米国のフットボールはNFLのドラフトが話題の中心となる季節となってきた。私が気になる選手の一人が2016年シーズンの全米王者、クレムソン大のQBデショーン・ワトソンだ。


 フロリダ州タンパのレイモンド・ジェームズ・スタジアムで、現地1月9日に、クレムソン大とアラバマ大が対戦したカレッジフットボール王座決定戦は、歴史に残る名勝負となった。
 2年連続同じ顔合わせとなった試合は、クレムソン大が連覇を狙ったアラバマ大に35―31で劇的な逆転勝ちをおさめたが、立役者が残り1秒で逆転タッチダウン(TD)を決めたワトソンだった。


 名将ニック・セイバンヘッドコーチ(HC)が率いるアラバマ大のディフェンスは今季も大学最強だった。
 ランディフェンスは全米1位で、DL、LB陣は私の見るところ、今年のNFLドラフトの1巡で指名される選手が3、4人はいる。特にDLは、ランストップ能力だけでなく、パスの場面でも4もしくは3人で相手QBに十分なプレッシャーをかけられる強さを持っていた。

 自身の脚力も含め、ランに頼れない状況はワトソンにとってストレスになっていたはずだ。前半は、度々QBサックを浴びるなど、アラバマ大ディフェンスに封じ込まれていた。
 しかし後半、戦況が変わる。ワトソンの投げるタイミングの早さとレシーバーの巧みなコース取りで、パスが要所で的確に決まるようになったのだ。アラバマ大ディフェンスは、ブリッツなどでパスラッシュ要員を増やした場面以外では、クレムソン大のオフェンスを止められなくなった。


 プレー以上に光ったのは、ワトソンの冷静さだ。素晴らしいパスが決まっても、厳しいプレッシャーにさらされても、喜怒哀楽を表情や態度に出さず、淡々の次のプレーに向かった。
 常日頃は自信満々でサイドラインに佇むアラバマ大のセイバンHCが、後半に入ると怒ったり、落胆したりという表情を見せたのと、好対照をなしていた。


 逆転をかけた最後のプレーは、第4クオーター残り6秒でゴールまで2ヤードからだった。クレムソンの右側に2人いるレシーバーのうち、インサイドのWRレンフローが縦に上がると見せて、右外に流れた。同時にすぐ外側のレシーバーは、目の前のマンツーマンのDBを強くブロックして押し込んだ。
 このブロックがレンフローについていたアラバマ大DBの動きまで封じる形となった。ワトソンは、ポケットの中から右に滑らかに流れながら、ふわりとした捕球しやすい、しっかりコントロールされたパスを、フリーになったレンフローに投げ込んだ。残り1秒。あまりにも劇的な逆転TDだった。


 残り1秒で味方の最後のキックオフを待つ間、ワトソンは、派手なガッツポーズをとるでもなく、仲間と抱き合うわけでもなく、大声で騒ぐでもなく、サイドラインの芝の上に一人で座って、涙を流しながら静かに喜びを噛みしめていた。非常に印象的な姿だった。
 ワトソンに率いられたクレムソン大のオフェンスは、第4クオーターだけで21点を奪ったのだった。


 ワトソンは、今年のNFLドラフトにアーリーエントリーする。彼のようなスプレッドオフェンスのモバイルQBは、以前は「NFLで通用しない」と言われてきた。
 しかし、ここ数年キャム・ニュートン(パンサーズ)、ラッセル・ウィルソン(シーホークス)、タイロッド・テーラー(ビルズ)、マーカス・マリオタ(タイタンズ)、そして2016年の新人王ダク・プレスコット(カウボーイズ)と、NFLにきちんとアジャストする同じタイプのQBが増えてきた。ワトソンもプロフットボールで成功する可能性を秘めていると思う。


 そう信じる理由の一つは、オフフィールドにある。ワトソンがアーリーエントリーすると書いたが、学業の面から言えば、実は「アーリー」ではない。
 彼は昨年末に大学を卒業した。12月15日に、サウスカロライナ州にある同大で行われた卒業式に、1028人の学部卒業生の一人として出席し、コミュニケーションの学位を取得していた。


 大学の公式インスタグラムが「ありがとうデショーン、誇るべき卒業生」とメッセージを添えて卒業式の写真を投稿すると、ワトソンは「ありがとうクレムソン大学。私の人生の中で最高の3年間でした」と返答していた。
 卒業生のために、NCAAフットボールの4年生のためのオールスターゲーム「シニアボウル」にも、3年生であるにもかかわらず、選手として招待を受けた。


 14年1月に入学したワトソンは、1年生からQBとして活躍。3年間の成績は、パスが1万168ヤードで90TD、ランは1934ヤードで26TD。2、3年時は連続でパス4000ヤードを超え、ハイズマン賞の投票でも、2年時に3位、3年時は2と連続でファイナリストとなった。
 「レッドシャツ」と呼ばれる練習生期間もなかった。正味3年で卒業にこぎ着けたのだ。


 現地報道によればワトソンは、1年生の時から3年で卒業することを計画していたという。春から夏にかけてのオフシーズンにキャンパスに通い続け、科目を着実に履修していった。
 1月の決勝で見せた、カレッジ最強の守備相手に、常に冷静さを失わずゲームをコントロールし続けた姿は、ワトソンの計画性と実行力に裏打ちされたものだったのではないか。


 複数の米メディアの報道によると、過去にNFL入りしたQBの中で、大学を3年間で卒業したのは現チーフスのアレックス・スミス(ユタ大学)だけという。
長くなったので、次回にもう少し詳しく選手の成功と学業成績の関係について書くことにしたい。


 つづく

【写真】昨年12月15日、クレムソン大学の卒業式に臨んだデショーン・ワトソン(中央)=同大学提供