年末年始は米国のカレッジフットボールを中心にボウルゲーム三昧だった。日本のライスボウルと併せて、ボウルゲームに出場したQBの悲喜こもごもについて語りたい。


 ▽強豪の洗礼浴びた二人
 2016年のNFLドラフトは、「QB不作の年」と言われる。そんな中、評価が高かったのはパクストン・リンチ(メンフィス大)とコナー・クック(ミシガン州立大)だ。その二人がボウルゲームでは、サウスイースタンカンファレンス(SEC)所属の実力校相手に、苦杯をなめることになった。


 リンチのメンフィス大は「バーミンガムボウル」でオーバーン大と対戦した。リンチは201センチ、111キロと大型の割には強肩、俊足で運動能力が高い。
 12試合で28タッチダウン(TD)を挙げながらインターセプトはわずか3本と正確なパス能力も評価されていた。公式戦終了段階では、ドラフト全体1位指名と予想するサイトも多かったほどだ。


 一方で問題もあった。メンフィス大はアメリカンアスレチックカンファレンス(AAC)に所属するが、AACは強豪校や伝統校が少なく、レベルの点で疑問視される部分があった。
 対戦相手のオーバーン大は、カレッジフットボールきっての強豪カンファレンスSECでコンスタントに好成績を残している実力校で、リンチの真の実力を見極めるには格好の相手だった。


 結果は散々だった。リンチはオーバーンのディフェンス陣に追い回され、パス37回中、成功は16回。108ヤードは今季ワーストで、TDはなく、1インターセプトを喫した。試合後リンチは「自分自身に、本当に失望した」とコメントした。


 コナ-・クックにはもっと厳しい相手が待っていた。全米3位のミシガン州立大は、全米王座を決めるカレッジフットボールプレーオフ(CFP)準決勝の「コットンボウル」で、全米ランク2位のアラバマ大と対戦した。アラバマ大は攻守に大型ラインをそろえ、ディフェンスの強固さはカレッジ随一という難敵だ。


 ミシガン州立大は前半終了間際0-10とアラバマ大にリードされながら、クックがツーミニッツオフェンスを展開、TDを狙える位置まで進んだ。
 しかし、前半残り12秒でエースWRのアーロン・バーブリッジを狙ったクックのパスがエンドゾーン直前でインターセプトされてしまう。クックはずっとバーブリッジを見つめたままだったため、完全にプレーを読まれていたのだ。


 ミシガン州立大のランオフェンスは、アラバマ大ディフェンスに阻まれほとんど進めず、クックのパスに頼るしかなかった。だが、もともとディフェンスとボールコントロールで勝負してきたチームだけに、無理な展開となった。
 後半に入ると、クックは激しいプレッシャーを受けてコントロールが狂い、さらに1インターセプトを喫した。0―38と大差でアラバマ大に屈した。


 ▽予想外の活躍見せた日米の二人
 アラバマ大が、ハイズマントロフィー(全米最優秀選手賞)を獲得したRBデリック・ヘンリーを擁し、ゴリゴリのランオフェンスでミシガン州立大を攻略したかといえば、そうではなかった。
 4年生のQBジェイク・コーカーの絶妙なパスが要所で決まり、ミシガン州立大を突き放した。コーカーはパス286ヤード、2TD。今季ベストの成績だった。


 長身強肩のコーカーは、3年前まではフロリダ州立大に在籍していた。素材は認められながらEJマニエル(現ビルズ)、ジェーミス・ウィンストン(現バッカニアーズ)というスターQBのバックアップで終わった。
 卒業後、カレッジでプレーする権利を残していたコーカーはアラバマ大に入学、エースQBを目指したが、モバイルタイプのQBブレーク・シムズに後れを取り、またしてもバックアップとなった。


 大学での選手生活5年目の今季、ようやく先発を勝ち取ったが、アラバマ大のオフェンスはランが中心。コーカーが目立つシーンは少なかった。待ちに待った大舞台で、本来の能力を発揮したコーカーは満面の笑みを浮かべた。


 コットンボウルの12日後に王座決定戦が控えているアラバマ大にとって、今回のコーカーの活躍は大きい。パワー型ラッシャーのヘンリーを、ある程度温存できたからだ。
 カレッジでは目立った通算成績のないコーカーがNFLに行けるかは微妙だ。次戦、クレムソン大との決勝戦が、大観衆の前でフットボールをする最後の機会になるかもしれない。注目したい。


