高校生としては群を抜く60ヤード近い遠投力と、一瞬で守備選手を置き去りにする俊足。それに加えて、危機を回避するクイックネスと冷静な判断力。これらQBに必要な資質の多くを兼ね備えているのが、日大三のエースQB渡邊綾介だ。


 6月8日にアミノバイタルフィールドで行われた関東高校大会の準決勝では、日大三の攻撃を率いて、ここ数年負け続けていた慶応に27―7で完勝した。
 第2Q、スクランブルから独走のTDを決めると、第3QにはWR大嶋ジョーダン善、三輪颯太へ、強肩を生かしたTDパスを通して試合を決定付けた。


 東京都大会の決勝では王者・早大学院を破り、5年ぶりの全国優勝を目指す司令塔の唯一の弱点がサイズだ。身長167センチで体重は56キロ。
 一般の高校生の標準体重を大きく下回る渡邊の体について、漆間健夫監督は冗談交じりにこう語る。「いっぱい食べさせているが、なかなか大きくならない。風の抵抗を受けると走れなくなる」


 一方で彼の類いまれな才能も認めている。日大三出身の歴代アスリートの中でも、特に素晴らしい選手の一人ではないかと監督に質問すると、「そうかも分からない」と答えた。その一言に、小さな司令塔への大きな期待を感じさせた。


 渡邊がQBとして高校レベルでプレーする分には全く問題はないが、大学に行けば167センチという身長が必ずネックになる。二回りは大きな大学の守備フロントにパスをはたかれるからだ。
 昨年、1年生で甲子園ボウルに出場した168センチの日大QB高橋遼平は、守備のハンドプレッシャーに苦しみ続けている。


 「(日大三の)先輩方のように、強豪大学でフットボールを続けたい。試合に出られるポジションがあるなら、どこでもいい」と謙虚に語る渡邊は、おそらくどのポジションでプレーさせてもいい選手になるだろう。
 大学ではコーチが他のポジションにコンバートさせるかもしれない。だが、彼が最も才能を発揮できるのはQBだと思う。俊足と強肩を兼ね備えた、これほど華のある選手はなかなかお目にかかれない。ただ、身長が低いだけなのだ。


 「あと3センチでいいから身長が伸びないだろうか」。「昔の日大のショットガンのように、QBがセンターから10ヤード近く後ろにいれば、大学でも活躍できるのではないか」。試合中に思わずそんなことを考えてしまうほど、魅力的なQBである。

【写真】日大三のエースQB渡邊=撮影:seesway、8日、アミノバイタルフィールド