日本社会人アメリカンフットボールXリーグの第5節、10月17日に富士通スタジアム川崎で行われた東地区の富士通フロンティア-ズ対オービック・シーガルズの一戦は41-7で富士通が圧勝した。
 日本のアメフットをリードする「2強」の対決は思わぬ大差となった。試合のスタッツでは、印象としては400ヤード近くパスを決めたように感じた富士通QBコービー・キャメロンのパス成績が、実際には252ヤードだった。


 キャメロンは「スタッツはそこそこでも、強敵に勝ったことがうれしい。(オービックの)ディフェンスがとても強かったから」と控えめに語った。


 この試合、キヤメロンの存在感は際立っていた。最初のドライブでは、サックされファンブル、ターンオーバーを許し、オービックに先制タッチダウンを許すきっかけとなった。
 しかし、ミスはそれだけだった。DLケビン・ジャクソン、バイロン・ビーティー・ジュニアらの強力なパスラッシュに対抗して、キャメロンはクイックリリースでパスを決め続けた。そして普段は見せないランまで繰り出した。「ディフェンスのマンツーマンが厳しくて、レシーバーをなかなか探せなかった。だから走った」という。


 象徴的なプレーがある。第1クオーター、右サイドに走り出たQBのキープで、追いかけてきたオービックのLB古庄直樹を、キャメロンはスティフアーム一発で突き倒した。いつもの柔和な表情はなく、鬼の形相だった。そんな姿を藤田智ヘッドコーチ(HC)は「プレーぶりが、火を噴いていた」と表現した。


 対照的だったのがオービックのオフェンスだ。ファンブルリカバー直後のオフェンスこそTDに結びつけたが、QB畑卓志郎が序盤でターンオーバーを連発し、負傷退場した。
 代わった菅原俊は、ドライブの途中で反則やミスが出て攻めきれない。リーグ屈指のパスラッシャー平井基之を負傷で欠きながら、日本人DLだけでQBに圧力を加えられる富士通の層の厚さが、LBトラショーン・ニクソン、DBアルリワン・アディヤミらがミドル、ディープを広く守る布陣を生んでいた。奥に投げ込めず、焦るオービックオフェンス。結果は、被サック6、インターセプト4という数字となって表れた。


 オービックのディフェンスが決して弱かったとは思えない。QBを中心とするオフェンスが、強力なディフェンスをコントロールできたか否か、それが結果に結びついたとしか思えなかった。


 優れているのはプレーだけではなかった。試合後のあいさつでは、キャメロンは列の一番端にたたずみ、自分の手柄は誇らず、仲間の活躍を祝福した。
 スタンドの外では、長い列を作ったファンとの撮影に最後まで対応していた。中には、オービックのメガホンを持ったファンもいた。相手チームのファンからもリスペクトされる、そういう存在に「日本人QBは、米国人QBには勝てない」という考えが頭から消えなかった。


 翌18日、横浜スタジアムで行われた中地区のIBMビッグブルー対LIXILディアーズの一戦。両チームは2013年のセカンドステージ以降4回目の顔合わせで、IBMが圧倒的なパス攻撃でLIXILを破る戦いが続いている。
 高いパス能力を持つ米国人QB対日本人QBという図式は同じで、前日のような試合が繰り返されるのでは、と予想していた。


 第1クオーター、IBMは、QBケビン・クラフトからWR栗原崇へのホットラインで、先制TD。しかし、LIXILは直後のキックオフリターンで、永川勝也が74ヤードを走ってTD、同点とした。
 LIXILディフェンスは、次のIBMのドライブを3&アウトに抑えると、QB加藤翔平のパスで進み、RB前川真一のTDランで逆転した。
 その後、両チームは1本ずつフィールドゴールを決め、LIXILが17―10とリードして迎えた第2クオーター残り4分過ぎのドライブが見せ場となった。


 ディフェンスがIBMのオフェンスをまたしても3&アウトに抑えた直後、LIXILはリターンチームが、IBMのパンター原秀星にプレッシャーをかけて、ミスパントを誘った。
 IBMは10ヤードしか挽回できず、LIXILオフェンスは相手陣29ヤードからの絶好のポジションを得た。前半終了まで3分36秒、じっくり時間をかけて、できればTDを獲りたい局面だ。

