第50回スーパーボウルは2月7日(日本時間8日午前)に、米カリフォルニア州のリーバイススタジアムでキックオフとなる。
 NFL史上ナンバーワンのパスの名手、デンバー・ブロンコスのQBペイトン・マニングが、スーパーボウルに勝つ最後のチャンスではないかと見られており、日本でも判官びいきというのか、マニングに勝たせたいというファンが多いようだ。だが、本欄では、カロライナ・パンサーズの若きエースQBキャム・ニュートンについて書いてみたい。


 現在26歳のニュートンは、NFL史上、最高クラスの身体能力を持つQBだろう。40ヤードを4秒5台で走り、垂直跳びは89センチ。ただ、走るスピードだけなら、全盛時のマイケル・ヴィック(現スティーラーズ)や、ひざを負傷する前のロバート・グリフィン3世(レッドスキンズ)の方が速いかもしれない。
 しかし196センチ、112キロの頑健な体躯から繰り出すプレーはアグレッシブで、ヒットにも強く、大きな負傷もない。QBでなくてもDEとしてプレーできたのではないかと思えるほどだ。


 ここでニュートンのプロフィールについて簡単におさらいしたい。2007年にフロリダ大学に入学したニュートンは、2シーズンの在学中ティム・ティーボウ(元ブロンコスなど)のバックアップQBを務めた。アーバン・マイヤー・ヘッドコーチ(HC)の元で、スプレッドオプション戦術を学んだ。

 2007年のハイズマントロフィー(全米最優秀選手賞)を受賞したティーボウは、1学年しか違わなかったため、ニュートンの出番はなかなか訪れない。不祥事なども引き起こし、環境を変えることを選択したニュートンはフロリダ大を後にした。


 ジュニアカレッジを経由して、2010年にオーバーン大学へ転入したニュートンは、いきなり先発QBとなった。持ち前の身体能力を最大限に発揮してパスで2854ヤード30TD、ラン1474ヤード20TDという活躍で、ハイズマン賞を受賞。オーバーン大も全勝で全米王者となった。ニュートンはシーズン後プロ入りを表明し、2011年のNFLドラフトで、全体1位指名でパンサーズに入団した。その後の活躍は、ご存知の通りだ。


 ニュートンの今季の躍進について、「以前はすぐ走っていたが、ポケットパサーとして成長した」という見方がある。私は少々違うように思う。大学時代から得意の、ゾーンリードオプションからのQBのランは、今季も依然として有力武器の一つだ。
 解説者の生沢浩さんも「プロ入り後、一時期使わなかったオプションのランを解禁したのがニュートンの成長をかえって促した」と見る。


 データを見ればそれが裏付けられる。今季公式戦16試合で、ニュートンのランは132回。これはプロ入り後最多の数字だ。
 ラン10TDも、デビュー年の14TDに次ぐ成績となった。オプション攻撃は、縦が速くフィジカルに強いランナーがいるチームではより効果的となる。RBジョナサン・スチュワート、FBマイク・トルバートと、人に強いタフなランナーがそろったパンサーズはこの攻撃に向いている。スクランブルではなく、最初からデザインされたニュートンのランが、相手ディフェンスにとっての脅威を増しているのは間違いない。


 もちろんパスには長足の進歩があった。手首や肘の強さを生かしたクイックヒットのパスは他のモバイルQBにはない巧さがある。
 カージナルスとのNFCチャンピオンシップで見せたように、守備のブリッツが入ったのを確認して、その穴を攻めてTDパスを奪うといったプレーもこなせるようになった。


 とはいえ、ニュートンには苦手なパスがある。それはWRへのパスだ。とりわけ、動きが速いWRに投げ分けていくのは決してうまくない。
 WRテッド・ギンは97回ターゲットとなり、成功は44回、デビン・ファンチェスは63回中で31回と、成功率は5割を下回る。WRとしては4番手で、チェックダウン的なパスルートを走ることも多いベテランのジェリコ・コッチェリーには54回中39回成功と、確率が上がってくる。


 一方で、入団以来のメーンターゲット、TEグレッグ・オルセンには124回で77回、FBトルバートには23回で18回、RBスチュワートには21回で16回、TEエド・ディクソンにも27回で16回と、成功率は軒並み6割を超える。RBやTEなど、どちらかといえばQBが困ったとき助けてくれる補助的レシーバーへのパスが、頼りなのだ。


