2016年シーズンに撮影した試合の中で、今も記憶に残る、あるプレーのことを書いてみたい。


 10月1日のXリーグ第4節、エキスポフラッシュフィールド(大阪府吹田市)で行われた、ブルザイズ東京対サイドワインダーズの一戦だった。
 入れ替え戦でX2から昇格してきた両チームは、ブルザイズの大社充監督、サイドワインダーズの森下順光監督が、ともに1980年代の京都大学ギャングスターズ黄金期の主力選手だ。両チームはクラブとしてチーム環境も似ており、互いに選手交流もある。兄弟対決ならぬ「京大対決」となった。


 前半は、ブルザイズ桐原、サイドワインダーズ前田の両QBが2本ずつタッチダウン(TD)パスを決めて、14―14で折り返した。
 第3クオーターには、サイドワインダーズがゴール前まで攻め込みながら、ブルザイズDL長島にファンブルリカバーTDを奪われて、14―20とリードされた。しかし、サイドワインダーズは強気だった。オフェンスがコンスタントに進んでいたからだ。対照的に、ブルザイズは攻め手を欠いていた。切り札であるQB桐原のキーププレーが読まれていた。


 サイドワインダーズは第4クオーター開始早々に、ブルザイズゴール前に絶妙のパントを落とした。ブルザイズは自陣ゴール前2ヤードからの攻撃。ファーストダウンは桐原のパスが失敗する。セカンドダウンではランに出た桐原だが1ヤードのロスで、あわやセーフティーという結果だった。


 自陣ゴール前1ヤード、サードダウン11ヤードのオフェンス。ブルザイズは意表を突く作戦に出た。桐原の代わりにQBに入った小原が、ショットガン隊形から、クイックパントを蹴ったのだ。
 攻撃するものと思っていたサイドワインダーズディフェンスには当然リターナーはいない。ボールはサイドワインダーズ陣の43ヤードまで転がった。小原がボールを蹴ったのはエンドゾーン内だったから、57ヤードを挽回したことになる。


 相手の術中にはまったサイドワインダーズは、サイドラインも選手たちも、気持ちを切り替えることができないまま次のオフェンスに向かったようだ。
 そして、最初のプレーで、奥を狙ったQB前田のパスがブルザイズDB北村にインターセプトされる結果となった。このチャンスに、ブルザイズは着実な攻撃で前進し、TDこそ奪えなかったがフィールドゴール(FG)で貴重な3点を追加し、残り試合時間6分余りで、2ポゼッションゲームとした。


 攻めるしかなくなったサイドワインダーズだが、狂った歯車は元に戻らなかった。前田はここからインターセプトを連発。サイドワインダーズは14―23で敗れた。
 オフェンスの獲得距離はサイドワインダーズは381ヤード、ブルザイズが218ヤードだった。


 試合終了後、ブルザイズの大社監督は「ディフェンスが頑張って点を取ってくれた。ただ、試合の流れとしては、あの危険なボールポジションからのクイックパントが、決定的に良かった。小原がよくやった」と評価した。


 クイックパントと言えば、関西のフットボールには忘れられない試合がある。


 1995年11月26日の西宮スタジアム、関西学生リーグ最終戦で京大は立命館大学パンサーズと全勝同士で激突した。
 前年甲子園ボウルに初出場した立命大は、天才QB東野が率いる強力なオフェンスを擁していた。京大はディフェンス力では引けを取らなかったが、点の取り合いになっては分が悪かった。そこで京大が繰り出したのが、クイックパントだった。


 WRからコンバートされたランニングQB杉本にエースの座は譲っていたが、元々は好パサーだった田中がサードダウンロングからしばしばクイックパントを決めて、大きく陣地を挽回した。
 徹底的なボールポゼッション戦術が助けとなり、京大自慢のディフェンスは立命大のオフェンスを1FGだけに抑えきり、7―3で勝利した。


 この後、京大は甲子園ボウルで法政大、ライスボウルで松下電工を撃破し、4回目の日本一に輝いた。


 走力に優れた桐原と、パサーの小原。ブルザイズの二人のQBも、ともに京大出身だ。2016年からチームに加入した小原は、大学時代は前監督の水野彌一さんに「投げる能力では京大史上屈指」とさえ評価されていたが、2年のブランクがあってチームが期待するようなパス成績は上げられていなかった。
 この試合もパスは1回投げただけだ。しかし、一発勝負の奇策を見事に決めたのは、さすが「ギャングスターズの遺伝子」とでもいうのだろうか。


 この試合の後に行われたのが、前年のジャパンXボウルの再戦となった、富士通フロンティアーズ対パナソニックインパルスの一戦だった。
 13―13の同点で迎えた第4クオーター8分、パナソニックのサードダウンロング(18ヤード)の局面で、パスを狙ったQB高田が、富士通LBニクソンにサックされファンブル、ボールをリカバーしたニクソンがそのままTDを決めて、勝敗が決していた。


 試合後、パナソニックの荒木延祥監督は「オフェンスが常に、ファーストダウン、ファーストダウンと狙いすぎた。オフェンスとはそういうものだろうけれど。ただ、FGでいい場面、パントでもいい場面がある。攻めるべきところ、無理しなくていいところを、私がもっとコントロールしなければならなかった。今日の反省ですし、私の責任です」と語った。


 具体的な場面こそ指してはいなかったが、荒木さんが第4クオーターのサードダウンロングについて語っているのは間違いなかった。
 もちろん、サードダウンロングを無理にパスで取りに行かない判断が、そのままクイックパントのような奇策につながるわけではない。


 しかし、あの場面で仮に高田がクイックパントを蹴っていたら、富士通は対応できていなかったのではないか。
 そして試合は、シーズンは、日本一の座はどう変わっていただろうか。今でも考えることがある。


 勝負事に「れば」「たら」は禁句だが、シーズンの見えない分岐点だったような気がしてならない。

【写真】パスを投げるブルザイズQB小原。勝負所でクイックパントも決めた=撮影:Yosei Kozano