 LIXILはWR島優人へのパスでレッドゾーンに進入、その後2プレーでランを選んだがボールは進まず、しかし時間を潰した。
 残り1分余りとしたサードダウン10ヤード。IBMディフェンスは今季加入のデメトリウス・イートンがLBの位置からインサイドブリッツを仕掛けた。ブロッカーは誰もいない。しかし加藤は落ち着いてイートンの頭越しにパスを投げた。


 ボールの方向に、レシーバーが走り込んでくるのが見えた。WR前田直輝だった。リードボールをキャッチした前田はそのまま減速することなくエンドゾーンに走り込んだ。米国人選手の強いパスラッシュを手玉に取った技ありのTDだった。
 トライフォーポイントも決まってLIXILは24―10とIBMを突き放した。勝負を左右する、重要なTDを最高の形で決めた。


 後半、最初のドライブ、LIXILはしっぺ返しを食らう。左にロールした加藤のパスをIBMのDLジェームス・ブルックスが手を伸ばしてはたいた。軌道が変わったパスを、LB岸本祐輔がインターセプトした。
 IBMはRB高木稜の48ヤードの快走でTDを奪う。キックは失敗したが24―19と差を詰めてきた。しかし、次のオフェンスでQB加藤が再び活躍する。RB丸田泰裕のランとTE吉田武蔵へのパスで前進すると、ポストに走りこんだWR宮本康弘に37ヤードのロングパスを決めてTD。IBMを再び突き放した。
 その後、ディフェンスの好プレーに支えられたLIXILは33―25でIBMを破った。中地区で2位になっただけでなく、IBMへの苦手意識を払しょくした価値ある勝利だった。


 試合後前田は、第2クオーター終盤のTDパスについて「(IBMのディフェンスが)マンツーマンだったので、ブリッツが入るはずだった。速いタイミングでパスが来るとわかっていたが、リードボールでベストのパスが来た。してやったりです」と語った。


 加藤は、IBMイートンのブリッツを恐れずに落ち着いてパスを投げた場面を「パスラッシュでディフェンスが一人入ってきても、他の場所ではOLが頑張ってきちんと取れていたので逃げるスペースもあった。落ち着いて決めることができた」という。


 この試合、LIXILオフェンスのTDは、IBMオフェンスを3&アウトに抑えた直後が2回、タッチダウン後が1回。加藤は、後半ミスも犯したが、ディフェンスが作った試合の流れを確実につかむ、あるいは悪い流れを断ち切るという意味では、試合をコントロールする効果的なTDを決めた。


 東、中地区のセカンドステージ進出6チームのうち、米国人QBがスターターのチームは4チーム。今季初めて日本人QBとして米国人QBに勝った加藤は「意識していないといえば、嘘になる。確かにチーム作りの上でQBの比重は大きい。だからといって全部のチームがアメリカ人のQBということになってはいけない。アメリカンフットボールは、アメリカ人QBだから勝つのではなく、チームとして強いから勝つ。僕らがそれを証明できたとしたらうれしいし、頑張らなければいけない」という。


 私個人としては、優秀な米国人選手の参戦には肯定的だ。そもそもフィールドの上では、国籍や人種は関係がないと考えている。
 一方で、世界選手権や国際試合があって、日本代表がある以上、日本人のQBが育ち、活躍できる環境もどこかで必要だろう。


 キャメロン、クラフト、メイソン・ミルズ(アサヒビール・シルバースター)、ベンジャミン・アンダーソン(ノジマ相模原ライズ)ら、米国人QBが席巻したファーストステージだったが、彼らの長所とは、パスなどの技量以上に試合をコントロールする力だろう。米国で、QBを「フィールドジェネラル」と呼ぶゆえんだ。日本人QBがこの力を得ることは可能なのか。


 あるチームの指導者にこの疑問をぶつけた。「アメリカ人のQBと同じようにパスを投げろとか、同じように走れと言われてもそれは無理だろう。しかし試合を支配する能力を身に付けることはできると思う。オフェンスを学び、練習をして、スナップの前からディフェンスをしっかり読む。そういう努力を続ければ試合をコントロールできるようになる。パナソニックの高田鉄男選手がXリーグに入ってきたときがそうだった。他のチームのディフェンスは彼を止めることができなかった。かつての東野(稔)、金岡(禧友)、東海(辰弥)さん、松岡(秀樹)さんもそうだった。決してできないとは思わない」という返答をもらった。
 15分クオーターになるセカンドステージ。日本人QBの試練はさらに続く。

【写真】「2強」の対決は思わぬ大差がついた=撮影:Yosei Kozano