 今季パスで3837ヤード35TD10INTという優れた成績を残したニュートンだが、トム・ブレイディ(ペイトリオッツ)やアーロン・ロジャース(パッカーズ)といったトップ級のQBに比べれば、パサーとしてはまだまだ課題を多く残しているのだ。


 テレビ中継画面から見て取れる、ニュートンが他のポケットパサーと決定的に違う点。それはサイドラインでの振る舞いだ。
 AFCチャンピオンシップで、ブレイデイとペイトン・マニングの対戦を見たファンならすぐに気付くだろう。ブレイデイもマニングも、自軍がディフェンスの時は、基本的にフィールドを見ていない。スポッター席と無線で連絡を取り合い、プリントアウトされたプレーの図面を見て、相手ディフェンスを分析する。
 仮にそういった作業が終わったとしても、じっと下を向いて、次のオフェンスに向けて精神集中を図っている。フットボールのコーチがよくいう「自力でどうにもならないことには関心を持たない。自分ができるプレーだけに集中する」ということだ。


 ニュートンは違う。プレーの打ち合わせや分析はそこそこで、すぐにフィールドに目を向け、自軍ディフェンスの応援団となる。サードダウンでは、大きく手を振りながらサイドラインを走り回って、スタンドのファンにクラウドノイズを求める。
 ディビジョナルプレーオフのシーホークス戦では、第4クオーターに追い上げられた局面で、フィールドの中に入ってディフェンスの一人一人と握手をして激励してまわった。ハイスクールフットボールのような光景で、NFLのQBとしてはかなり異例の行動だ。


 しかし、だからといってニュートンにリーダーの資質がないとは言えない。彼は例えればオーディオアンプのようなプレーヤーだ。自軍の調子がいいときは、それを増幅してもっとよいパフォーマンスを見せる。
 ディフェンスがビッグプレーを連発し、インターセプトやファンブルリカバーなどのターンオーバーが+20と、NFL最多のパンサーズは、ニュートンの能力を最大に引き出すフットボールをしていると言っていい。そして先手を取ってスコアを積み重ねて、どんどん流れを有利にする。シーホークス戦、カージナルス戦はそういうゲームとなった。


 パンサーズ攻撃コーディネーターのマイク・シューラの手腕も見逃せない。シューラがQBコーチとしてパンサーズに移った年に、ニュートンがプロ入りした。
 以後ずっとニュートンを育ててきたシューラは、ジェットモーションなどを多用し、ボールをどんどん動かすカレッジライクなオフェンスを展開した。パンサーズのランプレー526回はNFL最多。リスクを分散し、その中でニュートンには、できることを確実にやらせ、公式戦でリーグ最多500得点のオフェンスを築き上げた。


 シューラは、ドルフィンズなどを率いてNFL史上最多328勝の名将ドン・シューラの息子だ。兄のデビッドはベンガルズで30代の若さでHCになったが結果を残せないまま、フットボール界を去った。
 マイクは、アラバマ大でのHC経験こそ持っているが、兄とは違いNFLではHCに昇格せず、ポジションコーチやオフェンスコーディネーターとして着実に結果を残してきた。


 鍵を握る対戦相手ブロンコスのディフェンスコーディネーター、ウェード・フィリップスも、オイラーズ(現タイタンズ)などでHCを務めたバム・フィリップスの息子。比較的目立たないこの二世コーチの頭脳戦が、第50回スーパーボウルの帰趨に大きく関わっている。


 ブロンコスが勝つためには、オフェンスもディフェンスもミスをしないこと。そしてどんなに進まれても、FGで止めてTDを許さない「曲がっても折れないフットボール」を展開することだ。その上で前半にリードを奪える展開に持ち込みたい。一方、パンサーズはもっとシンプルだ。とにかくニュートンを気持ちよくプレーさせることだ。


 パンサーズがスーパーボウルに勝てば、ニュートンは、1984年第18回スーパーボウルのジム・プランケット(レイダーズ)以来32年ぶりにハイズマンウィナーのスーパーボウル勝利QBとなる。
 プランケットはドラフトでも1位指名を受けているが、スタンフォード大時代は全米王者とはなっていない。大学王者、ハイズマン賞、ドラフト1位、そしてスーパーボウル優勝というQBは過去に例がない。天衣無縫のニュータイプのQBが歴史を塗り替えるか。全世界が注目するキックオフはもうすぐだ。

【写真】ニュートンの周りには多数の報道陣が詰めかけた(AP=共同)