 予想外と言えば、1月3日、日本選手権「ライスボウル」で社会人王者のパナソニックをあと一歩まで追い詰めた立命大。オフェンスの立役者はQBの西山雄斗だった。
 立命大は大型で強力なディフェンスラインと、大学ナンバーワンRBの西村七斗が武器。QBのパスはそれほど期待されていないという点ではアラバマ大に似通っていた。


 その西山が活躍した。前半の途中で頭を打って退く場面もあったが、パスでは対戦相手のパナソニックのQB高田鉄男を上回る207ヤードを獲得。ターンオーバーはなく、第4クオーターにはWR猪熊星也に、54ヤードの逆転TDを決めた。
 再びリードを奪われた最後のドライブでも冷静にオフェンスをリードし続けた。


 西山はまだ2年生。今回の経験を糧に一段と成長が期待される。学生だけでなく日本を代表するQBになるかもしれない。


 ▽チームを救った、控えの4年生
 今回のコラムはライスボウルの西山の話題で終わるつもりだったが、帰宅後米のボウルゲームでもう一つのドラマがあったことを知った。
 テキサスクリスチャン大(TCU)とオレゴン大の「アラモボウル」は、TCUが31点差をひっくり返す大逆転だった。そこには映画のようなドラマがあった。


 TCUのエースQBトレボーン・ボイキンは試合直前の12月31日未明に、ボウルゲーム開催地のテキサス州サンアントニオのバーで酔って喧嘩。巡回中の警官まで殴って、逮捕された。容疑は第3級暴行罪。すぐに保釈されたが、前代未聞の不祥事に、チームはボイキンを出場停止にした。


 ボイキンは、過去2年間エースとして活躍し、先発した試合は22勝2敗。今季はパス3575ヤード、ランで612ヤード、ランとパスで合計40TDを記録し、シーズン序盤のハイズマン賞ランキングではトップを走っていた。NFLも注目する米カレッジフットボール界きってのスター選手だった。


 チームの大黒柱を考えられない不祥事で欠いたTCUは、オレゴン大に惨敗すると思われた。試合が始まると、第1クオーターだけで3本のTDを奪われ、前半終了時には0―31。やはりという内容だった。


 しかし、後半流れが変わる。オレゴン大がQBバーノン・アダムス・ジュニアを負傷で欠き、オフェンスが手詰まりになる。一方で、TCUは、この試合が初先発のQBブラム・コールハウゼンのパスとランが決まるようになる。
 コールハウゼンの2本のTDなどで反撃すると、残り19秒で同点のFGを決め、31―31で延長タイブレークに持ち込んだ。


 延長3回の裏。コールハウゼンは右に持ち出すとサイドライン際を走り抜けた。彼にとって大学生活最後のプレーが劇的な決勝のTDとなり、TCUがオレゴン大を下した。カレッジフットボールのボウルゲーム史上タイの最大点差逆転勝利となった。


 パスで2TD、ランで2TDを挙げ、ヒーローとなったコールハウゼンは試合後、場内警備の係員に頼んで、母のドナさんをフィールドに招き入れた。母と子は抱き合って泣いた。
 コールハウゼンの父ビルさんは昨年11月7日にがんでこの世を去っていた。コールハウゼンは「父にはここにいて、何が起きたか見届けてほしかった。でも、天国から見てくれていると信じている」と語った。


 コールハウゼンは、当初ヒューストン大に入学したが退学。ジュニアカレッジを経てTCUに入学した。ウォークオン(特待生ではない一般入部)ながら、ボイキンの控えQBを2年間しっかり務めてきた。


 コールハウゼンは、試合後の記者会見で「31点差は逆転できると皆信じていた。疑う者は一人としていなかった」と熱く語った。
 ヒューストン大時代も含め、NCAAフットボールでは一度も先発経験がなかった男が、大舞台で最高の仕事をやってのけたのだった。


 4年生のバックアップQBが示した底力。コールハウゼンは99%NFLには行かないし、日本の大半のアメフットファンにも知られずに終わる。そういう選手、そういうフットボールの存在を伝えることも、我々の仕事だろう。


 夢想を許していただければ、そんな選手が日本のXリーグでプレーしてくれないかとも思う。

【写真】アラバマ大に大差で敗れたミシガン州立大(AP=共同)