今季のXリーグのセカンドステージの組み合わせが確定したときから、ノジマ相模原ライズ対アサヒビール・シルバースターの一戦が、シーズン全体の鍵を握ることはわかっていた。
 今春の交流戦ではアサヒビールが大勝したが、まったく予想材料にはできない。そして、11月8日、富士通スタジアム川崎のゲームは最後のプレーまで勝敗がわからない戦いとなった。


 先週のコラムで書いた通り、強いディフェンスとランオフェンスを併せ持ったチームが、パスオフェンスに頼るチームと戦った場合、前者が勝つのがアメリカンフットボールの鉄則だ。
 私は、ライズの勝利を予想した。とはいえ、それは小差でロースコアの場合だ。アサヒビールのQBメイソン・ミルズが序盤から畳みかけて2本、3本とタッチダウン(TD)パスを決める展開になれば、アサヒビールが有利になる。


 そしてゲーム開始直後のアサヒビールのドライブでは、その通りに展開した。ファーストダウンでRB柳澤拓弥が24ヤードのロングゲイン。このランで波に乗ったアサヒビールオフェンスは、ミルズが3回連続でパスを成功させ、先制TDを奪った。
 しかし、アサヒビールのオフェンスがオフェンスの体をなしたのは、このドライブが最初で最後だった。


 ノジマ相模原のディフェンスは完ぺきだった。昨シーズン、富士通QBコービー・キャメロンを最も苛立たせ、今季ファーストステージではオービックオフェンスから5インターセプトを奪ったパスディフェンスがミルズを幻惑した。
 3ポイントでセットしているDLは3人、LBは外からラッシュを仕掛けたり、カバーに下がったり、とにかくせわしなく動く。そして、400ミリ望遠レンズでQBをアップで追っているために、ミドルからディープでレシーバーをどのようにカバーしているのかが分からなかった。
 ただミルズがパスを投げられず、レシーバーを探して左右に逃げ回りながら結局は投げ捨てるシーンが続いた。スクランブルしてもDBの上がりが早く、ヒットを避けてスライディングせざるを得ない。


 ノジマ相模原はランへの備えも怠りなかった。RB柳澤は、ダウンフィールドに出てしまえば、抜群のスピードで走り回る厄介な相手だ。しかし元々はQBのためか、OLのブロッキングを生かしてラインオブスクリメージ(LOS)を抜けるクイックな走りはうまくはない。
 その柳澤のランを、DL鈴木修悟やLB田中喜貴、矢口俊太が、早い潰しで出させなかった。柳沢は1プレー目の24ヤードのランの後は、9回でわずか2ヤードで、半分がロスヤーデージという結果だった。


 後半になると、スタミナの切れないノジマ相模原DLのパスラッシュがミルズを圧迫するシーンが増えた。ミルズは逃げ回り、フラストレーションをいっぱいためて、サイドラインに引き下がる。それが繰り返された。
 アサヒビールのオフェンスは、先制TDのドライブを除けば、計14回のドライブでパント12回、ターンオーバー2回で、わずか68ヤードしか進めなかった。この間、ミルズのパスは6/22で成功率27.3%、獲得距離は28ヤードだった。


 ノジマ相模原の加藤慶ディフェンスコーディネーターは「うちのチームは試合への入りがふわふわしたところがあって、最初のシリーズはやられたけど、それ以後はプラン通りに全員が同じイメージを持って、集中してやってくれた」という。
 今春の交流戦ではミルズとWRのローマン・ウィルソンにやられたノジマ相模原。とにかく、この二人を気持ち悪くさせようというのが、この試合のディフェンスのテーマだった。
 「レシーバーをどうカバーしたかとか、詳しい戦術は話すわけにはいかないが、QBをいらいらさせたり、何が起きているのか分からなくさせたりすることができたと思う」と満足げだった。


 しかし、一方で、ノジマ相模原もオフェンスが機能しない点ではアサヒビールと変わらなかった。先発QBのベンジャミン・アンダーソンは、前半で早くも交代。変わって出てきたのが、かってのエースQB、ベテランの木下雅斗だった。


 ノジマ相模原がX1に昇格した時代からの大黒柱も、昨シーズンは大型パサーの荒木裕一朗が入団、そして米国からアンダーソンが加入し、オフェンスの中心から外れて出番は極端に減った。
 試合によっては事実上4番手となり、今シーズンの出場は、9月の警視庁戦の1ドライブ、5回パスを投げただけだった。


 木下のこの日のパフォーマンスは必ずしも冴えていたわけではなく、同点TDを狙ったパスをエンドゾーン内でインターセプトされるなど、2インターセプトと粗っぽさは変わらない。
 だが、元エースのパスとランを織り交ぜたメリハリのあるクオーターバッキングは、ノジマ相模原オフェンスにリズムを与えた。


 第3クオーターの中盤からはノジマ相模原のインサイドのランが出始める。LB田中のインターセプトで得たチャンスを、小柄な若手RB富澤友貴のクイックヒットで同点TDに結びつけた。
 延長タイブレーク、富沢は2回のランで25ヤードを走り、チームに決勝のTDをもたらした。最終スコアは14―7。最後のプレーでボールをファンブルしシーズンエンドとなったアサヒビールQBミルズはフィールドに座り込み立ち上がれなかった。


 木下は「いいところがなかった。気持ちの上では準備はできていたつもりだが、試合勘が全然だった。あれ(TDを狙ったエンドゾーンでのインターセプト)は確実に決めないといけないパス」と、反省の弁。目の前の1プレーをどれだけできるかで精いっぱいで、「メリハリがあったように見えたとすれば、富沢とか松尾(海太、WR)とか、若い選手の頑張りに乗っかっていっただけ」という。


 立命大からオービックを経てノジマ相模原に入団、ラン、パス両方に優れた能力を持つ木下だったが、肝心な場面で無理をする悪癖があった。
 公式記録にはこの試合3インターセプトとなっているが、木下の名誉のために言えば、ノジマ相模原3本目のインターセプトはスペシャルプレーでパスを投げたRB東松瑛介が喫したものだ。木下のパスが粗いという先入観が記録員にもあったのではないか。


 そんな木下だが、今回のアサヒビール戦に向けてスカウトチームでQBを務めてきた。「仮想ミルズの役で、ディフェンスとずっと一緒に根を詰めて練習してきた。今日のディフェンスがこれだけ結果を出せて、それに貢献できたとすればすごくうれしい」とそこだけは笑顔を見せた。


 両チーム合わせてパントが23回、反則による罰退がノジマ53ヤード、アサヒビール77ヤードというオフェンスにとって厳しい展開となったゲーム。「be patient(忍耐強く)」を貫くことができたのがノジマ相模原だった。
 止められても止められても、愚直にインサイドのランをコールし、OLが押し続けた。それが後半のRB富澤のランに結実したように思う。。


 この試合の結果、ノジマ相模原は、富士通、パナソニックとともに、2012年以来3年ぶりの4強を決めた。
 選手層の厚さで、2チームより劣るのは否めないが、エースQBが4番手に落ちても決して腐ることなく自分の仕事に徹するというのは、チームの士気が高い証拠だ。


 ノジマ相模原は、複雑なリーグ規定によってパナソニックと、セカンドステージ第3戦、準決勝と連続で戦うことが決定している。「魔術師」加藤コーディネーター率いるディフェンスが、強くて大きくて速いパナソニックオフェンスを、罠にはめることができるのか。注目したい。

【写真】第3Q、アサヒビールQBミルズのパスをインターセプトしたノジマ相模原LBLB田中=撮影:Yosei Kozano