米インディアナ州インディアナポリスのルーカスオイル・スタジアムで、NFLスカウティングコンバインが間もなく始まる。
 ドラフト候補生の身体能力や技能、メンタル面などをチェックするもので、オフシーズンの大きなイベントだ。


 その中に「ワンダーリックテスト」というものがある。12分間で50の質問に答える知能テストの一種で、問題自体は冷静になって考えれば誰でも正答を見つけられる比較的簡単なものばかりだが、1問当たり14秒ほどで答えていかないと、全問回答できない。


 出題形式などは、昔のテレビ番組「クイズ タイムショック」に似ているといえば、日本人に分かりやすいかもしれない。
 限られた時間の中での情報処理能力を問うもので、これが選手の知能の尺度とされているのは、個人的には大いに違和感がある。


 それでも、米国人はワンダーリックテストの得点とQBの能力に因果関係があると信じたいらしく、インターネット上にはさまざまな情報があふれている。
 「ワンダーリック」「得点」「NFL」と英語でネット検索をすると、サジェスチョン機能でNFLの有名QBの名前が出てくるのがその良い例だ。


 以前は、ともにアフリカ系のヴィンス・ヤング(元タイタンズなど)やマイケル・ビック(元ファルコンズなど)が一桁台の得点で、ハーバード大出身のライアン・フィッツパトリック(元ジェッツなど)が40点台後半などという人種、学歴的な偏見に基づいた都市伝説のような結果も流布されていた。
 実際には、ヤングは再テストでは15点、ヴィックは20点ということだった。


 これがQBとしての結果につながったかと言われれば、どうやらほとんど関係ない。往年の名選手でいえば、テリー・ブラッドショー(元スティーラーズ)、ダン・マリーノ(元ドルフィンズ)、ジム・ケリー(元ビルズ)が15点だったというし、ドノバン・マクナブ(元イーグルスなど)が14点、ブレット・ファーブ(元パッカーズ)は22点だったそうだ。
 一方で、ブレイン・ギャバート(現49ERS)が42点、フィッツパトリックは48点だったというが、QBとしての評価は微妙だろう。


 もっと端的な例では、ペイトン・マニングが28点で、イーライ・マニングが39点ということだが、スーパーボウル優勝回数こそ同じながら、ワンダーリックテストの得点が低い兄のほうが、QBのパス能力でははるかに上だろう。


 QBには頭脳が必要だという意見には賛同するが、刹那的で一面的なワンダーリックテストなどよりも、もっと適した指標があると思う。それは学業成績ではないか。


 2016年のNFLの話題の一つが、ダク・プレスコット(カウボーイズ)とカーソン・ウェンツ(イーグルス)という二人のルーキーQBの活躍だろう。
 ドラフト全体2位指名のウェンツは開幕から先発すると3連勝で、強豪スティーラーズに大勝するなど序盤に旋風を巻き起こした。シーズンが深まるにつれて成績を落としたが、全16試合に先発して、パス3782ヤード、16TDは堂々たる成績と言っていい。


 そのウェンツを上回る活躍を見せたのがプレスコットだった。エースQBトニー・ロモの負傷で開幕から16試合に先発、パス3667ヤード、23TDも素晴らしいが、インターセプトはわずか4、パサーズレーティング104.9という成績で、チームも13勝3敗という快進撃を見せた。
 プレーオフ初戦ではパッカーズに惜敗したものの、プレスコットは攻撃部門の新人王に輝いた。


 ウェンツとプレスコットに共通するのが大学時代の優秀な学業成績だ。ノースダコタ州立大学卒業のウェンツは、在学中のGPA(成績平均値)は4・0(満点)で、2015~16年の全米大学体育協会(NCAA)ディビジョン1所属の全スポーツ選手の中からただ一人「アカデミックオールアメリカ」に選ばれた。
 ミシシッピ州立大学のプレスコットも、所属するサウスイースタンカンファレンス(SEC)で2度学業表彰を受け、2014年に大学を卒業し、15年12月には大学院で修士課程を修了している。


 前回のコラムで書いたワトソンと同様に、ウェンツもプレスコットも低学年から先発QBとなり、チームのスター選手だった。
 にもかかわらず学業でも優れた成績を残してきたのは、オフの時間を無駄に過ごさない計画性や、決められた時間内に勉強をこなす集中力、さらにはさまざまな誘惑に打ち勝つ心も強いのだろう。それは準備が最も大切とされるフットボールの世界でも生きるということではないだろうか。


 最後に、日本のフットボールに話を振りたい。昨年12月上旬、東北大学を破って、早稲田大学を2年連続で甲子園ボウルに導いた濱部昇監督と記者会見後に立ち話をしていた時のことだ。


 濱部さんは「今季のチームは、チーム全体の取り組みとして底が上がった。フットボールやトレーニングだけでなく、学業面でも質が上がってきている」と語った。
 具体的な例を尋ねると、「本当に些細なことだけれども、私が監督になってからチーム全員の平均GPAが、毎年0・1ずつ上がってきている」という。「『フットボールは一生懸命やるけれど、勉強はちょっと』という選手は、結局フットボールでも苦手な部分では手を抜いてしまうのです」とも話してくれた。


 1月に監督の座から退いた指導者が、4年間率いたチームに残した一番大きな業績は、学生としての本分を全うするという教えだったのかもしれない。

【写真】NCAA1部の全スポーツ選手の中からオールアメリカに選出されたカーソン・ウェンツ=CoSIDAのサイトから