5月31日に川崎富士見球技場でオービック―IBMの一戦が行われる。昨年、オービックの地元、千葉県習志野市で繰り広げられたハイスコアゲームは、Xリーグの年間ベストゲームとの呼び声も高い。
 毎日新聞社カメラマンの小座野容斉さんが、既にオービックオフェンスの視点から試合の見どころを小欄に書かれている。私はQBケビン・クラフトが率いるIBMのパス攻撃とオービック守備の対応を軸に、3度目の対戦の行方を考えてみたい。


 ▽クイックリリース
 東京ドームで行われた2012年のXリーグ開幕戦。この試合がデビューとなったクラフトは、ノーハドルからのパス攻撃で富士通をあと一歩まで追いつめた。この時周囲を最も驚かせたのが、クラフトの投球動作の速さ。
 ディフェンスがパスラッシュをかけても、QBに届く前にパスを投げられてしまう。テンポ良くショートパスを投げ分けるスタイルのIBMオフェンスに対して、ラッシュは無意味に思えた。


 オービックディフェンスがこの仮説をすぐに覆す。リーグ戦の第3節で対戦すると、DBのマンツーマン能力を信頼した上で、ブリッツを駆使した攻撃的な守備を展開する。
 DLビーティー・ジュニア、ケビン・ジャクソンらが猛然とクラフトに襲いかかり、QBサックを決めた。ビーティーはサックだけではなく、ゾーンブリッツのサインではパスをインターセプトするなど、獅子奮迅の活躍ぶりでオービックの完勝に貢献した。
 「彼(クラフト)ばかりが注目されていたので、僕らの力を証明したかった」とビーティーが言っていた通り、オービック守備陣のモチベーションの高さも大きな勝因だった。


 ▽二つの誤算
 2013年の対戦でも前年同様、オービックはクラフトのパスに対してラッシュに重きを置いた攻撃的な守備で臨む。だが、試合には1点差で勝ったものの41点を失い、オービック守備にとっては屈辱的な結果となる。


 この日、IBMオフェンスが一年前から進化していた点が二つあった。まずはクラフトの機動力が大幅に向上していたことだ。この試合でもDLビーティーやジャクソンはIBMのパスプロテクションを突破して、何度もクラフトに迫った。だが、その度にラッシュを巧みにかわされた。
 もう一点がQBとWRのコンビネーションの向上だ。「プレーが崩れても走り続けていれば、この辺に落としてくれるという感覚がつかめた」。IBMのエースWR小川道洋が試合後に語っていた通り、一年間でクラフトのパスに慣れたWR陣が、絶妙なロングパスを次々に捕球した。


 さらにNFLへの挑戦を続けているWR栗原嵩の存在も大きかった。圧倒的なスピードを持ったジョーカーの存在により、マンツーマン守備におけるオービックディフェンスの優位性が崩れたのだ。この試合で記録されたオービックのタックル30回のうち、20回以上がDBによるものだった。
 オービックの主将LB古庄直樹も「あれだけラッシュが効かないと、止めるのは厳しい」と守備の完敗を認めていた。


 ▽パナソニックの守備戦略
 IBMオフェンスとオービックディフェンスの対戦として考えると、過去2年は1勝1敗だ。昨季の社会人選手権を戦ったオービックと富士通が苦戦したのをはじめ、プレーオフの常連である鹿島(現LIXIL)やノジマ相模原もこの2年間でIBMに敗れている。
 だが、2年連続でクラフトを止めているチームがある。西の強豪パナソニックだ。


 パナソニックは最後尾にSFを3人配置する超守備的な布陣で、クラフトのパスを防いだ。正確に言うと、攻撃コーディネーターを兼任するクラフトにランのプレーコールを選択させたのだ。
 オフェンスラインの前にはDL3人、LB3人の6人しか守備選手がいない。セオリーでいえば、ランを選択するのは当然だ。しかし、出るはずのランで思うようにゲインが奪えない。少人数でも伝統的に強力なパナソニックの守備フロントが立ちはだかり、3ヤードほどで確実に止めていた。


 さらに、後ろに3人のSFが控えていることにより、両サイドのCBが思い切りよく前に上がることができる。ランプレー代わりに多用するショートパスも止められて、IBMの攻撃は次第に追いつめられていった。
 今春、アサヒビールが富士通のQBキャメロンが率いるオフェンスに対して、似たような守備戦略を用いていた。やはりパスに対しては効果を発揮して前半を10点に抑える。
 だが、富士通が攻撃をラン主体に切り替えた後半は止めることができなかった。このスキームを用いるには、相手OLと味方の守備フロントの力量を計算した上で、人数で劣っていてもランをある程度止められることが前提となりそうだ。


 31日の試合は、オービックが3年連続で攻撃的な守備を貫くのか。あるいは守備的な布陣でTDを防ごうとするのか。客観的に考えれば、守備フロントが強力なオービックは、パナソニックと同様の戦略を用いることができるはずだ。
 だが、「今回は必ずサックを決めてやる」と意気込むビーティーやジャクソンの姿も目に浮かぶ。
 いずれにしても、「スイッチ」の入ったオービックが試合開始から全力で相手をつぶしにくることは、2012年のIBM戦、昨年の富士通戦を見ても明らかだ。オービックがかなり有利と見ているが、さらにその上を行くIBMのオフェンスを見てみたい気もする。

【写真】IBMのQBクラフトをサックするオービックのDLビーティー(23)とジャクソン=撮影:Yosei Kozano、2012年、川崎球場