アメリカンフットボールファンの友人、葛西泰寛さんが嘆いている。Xリーグの開幕で8月28日に対戦するIBMビッグブルー対富士通フロンティアーズ(富士通スタジアム川崎)の一戦のことだ。


 関東で行われるXリーグの試合は、会場がダブらない限り、ほぼ皆勤して観戦している葛西さんは、経営する会社ぐるみでIBMを応援している。
 IBMの試合には社員や取引先、さらには行きつけのバーのマスターまで誘って20人からの団体で観戦に繰り出す。終わった後は、川崎の居酒屋で皆で楽しく語らう。楽しく観戦してお金を使う。まさにファンの鑑のような方とさえ言っていい。そんな葛西さんがこう嘆くのだ。


 「2年前のジャパンXボウルの再戦で、あの時よりはるかに補強されてチーム力は上がった。春のパールボウルも優勝した。満を持して富士通と開幕戦。QB(ケビン)クラフト対(コービー)キャメロンの対決。こんな面白い試合はない。でも誘いに乗って観戦に来てくれるのはたった4人ですよ」
 

 無理もない。IBM―富士通戦の開始時間は、日曜日夜の午後6時30分。日中の暑さを勘案して、その前に行われるノジマ相模原ライズ―オービック・シーガルズ戦開始が午後3時30分となっているためだ。
 12分クオーターとはいえ、前の試合が2時間半を越せば、開始時間がもっと遅くなる可能性すらある。


 「(テレビアニメの)『ちびまるこちゃん』が終わって『サザエさん』が始まる時間から、川崎でアメフット見ようって誘っても来るわけがないんです」


 葛西さんが語るのは大人のファンの立場だが、小中学生の観戦という点ではもっと厳しい。例えば横浜市の小中学校は8月29日から2学期が始まるそうで、東京都でも8月中に2学期が始まる学校は全体の35%を超えている。
 明日から2学期という子どもたちが、前日夜遅くまで観戦をするのはハードルが高い。


 葛西さんは続ける。「このカードは親企業もライバル。IBMの関係者からすれば一番盛り上がる。東京ドームでやれば観客が1万人入る可能性だってある」


 私もこの考えに同意する。もちろん富士通対IBMだけではない。第1試合には、開幕前から話題をさらうノジマ相模原の新米国人QBデビン・ガードナーが登場する。
 ガードナーとオービック守備のバトルは、今季の行方を、ひいては日本のフットボールがどのように進化するのかにさえ影響を与える。


 この2試合は、いずれもジャパンXボウルで再戦があってもおかしくない好カードだ。これをを日曜日の遅い時間帯に川崎で行い、翌日の8月29日に東京ドームナイトゲームで東京ガス・クリエイターズ対明治安田ペンタオーシャンパイレーツというのは、失礼ながら首をかしげざるを得ない。


 明治安田と東京ガスのチーム関係者やファンには申し訳ないが、この2チームは昨シーズンの総合順位が18チーム中12位(東京ガス)と14位(明治安田)だ。それがなぜ、開幕の東京ドームで組まれているのか。
 もちろんいろいろな事情があるのは承知しているが、端的に言って両チームが会場使用料を負担できるからに過ぎない。


 そこには、面白い試合で観客を集め、ファンを増やすという視点が欠落している。完全に内輪向けの論理としか言いようがない。


 富士通のRBジーノ・ゴードンは「将来は、Xリーグが世界中でNFLの次のリーグになる可能性すらある」と予測する。
 QBキャメロンも「Xリーグは戦術水準が平均して高い。そこに米国人選手やコーチが加わることで、垂直的にレベルが上昇していく」と見る。


 世界最高のリーグに対する日本のトップリーグの立ち位置という観点では、Xリーグは9月22日に開幕するバスケットボールの「Bリーグ」に決して劣るものではないと思う。
 Bリーグは、開幕戦となるアルバルク東京―琉球ゴールデンキングスを1万3000人収容の国立代々木競技場第一体育館で開催。民放がゴールデンタイムでテレビ放送する。


 Xリーグにもかって同じような志はあった。2008年のことだが、オービックが東京ドームでの開幕戦の相手IBMに呼びかけ、レギュラーシーズンゲームでの観客動員1万人を目指した。
 結果は6398人に終わったが、「公式戦で1万人入れば、リーグが変わる」と訴えたオービックの企画は尊いものだったと思う。新リーグ方式で、ヘッドコーチたちが「本当にしんどい」と思わず漏らすような対戦が開幕から実現した今季こそ、そこに再びチャレンジする好機だった。惜しいとしか言いようがない。


 ノジマ相模原のQBガードナーと、ホットラインを組むWRのジェレミー・ギャロンはともに名門ミシガン大の出身だ。
 母校の「ミシガンスタジアム」は全米最大で、収容人員は公称10万7601人。二人は常に10万人を超すファンの前でプレーしてきた。当日川崎にファンがどれくらい集まるのか。彼らがそれを見て落胆しないか、心配だ。


 リーグや協会の批判だけで終わるのはまったく建設的ではない。最後にもう一度葛西さんの話に戻って、企業経営者の視点からのユニークな提案を紹介したい。


 葛西さんは「春シーズンのメリットは何か。それがないことが、Xリーグの問題の一つだ」という。パールボウルに勝ったところで、名誉以外の何もない。そしてその名誉ですら、ジャパンXボウルやライスボウル王者に比べてはるかに下に見られる。


 「パールボウル王者には、開幕週の東京ドーム主催権を与える。会場使用料は日本社会人協会が負担する」というのが葛西案だ。
 そしてチームが自ら券を売ることを認める。チームに興行の感覚を持たせるためだ。気になった私も調べてみたが、東京ドーム公式サイトによると利用料は1日1700万円となっている。
 日本社会人協会の内部留保は公表されているが、金額的にも決して荒唐無稽な話ではないと考える。前向きに検討してほしい。

【写真】2015年のジャパンXボウルで入場する富士通の選手たち=撮影:Yosei Kozano