注目の選手が衝撃のデビューを果たした。8月30日に東京ドームで行われた日本社会人Xリーグ開幕戦の富士通―IBM。本場米国の強豪、カリフォルニア大ロサンゼルス校(UCLA)でエースQBとして活躍した経験を持つケビン・クラフトが、期待通りのパフォーマンスでファンの喝采を浴びた。試合は20―24で敗れたが、その実力は前評判通りだった。
 
 ▽うなる剛腕
 きれいに回転がかかった楕円(だえん)球が、次々と味方レシーバーの手や胸に吸い込まれていく。QBが左右に走り、短いパスを決める「ラン・アンド・シュート・オフェンス」。試合開始から17回連続でパス成功。第1クオーターに、一時は14―3とリードを奪う。この試合のプレビューで、WR小川、RB末吉頼みの単調な攻撃になると厳しいと書いた。しかし、終わってみれば10人のパスターゲットに計49本のパスを投げ分けた。パス成功率も8割を超えた。6割を超えれば及第点とされるアメリカンフットボールのパス攻撃で、この数字は突出している。
 攻撃のリズムも良かった。富士通のお株を奪うノーハドルオフェンス。軽快なフットワークとクイックリリースは、さすがだった。相手守備のラッシュを無駄のない動きでかわす姿は、洗練されていた。通常、攻撃のプレーはサイドラインからコーチがQBに授けるが、この日のクラフトは全プレーをフィールド上で自ら指示して、攻撃を組み立てた。「作戦変更も含めてコールはほとんど当たっていた」。IBMの山田晋三ヘッドコーチ(HC)は、クラフトのプレーコールを高く評価した。
 ただ、ロングパスが少なかった分、相手守備にとっては守りやすかった。ミドルゾーンへも20ヤード以上のパスはわずか4本。後半、富士通のディフェンスが前がかりになった時に、TEスタントンへ通したようなシーム(ゾーン守備の隙間)へのパス、ロングパスの脅威があれば展開は変わっていただろう。
 山田HCが「ディフェンスは生きるか死ぬかで、とにかくオフェンスに回すことだけを考えた」とふり返った守備は、一か八かのギャンブル的な布陣で臨み、相手を28点以内に抑えるという目標は達成した。
 
 ▽脅威のクイックリリース
 前半、富士通の守備はクラフトの投球動作が速く、うまく反応できなかった。取材したカメラマンによると、クラフトの投球を秒間12コマで撮影して、写っていたのは3~4コマだという。テークバックからリリースまで、わずか0.3秒という計算になる。一瞬の判断の遅れが命取りになる。本場で培った技術と経験が、日本のトップチームを混乱に陥れた。
 
 ▽台風の目となるか
 「自分の出来は70点。このチームはまだまだ強くなる」。クラフトは自信に満ちた笑顔を見せて、取り囲んだ報道陣一人一人と握手を交わした。ディフェンスが予想以上に健闘しただけに、攻撃の幅がさらに広がれば他チームにとっては大きな脅威となるだろう。富士通の藤田智HCは「(レシーバーとの)タイミングが合って、(広いゾーンに)自由自在に投げられるようになったら手が付けられない」と、クラフト率いるIBMオフェンスの進化を警戒した。

【写真】パス攻撃で439ヤードを獲得したIBM・QBクラフト=撮影 Yosei Kozano