・ファイニーズ」。若き指揮官の下に一つにまとまった古豪が、Xリーグで旋風を巻き起こすかもしれない。

【写真】パナソニックに21年ぶりに勝利して、歓喜するエレコム神戸の選手たち=写真提供:日本社会人アメリカンフットボール協会